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【更新】打ち上げ成功!スペースXの宇宙船「クルードラゴン」に世界が注目するワケ

Crew Dragon

ケネディ宇宙センターの第39A発射台で打ち上げを待つクルードラゴン宇宙船。5月24日撮影。

SPACEX

日本時間5月28日午前5時33分(米東部時間5月27日午後4時33分)、米スペースXの新型宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」が初の有人飛行を実施する(編集部注:悪天候により、打ち上げは日本時間5月31日午前4時22分に延期。その後、打ち上げは無事成功した)。

2011年にスペースシャトルが退役して以来、宇宙への人の輸送をロシアのソユーズ宇宙船に頼ってきたアメリカにとって、9年ぶりに自国から有人宇宙船を打ち上げることとなる。

スペースXによる「有人宇宙船開発計画」最終試験

格納庫にあるクルードラゴン

準備作業中のクルードラゴン宇宙船。5月16日撮影。

SPACEX

クルードラゴンは、NASAが民間企業を使って宇宙飛行士を輸送することを想定した「コマーシャルクルー計画」のもとで開発されたカプセル型の新型宇宙船。スペースXが2012年から運用してきた国際宇宙ステーション(ISS)への無人輸送船「Dragon」と同型で、最大7名が搭乗できる。

フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地から、Falcon 9ロケットに搭載されて打ち上げられ、帰還時には大西洋に着水する予定だ。

今回の有人飛行ミッションは「DEMO-2」と呼ばれ、有人宇宙船の開発マイルストーンにおける最終試験にあたる。

テストパイロットには、NASAのロバート・ベンケン宇宙飛行士、ダグラス・ハーリー宇宙飛行士が選ばれた。

「打ち上げ成功」すれば、野口さんも搭乗へ

試験飛行に挑む宇宙飛行士

ロバート・ベンケン宇宙飛行士(左)とダグ・ハーリー宇宙飛行士(右)。

SPACEX

今回のDEMO-2をクリアすれば、NASAは本格的にISSへの宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する段階に入る。

第1回の運用「クルー1」では、NASAのマイク・ホプキンス宇宙飛行士、ビクター・グローヴァー宇宙飛行士とともに、JAXAの野口聡一宇宙飛行士が搭乗する予定だ。野口宇宙飛行士は、アメリカに籍を置かない宇宙飛行士として初めてスペースXの宇宙船に乗り込むことになる。

クルードラゴンによる有人飛行の成功は、スペースシャトルやアポロ宇宙船といったこれまでの宇宙船の運用とは異なる意味合いをもつ。宇宙産業を育成しようと30年以上にわたって続けてきたアメリカの努力が、ついに結実したことを意味するからだ。

イーロン・マスクCEO率いるスペースXが、「Launch America」とアメリカを背負った有人飛行ミッションに臨むことになる「はじまりの種」は、スペースシャトル計画が始まって間もない1980年代に蒔かれていた。

1984年、アメリカでは、レーガン大統領時代に「商業宇宙打ち上げ法」と呼ばれる宇宙産業育成に向けた法律が制定。これによって、運輸省下の連邦航空局(FAA)が商業利用としてロケットの打ち上げなどの許認可を行えるようになったのだ。

このとき、イーロン・マスクはまだ13歳。自作のゲームソフトを販売し、エンジニア兼ビジネスマンの道を踏み出して間もないころだった。

コロンビア号の悲劇後に迎えた、宇宙輸送計画の転換期

宇宙からの帰路の途中空中分解したコロンビア号に乗船していた7人の宇宙飛行士(2002年12月20日撮影)。2003年2月1日におきた事故によって、全員が犠牲となった。

REUTERS/Joe Skipper

1990年代、商業宇宙打ち上げ法の改正を経て、ロケットや人工衛星など新興の民間宇宙産業に乗り出す民間企業があらわれはじめる。

宇宙産業育成のインキュベーターとしての役割を担うNASAは、2000年代に入って商業有人・貨物輸送計画局という部局を発足。再利用ロケットや地球低軌道への宇宙飛行士、貨物の輸送サービスを民間企業によって提供するための事業支援を行った。

このときNASAの視界に入っていたのが、ボーイングや元NASAエンジニアの設立したキスラー・エアロスペースといった企業に加え、2002年に設立されたばかりのスペースXだった。

