【ガイアックス社長・上田祐司】日報はYouTube、辞める時はツイッター

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撮影:三木いずみ

コロナショックによる「在宅シフト」で、会社と個人の関係や働き方が改めて問われている。経営・マネージメント層に、コロナで気づいた新たな課題を聞く「在宅シフトで何が変わった?」。

5回目は、ガイアックス・上田祐司社長。同社はSNSやシェアリングエコノミーを事業とするだけでなく、退職した社員(新卒採用)の6割が起業する起業家輩出企業として知られる。

上場したApp BankやLITALICOのほか、アカツキに買収された、そとあそびなど気鋭の起業家が続出。社員と会社の関係も投資先とVC(ベンチャーキャピタル)に近い。

働き方の自由度はもともと高いが、コロナ禍を経て社員の裁量権をさらに拡大している。「もはや出勤は義務ではない。権利だ」という。その真意は?

「うちはもう社員は出勤しなくていいことにしました」

オンライン就活

以前から地方・海外学生向けに準備していた、同社のサービス「オンライン就活」。コロナで脚光を浴びた。

提供:ガイアックス

“出勤再開うつ”が話題になっていますが、うちはもう社員は出勤しなくていいことにしました。

出勤は義務ではない。むしろ、「出勤したい時はしてもいい」ということで、社員の“権利”として捉え直し、1カ月2万円、4半期で計6万円までの出勤交通費を補償する制度に切り替えました。

つまり、原則リモート。5月に入ってすぐ、本部長会議を開いて「通勤とは一体何なのか?」という議論をみんなでしたんですよ。そこで決めました。

出勤にしろリモートにしろ「会社がOKを出す」というのが、僕の中でも腑に落ちなくなったんですね。「え? 会社がOKって。誰が? どう許可を出すの?」と思った。

特にコロナ禍の中では、部長が“PCR検査の専門家”とかならまだしも、判断の根拠は誰がするにしても薄いじゃないですか。会社が個人の身の振り方まで決める時代でもありません。

もちろん、職種や会社によって状況や考え方は違う。違っていい。ただ、「出勤は義務」とかリモートを許可する・しないというのは、もう、うちの会社のビジネスやリズム感にも合わないという判断です。

世界一周しながらリモート営業

航空機

元来から多様な働き方を許容してきたガイアックス。世界一周をしながら働く社員もいたそうだ。

Job Rubjob / Getty Images

ガイアックスは、そもそも独立起業を促し、「社員のやりたいことのおこぼれに預からせていただきます」というスタンス。できるだけ社員の邪魔をせず、サポートするのが上司の役割。これからも、どんどんリモート体制を強化していくことになると思います。

すでに、社員も多拠点で働いていましたからね。例えば、世界一周をしながら働いている営業社員がいます。彼女は、旅の行程や宿泊先をすべて取引先のクライアントにオープンにし、インターネットの接続環境がいいホテルが取れると、「環境いいので、○日に打ち合わせしませんか?」と持ちかける。

コロナで帰国しましたが、そんなぶっとんだリモートワークを2カ月も続けていた。

去年の新入社員で今年2年目の社員の中にも、似たようなのがいます。誰が許可したのか全然知らなかったんですけど、「僕、(地元の若者のために)広島で働きたいんです」といって、新人研修が終わった去年の6月からずっとリモートで働いている社員がいます。

自社のことながら「ひでぇな!」とも思うんですけれど(笑)、先ほどの営業社員の例で言えば、彼女が優秀だから顧客も合わせてくれているとはいえ、顧客でさえここまで融通してくれているのに、会社が社員を通勤で縛るなんて筋が通らない。そもそも出社率も低い。肌感ですが、最も低い年末で20〜30%。緊急事態宣言後は2〜3%といった状況です。

リアルでないといけないものは「ない」

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株主総会の会場にいたのは、端末やマイクを設置する社員、回線不調時のための執行役員、株主など数名。上田社長ら他の役員は自宅からオンラインで参加した。

提供:ガイアックス

3月時点で株主総会もオンラインでやってしまったので、会社としてリアルの場で行わないといけないことも、もうないんじゃないかなと感じています。自分でも、「いや、リアルでないといけないものがあるのでは?」と一度疑って、考えてみたりもしたのですが……ない。

オンラインの株主総会は、リアルとハイブリッドで行うなど、まだ世間的には試行錯誤中のところが多いです。確かに、株主総会自体にもともと腫れ物に触るようなところがある。

慣れているはずの大企業でさえ、リハーサルを3回も4回もやる。2期4年で社長が交代すれば、社長も慣れていない。一般的には、そんな中で、さらにオンライン化なんて……(無理だ)ということなのでしょう。

うちでも「法令上、必要とされる“会場”とは何を指すのか」という点については、議論になりました。でも、会場さえあれば人はいなくてもいいはず。そこで、会場には端末 と設置のためのスタッフ、執行役員1人 。ほかは議長以下、全員リモートでの参加でやってみたら、結果、普通にできました。

