HSBCはパンデミック後の経済活動についてレポートを作成した。
Screenshot of HSBC 'After the pandemic' report
- われわれはパンデミック前の世界には戻れない。
- HSBCグローバルリサーチが、パンデミックは最終的に世界経済をどう変容させ、企業の職場環境や働き方をどう変えるのか、17ページのレポートを発表した。
- レポートを端的に整理してみた。
新型コロナウイルスの影響は今後も長く続く。英金融大手HSBCのアナリスト部門(同グローバルリサーチ)は、ビジネスのやり方が変わるだけでなく、社会のあり方まで変えると予測する。
HSBCグローバルリサーチは世界24カ国に350人超アナリストを抱え、マーケットトレンドを正確に把握することに注力している。現在の気候から過去に地球上で起きた危機までデータにもとづいた比較を行うことで、ポストコロナの時代にどんなことが起きるのか結論を引き出した。
HSBCのシニアエコノミスト、ステファン・キングはレポートで次のように指摘している。
「経済的な制約にせよ、ソーシャルディスタンシングの限界にせよ、何らかの理由で適切なロックダウンを実現できなかった国は、おそらく経済的により大きなダメージを被ることになる。市民の生活を支えつつビジネスを維持することに成功した国は、より実効性の高い「未来への架け橋」を築くことができるだろう」
Business Insiderはこのレポートを整理して、最も重要と思われる3つのポイントにまとめてみた。登場する数字は、欧州疾病予防管理センター(ECDC)、イギリス政府、国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」、もしくはHSBCの法人顧客からの提供データによる。
パンデミックは「反グローバル化」の波を加速した
3月13日以降、商業フライト数は劇的に減少。事実上、市場は破たんした。
Courtesy of HSBC
世界では2通りの方法でロックダウンが実施された。1つは国内あるいは州内の境界線に従うもの。もう1つは国境に従うものだ。
例えば、米政府は中国、イラン、欧州、イギリス、アイルランドからの外国人渡航者の入国に制限をかけている。また、米疾病予防管理センター(CDC)は国民に外出自粛と不要不急の旅行を控えるよう要請している。
HSBCの予測では、これから国内の移動制限が解除されても、感染拡大の第2波を防ぐため、各国は引き続き一定の距離を置く措置を続けるとされる。このことは、3月13日の時点でビジネスとして崩壊した民間航空会社をはじめ、輸送、宇宙、旅行の各産業にとっては特に大きな痛手だ。
ほとんどの国は国境の開放を当面手控えると考えられるが、新型コロナによる経済停滞に耐える余裕のない開発途上国には、開放(して経済活性化を図る)以外の手立てはない。パンデミック後に孤立に追いやられた途上国のなかには、国際機関への不信感をつのらせている国もあるとみられる。
パンデミック前を下回る水準での経済停滞が長期化
主要国の2008年以降の債務状況(対GDP比率)。
Courtesy of HSBC
「V字回復であれ、U字回復であれ、これからどんな形で回復するとしても、パンデミックが発生しない従来のシナリオで期待されていたレベルの経済活動に戻れる可能性は薄い。そして多くの人がその事実を受け入れつつある」(HSBCのステファン・キング)
どの国でもGDPは軒並み低下する。その結果、民間企業の借金が増える。中小企業はさらなる負債を抱えるより、ビジネスを放棄する道を選ぶかもしれない。そうなれば、パンデミック後にはより多くの失業者が生まれることになる。
パンデミックの終息後には、国レベルでの借金も増加する。2008年の金融危機後にもほとんどの国で政府債務が増加しているが、今回のコロナ危機ではすでに当時の水準を超えている。
テクノロジーの発展でサプライチェーンを短縮できる
世界の貿易伸び率とGDP成長率の関係(1980年〜2019年)を示したグラフ。
Courtesy of HSBC
パンデミック後に労働環境は大きく変わる。
まず、HSBC予測によると、オフィススペースと物理的なミーティングは減る。出張コストやウイルス感染のリスクを減らすため、ビデオ会議やデジタルインフラを使った協業の比重がぐっと高くなる。日々通勤しなければならないという考えは過去のものになる。パンデミック後もリモートワークのトレンドは続く。
「企業のコストは減り、国境を超えた移動に対する制限から生まれるビジネスリスクも抑えることができる。そのいずれも享受できる上、(燃料費の削減や大気質の改善など)気候変動対策として大きなメリットを継続的に得ることも可能になる」(HSBCのステファン・キング)
パンデミックによってほとんどすべての業界でサプライチェーンが痛手を受けたが、テクノロジーのテコ入れによってサプライチェーンの短縮あるいは圧縮に成功しているところもある。
ただし、テクノロジーによってお互いがより緊密に結ばれる一方で、逆にテクノロジーが分断を深めるけん引力になる可能性もあることには注意せねばならない。
(翻訳・編集:川村力)