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下北沢「B&B」経営者に聞く「アマゾンで買えない価値」の正体…本屋を救え!に3700万円集まる

本

緊急事態宣言下で、なぜか無性に本屋に行きたくなりませんでしたか?

画像:取材者提供

緊急事態宣言を受けた休業で、多くの書店が打撃を受けた。日本出版販売の調査によると、2020年4月の店頭売り上げは、コミックを除き前年同月の売り上げを10%超下回った。

営業の継続が難しい状況に陥った書店を救うべく、有志の作家や編集者などが立ち上げたクラウドファンディング「ブックストア・エイド基金」には、5月26日時点で3200人を超える応援者から約3700万円もの寄付が集まっている。

街の書店は今後どうなるのか。ブックストア・エイド基金の立ち上げメンバーの一人であり、自らも『本屋B&B』を経営する内沼晋太郎さんに話を聞いた。

コロナ前からずっと厳しい書店業界

内沼晋太郎さん

内沼晋太郎さん:1980年生まれ、一橋大学商学部卒。ブック・コーディネーター、クリエイティブディレクター。numabooks代表、「本屋B&B」共同経営者。ほか、青森県八戸市の公共施設「八戸ブックセンター」ディレクター、読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサーなどをつとめる。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』など。

画像:取材者提供

—— ブックストア・エイド基金に、3200人超から約3600万円(5月26日時点)という金額が集まっています。この金額をどのように受け止めていますか?

まずは本当に嬉しく思っています。「どの本屋もなくしたくない」という僕らの気持ちに共感してくれる人がこんなにたくさんいると気づけたことは、非常によかったです。

ただ目標は6000万円ですし、同じ思いを持っている方はもっといるはずだとも思っています。日数は残りわずかですが、最後まで支援を呼びかけていきたいです。

—— どの書店も、経営的にはかなり厳しい状況なのでしょうか。

そうですね。もともと儲かっている本屋なんてないんです。

外出自粛に伴って本の巣篭もり需要が高まったという報道もありましたが、業界としてはコロナ前からずっと厳しい状況が続いています。本の売り上げだけが収益源の場合、10%でも売り上げが落ちたらやっていけない店舗も多いです。この緊急事態宣言で、営業しても休業しても、ほとんどの本屋は厳しい状況にあると思います。

ただ、それぞれの本屋が何に困っていて、どんな支援を必要としているかはケースバイケースです。

例えば、賃貸の物件を借りていて、本を売ることだけで成り立っている本屋というのは、みなさんが想像するよりたぶんずっと少ないと思います。雑貨など他のものも売っていたり、カフェを併設していたり、街のイベント運営など何か別の仕事を受託していたり、複合的な売り上げで成り立っているお店も多い。「本屋には今こんな苦しみがある」と一概に言うことはできません。そもそも新刊書店と古書店ではビジネスモデルもまるで違います。

そのため、本屋業界全体で一枚岩になりにくい部分は正直あります。

でも、本屋は多様であるからこそ面白い。今回のブックストア・エイド基金でも、店舗間に線を引くようなことはしたくありませんでした。「実店舗がある」ことだけを唯一の参加条件にしているのは、多様な存在としての本屋が街の中にある風景を、丸ごと守りたいという思いがあるからです。

「本屋にいけないストレス」の正体

B&Bの店内

内沼さんが運営する、東京・下北沢の「本屋B&B」の店内。

画像:取材者提供

—— 近所の書店にアクセスできなくなったことによって「書店に行けないストレス」を感じました。本はネットで買えるにも関わらず、なぜそうした感情が生まれるのでしょうか?

本屋に行けないストレスを感じている人は、必ずしも本屋に何か特定の本を探しに行けないことを苦しんでいるわけじゃないのだと思います。

そこに行くと自分の知らないことを知れたり、こういう世界があるんだと気付けたり。持ち帰る本の話だけではなく、そういう場所を歩き回る楽しさが奪われていることへのストレスだと思います。

ブックストアエイド基金の立ち上げメンバーの一人である、「本の読める店 fuzkue」店主の阿久津隆さんは、本屋の本棚のことを「限りなく自然物に近い」と言っていました。

風に揺れる木々のかたちが変わるみたいに、本屋に行くとちょっとずつ棚の配置が変わっている。その中で、自分が欲しいと思うものを見つけたり、ある日初めてその本の存在に気付いたり。行けば行くほど、毎回気がつくものが違う。山に入って行く楽しさみたいなものが本屋にはあります。

