5月25日に緊急事態宣言が解除され、「経済と感染症防の両立」が課題になっている。
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「オンライン申請していた政府の給付金10万円が5月20日に振り込まれました。これでもう少し頑張れます」
西日本の大学院で学ぶ中国人留学生、韓勇さん(仮名、25)は明るい声で話した。これまで学費以外の生活費は自分で稼いできたが、新型コロナウイルスの影響でアルバイトが激減し、貯金も尽きた。
中国の年金暮らしの両親に5万円を仕送りしてもらい、ぎりぎりの生活で踏ん張っていた5月、特別定額給付金の申請が始まっただけでなく、自治体の給付金申請事務のアルバイトにも採用され、希望が湧いてきた。
コロナ禍で就職活動も苦戦が予想されるが、オンライン化で上京の必要がなくなり「悪いことばかりではない」とも感じている。
弁当工場のバイト、3月からシフト入れず
感染症対策のための休業要請で、バイトを失い困窮する大学生が続出した(3月撮影、写真はイメージです)。
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韓さんは国立大学大学院の修士課程2年生。4月の緊急事態宣言を受け、キャンパスにも入れなくなり、自宅で過ごす時間が増えた。とはいえ、周囲に店舗や娯楽施設が少なく、コロナ前から遊びに出ることは少なかったため、外出できないストレスは感じなかったという。
一方で、収入問題は深刻だった。深刻、という言葉では形容できないくらい追い詰められた。
「ゼミの先生は、学生のアルバイトを好まないのです。だけど僕の両親は60代後半で年金暮らしのため、仕送りを受けていません。だから派遣会社を通じ、人目に付かなくて時給がいい弁当工場で働いていました」
工場では直接雇用されたパート労働者と、派遣会社経由の労働者は同じ作業をしていたが、雑談などから派遣社員はパートに比べ数百円時給が高いことが分かった。
「会社に確認したわけではないけど、パートさんが足りないときに、派遣の僕たちが呼ばれているんだと思います」(韓さん)
韓さんは週2回、8時間働いて月約6~7万円を稼ぎ、家賃や生活費に充てていた。新型コロナが日本経済に影を落とすようになってからも、「外食を控えて弁当を買う人が増えるだろうから、自分の仕事は大丈夫」と心配していなかったが、その見立ては完全に外れた。
3月になると工場からの呼び出しがパタッとなくなった。1回もシフトに入れない月もあり、弁当工場での収入はほぼ途絶えた。3~5月は1円も稼げない月もあり、シフトに入れても月に1~2万円分しか働けなかった。
「推測ですが、派遣の僕はパートが足りないときだけ呼ばれていたので、コロナで雇用が減る中で、(時給の安い)パート従業員が増えたか、シフトを多く入れるようになったのだと思います」
韓さんは工場の仕事のほかに、大学の研究助手としての収入が毎月2万ほど収入があった。けれど家賃と生活費には全く足りず、春先に実家の両親に事情を話し、5万円を仕送りしてもらった。それまでは家賃以外の生活費が3、4万円かかっていたが、服やお菓子の購入をやめ、「食費2万円、食費以外はほぼゼロ円」に抑えている。家賃の安いところへ引っ越しも考えたが、敷金と礼金がかかるので断念した。
その後、通っている大学院が困窮学生の授業料を半減する措置を取ったので、すぐに申請した。アルバイトも探してみたが、人手不足だった数カ月前とは状況が一変しており、求人を出していたお店は営業すらしていなかった。
市の給付金事務バイト、朝一に電話し応募
節約とダイエットのため晩御飯は鶏肉だけで済ませ、3カ月で12キロ痩せた。
韓さん提供
ゴールデン・ウイーク(GW)が明けた5月7日、大学のサイトで「(近隣の)A市が給付金事務作業のアルバイト募集」という情報を見つけた。
韓さんはすぐに市にメールしたが、既に定員に達し、募集を締め切ったとの返事だった。ただ、職員は「また募集があるときは連絡しますから」と言ってくれた。
しばらくして、市の職員から韓さんに電話がかかってきた。
「夜電話があって『また募集しますよ』って。本当に連絡をくれたんです。先着順と聞いたので、スケジュールを確認して翌朝一番に電話しました」
5月中旬、韓さんは給付金申請書の確認など事務作業のアルバイトに採用された。1カ月の短期バイトだが、7万円ほどの収入になるという。オンラインで申請していた10万円の給付金も20日に振り込まれた。
さらに政府は、新型コロナの影響で経済的に困窮する学生に最大20万円を給付することを決めた。外国人留学生だけ「成績優秀者」との要件がついていることが物議を醸しているが、韓さんは、
「実は私は入試の成績もトップで、1年次もトップクラスにいるので、対象となるようです。頑張ってきてよかった。日本政府や市役所、大学には本当に感謝しています」
と話した。
地方学生の就活「悪いことばかりではない」
夏の状況は全く分からないが、今はサマーエントリーに応募しているという。
韓さん提供
来春大学院を修了する韓さんは、就職活動の真っ最中でもある。
「もちろんコロナ不況で売り手市場は終わるでしょうが、地方の学生にとってはチャンスが広がったと考えています。就活に関しては、コロナは悪いことばかりではない」
対面での説明会や面接ができなくなり、オンライン化が進んだので、東京や関西の企業を受けるための旅費が不要になった。
「収入が激減する中で就活コストが下がり、心理的にかなり救われました」
オンライン就活では周囲の学生の様子、進ちょく状況が分からないが、何もしないよりはましだと思い、夏休みのインターンへのエントリーを始めている。
新型コロナの影響では、フリーランスや非正規労働者、中小企業の苦境が浮き彫りになり、大手企業や公務員志向が高まると予想されるが、韓さんはどうなのか。
「僕は大学院に進学したので、学生時代の友人の多くは既に働いています。彼らを見ていて、やっぱり安定した企業がいいなと思っていたんです。けれど、大手企業からベンチャー企業までオンライン説明会を多く見ているうちに、考えが変わってきました」
「これから40年働くことを考えると、良いときも悪いときもあるはずで、会社が安定していても、自分自身が興味を持って続けられる仕事じゃないと、結局続かないのではないかと。コロナの直接の影響というよりは、コロナで地方から説明会や面接にたくさん参加できるようになり、新しい見方ができるようになったと思います」
家に引きこもる生活で、食費節約も兼ねてダイエットを始めた。晩御飯は鶏肉だけの生活を3カ月続け、体重が12キロ減った。何年も前からやりたかったプログラミングの勉強も独学で始めた。
韓さんはこう話す。
「先のことは予想がつかない。不安だけど、考えると不安が募るだけだから、やれることをするしかない」
そして、
「日本には本当に感謝している。だけど僕の住んでいる地域は感染者が少ないせいか、緊張感が薄く、マスクをつけていない人も増えてきた。あと少し、もう少しみんな頑張る必要があると思います」
とも訴えた。
(文・浦上早苗)