宇宙開発の目標に火星移住を掲げ、世界初の月旅行計画を発表するなど、民間独自の宇宙計画を次々と進めるスペースXだが、実際に宇宙開発を事業として成立させるには安定した顧客が必要だ。最も安定した顧客になるのは、もちろんNASAなどの宇宙機関である。

スペースXが設立されて間もない2003年、スペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故が起こる。これを受けて、NASAはスペースシャトル計画の終了と新型宇宙輸送システムへの移行を決める。

その後、NASA自身もSLSロケットとオライオン宇宙船という宇宙輸送システムの開発を進めることとなるが、これらは月や火星といった“遠く”の宇宙を目指すためのもので、ISSなど地球の近くへの輸送は民間に任せることになった。

こうしてスペースXは、2006年に始まったNASAの「商業軌道輸送計画(COTS)」に当初から参加し、物資と人員、両方の輸送サービスを開発することになったのだ。

待ちに待ったアメリカ産有人宇宙船の復活へ

2019年3月に行われたDEMO-1ミッションのようす。無人で打ち上げられたCrew Dragonが自律制御でISSにドッキングすることに成功した。

出典:Space X YouTube公式チャンネルより

2010年には、オバマ政権下で安全かつ低コストの商業有人輸送サービスをISSへの宇宙飛行士輸送に利用することが正式に決定された。第一段階の選定企業には、スペースXのほかボーイング、ジェフ・ベゾス設立のブルー・オリジン、スペースシャトルに似た有翼機を開発するシエラネバダ・コーポレーションなどが選ばれた。

選定企業に支給された5000万ドルの初期開発費は、2000年代後半から2010年頃までに起きた世界的な経済衰退に対する経済復興支援策「アメリカ復興・再投資法」から支出されており、スペースXはリーマンショック復興資金で有人宇宙船開発をはじめたともいえる。

そして2014年、スペースXはボーイングとともに商業有人輸送計画の最終選定企業となった。新型宇宙船の開発資金として、ボーイングには42億ドル、スペースXには26億ドルが提供された。

こうして進められてきたスペースXによる新型宇宙船開発だったが、当初、初飛行の目標は2016年末だった。しかし結局、開発中の事故や安全性の確認などに時間を取られ、2年以上遅れた2019年に有人飛行の目処がたった。その間にNASAが購入していたロシアのソユーズ宇宙船の打ち上げ費は、1シート(乗員1名、1回あたりの輸送費)あたり8000万ドルを超えて膨らみ続けていた。

つまり、クルードラゴンは、懐に余裕のないNASAにとって、待ちに待った自国による有人宇宙船の復活だともいえるのだ。

価格比較

クルードラゴン(Dragon 2)の打ち上げ価格。

NASA“NASA’S MANAGEMENT OF CREW TRANSPORTATION TO THE INTERNATIONAL SPACE STATION”より。

2019年末の時点でNASAが公表したスペースXの1回あたりの宇宙飛行士輸送費用は5500万ドル。

2024年までに、ボーイングとともに12回、最低48名の宇宙飛行士をISSまで送る予定(ボーイング、スペースXそれぞれの分担回数は不明)で、1回あたりクルードラゴン宇宙船には4名の宇宙飛行士が搭乗することとなっている。搭乗できる人員には余裕があり、スペースXは民間向けの宇宙旅行サービスに余剰分を提供することができる。

2020年3月6日、スペースXと民間宇宙ステーション開発計画を持つアクシオム・スペースは、共同でクルードラゴンに3名の民間宇宙飛行士を乗せる契約を獲得したと発表した。

早ければ2021年後半には打ち上げが実現する予定で、その際には8日間以上、民間宇宙飛行士が宇宙に滞在することになるという。ISS宇宙旅行チケットを購入した人物の詳細は明かされていないが、ISSで映画撮影プロジェクトを計画している俳優のトム・クルーズ氏ではないかとの推測もある。

クルードラゴンの打ち上げ成功によって、宇宙への間口が広がることは間違いないだろう。

スターウォーズに登場するハン・ソロの船艦「ミレニアム・ファルコン号」に由来をもつ、スペースXのFalcon 9ロケットに乗って、新型宇宙船クルードラゴンが飛翔する。

打ち上げは、日本時間で28日早朝5時半頃。NASAでは、打ち上げの様子が生中継される予定だ。

編集部より:天候不順により打ち上げの日程が5月28日から31日に延期された旨を追記しました。2020年5月28日 13:35

文・秋山文野

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