僕は本屋に行くことを自著の中で「一番身近な世界一周旅行」と書きました。世界のあらゆることについて書かれた本に、本屋を一周するだけで触れられる。しかも街の中で、その扉はずっと開かれている。

そういう場所が日常の中にあるのは、すごく豊かなことです。その豊かな世界は、大小問わずどんな本屋にもある。だから僕たちは、どんな本屋さんも失くしたくないんです。

—— アマゾンには代えられない価値が、街の書店にはあるということですね。

はい。もしアマゾンしかない世界だったら、自分から欲しい本や気になるテーマを検索できる人や、本の情報がSNSのタイムラインにどんどん流れてくる人しか、本に辿り着けなくなってしまいます。一冊の本を手にして読むところから先は同じでも、そこまでのプロセスは、ネットで購入するのと本屋に行くのとでは全然違う体験だと思います。

並んでいる本は他の本屋でも売っているものだったとしても、そこにある本が何十冊、何百冊といった限られた冊数だったとしても、人と空間が介在して本が買える場所があるということが、その周りに住んでいる人たちに与える価値は非常に大きい。

今回のことをきっかけに、自分が大切にしたい本屋で本を買うことを習慣にする人が一人でも増えたらと思います。

本屋

B&Bの入り口。イベントも多数運営している。

画像:取材者提供

—— 内沼さんから見て、消費者の感情に変化はあったと思いますか?

僕らは家にこもったことによって、都市を出歩かなくなりましたよね。そのことで、お金の使い方が変わってきた気がしています。

成熟した都市は、歩くだけで物が欲しくなるようにできています。喉が乾いたらすぐそこに自動販売機があるし、この街をもっと自信をもって歩きたいからと高い洋服を買いたくなる。都市によって消費のスイッチを押され、欲しくなったものを買わされるのが、ごく一般的なお金の使い方でした。

けれど、その「欲望を喚起する場所」を歩けない日々が続きました。受動的にお金を使う機会が少なくなったことで、相対的にみんなのお金の使い方が少し能動的になったように思います。「どうせ買うならこの人から買おう」とか、「この人を助けるためにお金を使おう」とか、考える人が増えたのではないでしょうか。

その流れで、ただ「便利だから」という理由でアマゾンで本を買うような行動は、もしかしたら変わってくるかもしれません。同じ1500円の本を買うなら、「グローバル企業を大きくするよりも、あの本屋さんが生き延びる社会を選ぼう」というように。

自分のお金の使い方が世の中を変えることに、気づきやすい時期だった気がします。ただそれだけで、全ての本屋が一気に復活するということは、もちろんないですけどね。

徒歩圏内とインターネットの向こう側

ブックストアエイド画像

ブックストア・エイド基金。すでに3700万円以上の募金が集まった。

画像:ブックストア・エイド基金クラウドファンディングページ

—— 先が見えない状況の中、書店はこれからどんな取り組みをしていくべきでしょうか?

抱えている問題は本屋によってそれぞれですが、コロナを体験した全世界のリアル店舗が共通して取り組むべき課題はあると思います。

一つには、徒歩圏内のお客様との関係性を深めること。もう一つは、インターネットの先にいるたくさんの人たちに何ができるかを考えることです。

とくに本はどの店で買っても中身が一緒ですし、新品だと値段も決められているので、本屋は商品の「中身」でも「値段」でも勝負できません。だからこそ、「この本屋さんで買いたい」と思ってもらえる関係性を作ることが大事です。

—— インターネットでできることとは、具体的にはなんですか?

それは難しい質問です。先ほども言った通り本屋は多様で、誰がやっているかによって、100人いれば100通りの本屋があります。そしてそれぞれの本屋がつくるリアルな空間にこそ、その価値が凝縮されているものだと思っています。

なので少なくとも、ただ本を売るECをやればいいということではないはずです。その本屋のもつ本質的な価値を、単にリアルの劣化版としてではなく、いかにオンラインならではの形で遠くに届けるか。それぞれの本屋が、自分の得意なことや詳しいこと、あるいはすでに築けているお客さんとの関係を生かして、オンラインでできることを見つけられると、また次にこのような事態が訪れたときにも慌てずに対応できるようになります。

本屋が多様だということは、全ての本屋に有効なノウハウはあり得ないということです。簡単ではないですけど、みなゼロから考えていくのだと思います。

(文・一本麻衣、編集・西山里緒)

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