記者会見にはNPO代表ら5人のほか、オンラインでも大学教授らが参加した。
撮影:横山耕太郎
「9月入学」について拙速な導入に反対する署名活動を行っている「#9月入学本当に今ですか?プロジェクトチーム」が5月26日、都内で会見を開いた。
同プロジェクトでは5月19日から署名活動を開始し、これまでに4123人分を集めた(5月26日現在)。署名は総理大臣宛てに提出するという。
記者会見には大学教授やNPO法人の代表者らが集まり、それぞれの視点から「9月入学」導入の問題点について指摘した。
「丁寧な発信と合意形成を」
日本大学教授の末冨芳氏。
撮影:横山耕太郎
日本大学教授の末冨芳氏は、「9月入学の議論自体は重要ですが、この混乱状況では拙速な議論を進めるべきではありません。火事場の議論で政策目的が見失われている」と指摘する。
末冨氏は、待機児童の増加や保育士・教職員の不足や義務教育の遅れなど9月入学導入には問題点が山積しているとし、「日本教育学会の試算では9月入学への移行で、最低でも6兆〜7兆円かかるとされています。経済的、社会的に負の影響が大きい」とした。
その上で、末冨氏はエビデンスに基づいた柔軟なソリューションが必要だと訴えた。
「子どもや保護者、自治体、教職員の意見を尊重し、専門家の意見も踏まえた意思決定が必要です。総理や大臣からの丁寧な発信と合意形成がなされるべきです」
「貧困家庭を助けて」
NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長。
撮影:横山耕太郎
子どもの貧困支援を行っているNPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長は、「休校により給食がなくなり、十分に食事ができていない子どももいる」と指摘した。
キッズドアでは5月、ゴールドマンサックスからの寄付を利用し、貧困家庭の子供に文房具とクオカードを届ける活動を行った。
応援パックが届いた保護者からは、「収入が激減してしまったので、早く給付金が欲しい」、「食べたいものも買ってあげられず子どもの栄養状態が心配」などの声が寄せられたという。
「困窮家庭は非常に厳しい状況にある。9月入学への移行でかかるお金を、命をつなぐことに使うべきです。この苦しい時期に議論することなのでしょうか」
学生の立場はそれぞれ「一律の移行は乱暴」
日本若者協議会の室橋祐貴代表理事。
撮影:横山耕太郎
学生など若者の声を政治に届ける活動をしている日本若者協議会の室橋祐貴代表理事は、学生らに行ったアンケート調査の結果を紹介。アンケートは5月1日~5月10 日、学生や未就学児の保護者らを対象に実施され718人が回答した。
アンケートの結果、小・中学生は「反対」が約8割だったが、高校生は「賛成」と「反対」がともに4割。大学生・大学院生では「反対」が5割、「賛成」が3割だった。
9月入学に賛成の意見としては「勉強も行事も終わっていない。ちゃんとやり直したい」(小学6年生)、「必要なカリキュラムを受けてから受験に臨みたい」(高校3年生)などがあったという。
反対意見としては、「3月卒業を目指して必死に勉強してきた。これ以上振り回さないでほしい」、「私立高校に通わせてもらっているが、9月入学になれば半年分の学費が出せるのか心配」(いずれも高校3年生)などがあったという。
室橋氏は、「それぞれの学生が置かれている状況は違っている。一律での9月入学移行は乱暴ではないか」と話した。
「オンライン教育に投資を」
Crimson Global Academyの松田悠介・日本代表。
撮影:横山耕太郎
留学支援などをおこなうCrimson Global Academyの松田悠介・日本代表は、9月入学のメリットとされるグローバル化について「留学生を増やすことにはつながらない」と説明した。
「留学に関するアンケート調査では、『留学を決断する時の阻害要因』として、『費用が高く負担が大きかった』が約7割で、『英語力の不足』も4割と多かった。留学する生徒を増やすには、奨学金や英語教育の抜本改革が必要と言える」
また留学生の誘致に関しては、大学の国際競争力を高める方が先決だと指摘する。
「世界大学ランキング(2019年)では東京大学が36位。欧米諸国から見れば、日本の大学で学ぶ一般的な魅力があるようには考えにくい。まずは『教育の質』を高める必要がある」
また松田氏はオンライン教育への遅れを指摘し、「現在のオンライン教育は、コンテンツの質が低い。9月入学の前に、コンテンツ開発に投資を行うべきだ」と訴えた。
「まずは急を要する対応を」
Demo代表で教育ファシリテーターの武田緑氏。
撮影:横山耕太郎
教育関係者向けの研修などを行うDemo代表で教育ファシリテーターの武田緑氏は、「教育現場の声を聞いてほしい」と話した。
武田氏が5月24日と5月25日に行った、小中高校の教職員向けのアンケートには1276件の回答があった。
アンケートの結果、反対が53%で最多で、賛成が24%、どちらともいえないが23%だった。
「急きょ実施したアンケートだったが、1200人以上からの回答がありました。現場の声を伝えたいという気持ちの現れだと思います。
アンケートの結果は割れているが、共通しているのは、『学びの遅れと広がった教育格差をどうにかしたい』、『現場は混乱しており、落ち着いて仕事にあたれる見通しを持ちたい』などの思いです」
武田氏は、履修内容の精選や、入試の制度変更、教職員の増員など、子どもたちが安心できる環境整備に取り組む必要があると指摘する。
「急を要する対応が、9月入学の議論によって進んでいないのが問題です。一刻も早く見切りをつけて、現実的な背策の検討に集中してほしいと思います」
(文・横山耕太郎)