遠方で、 議決権行使書(議案に対する賛否を記す)をすでに郵送済みだった 株主からも、「オンラインなら出席したい」と言われ、参加していただくこともできました。

コロナは会社員が自立するためのものすごいチャンス

うちのように、IT系でSNSを扱う会社でも、あらゆる企業活動のオンラインへの全面移行について、全く問題がないとはもちろん思っていません。

例えば、新人について。入社したという帰属感が得られず、精神的に不安を感じていたり、日本では新人の育成はOJTが基本。オンラインだとうまく教えられない。新人のやれる仕事もないといった問題があると知っています。

帰属感に関しては、気持ちとしてはわかります。でも逆に、コロナは「会社員が精神的に自立する」、そのためのものすごいチャンスだと思うんです。もう企業に人生を賭けたり、依存できない時代になったことは自明の理です。また本来、人間は会社に認められるより、社会に認められたい生き物。

コロナで会社から精神的にも物理的にも離れた分、会社ではなく、社会とよりつながるチャンスができた。本当に大きな変化が起きていますよね。

だから、このコロナ時代に新入社員になったということは、実は、とてつもなくラッキーなこと。僕はオンライン入社式でうちの新入社員にはそう伝えました。むしろ、大いに希望を持ってほしい。

新人が忙しすぎて社長に会ってくれない

飲み会

ガイアックスがコロナを受けて立ち上げた事業、オンライン飲み会の「みんのみ」。自宅から気になる人と気軽にオンライン飲み会できるようイベントを提供。有名人が参加することも。

提供:ガイアックス

オンラインだと新人教育が難しい。新人にやらせる仕事がないというのは、すみません。僕には、ちょっとよくわからない。

うちの場合ですが、今年の新人はすでに忙しすぎて、社長の僕にも会ってくれません。僕が講師の財務研修をするために、新人2人にスケジュールあけてと頼んです。そうしたら、「今、忙しい」って断られました。

なぜなら、1人は有名人とのオンライン飲み会イベントを主催する「みんのみ」事業に携わっているから。芸能人は今、時間があるので、仕事を依頼するなら今しかない。芸能人とのアポイントでいっぱいで社長の僕と会っている場合じゃない。

もう1人も、5月5日の子どもの日に親子7500人超を集めた大規模オンライン・自社イベントに関わっていました。だから、「終わるまでは無理です」と言われました。社長直々の研修なのに!

でも、実際、10年目の社員と1年目の社員で、コロナ禍でのオンライン事業に対するスキルは一緒です。

誰もやったことのない事業ですから。むしろ、1年目の方が感覚的にわかるところがあるかもしれない。先ほどいったように、それくらいの大きな変化の時。だから、新人だからやることがないというのは、やはり、ちょっと解せない。

ただ、こう見えて、マニュアルはできる限り用意している。もともと、新人にわざわざ教えるということを極力やらないで済むようにしてきました。社員は独立起業を目指す人がほとんどで、人が流動的。会社としてもそれを目指しているからです。

新卒の日報もYouTubeで全公開、初めからパブリックに

ガイアックス新入社員の実際の日報。コロナで一度も会ったことがなくても、これなら社員全員に覚えてもらえそうだ。

会社について、いつでも誰でも把握できるように、経営会議の記録も全部公開しています。社内の誰かに仕事を依頼したいときは、私信ではなく、全社員宛てに送るシステムにもしている。最近は、新卒の日報もYouTubeにあげて社内に公開してもらうことにしました。

いちいち書いたり、一度誰かに話すと「これをまた上の人にも報告しないといけないのか」と工数が増えて面倒です。だったら、最初からパブリックにしてしまう。こんな風にあらゆることをプロセスから隠さず、全公開して伝える。

みんなバカではないので、空気をつかんで取れるところを取りに来ます。結果、新人のセットアップのコストも下がるというわけです。

もちろん、全情報を公開することのデメリットはあります。誤解が生まれるとか、テキストベースだと感情が伝わりにくいなどです。でも、じゃあ、どうしたら伝わるのか。そういう努力は常にしてきた。いわば、そこにコストをかけてきた

オンラインにすること、リモートワークにすることのコストが安いとは言いません。でも、同じコストをかけるなら、デメリットだけでなく、メリットも生じる方向に引っ張っていかないともったいない。

シェアエコは一時的に減らすがやがて伸びる

働く人

ガイアックスのオフィスであるシェアオフィスを含むシェアエコ事業は、働き方が変わっていくのに合わせてやがて伸びるという。

electravk / Getty Images

ガイアックスの基軸であるシェアリングエコノミーの事業は、コロナで大打撃を受けるのではないかとよく聞かれます。今、容易に人と接触したり、モノを共有することができないからです。確かに短期的な需要は減るでしょう。でも、実は、今後に関して、僕はすごくポジティブなんです。

例えば、我々の自社ビル・オフィスであり、シェアオフィスでもある「 Nagatacho GRiD」。全国的に自宅からのリモートワークが進み、当面、借りる側は、契約する座席数を減らすかもしれません。でも、それもやがて収まる。なぜなら今、多くの会社が悩んでいるはずだからです。「なぜ、うちは固定オフィスを持っているのだろう」とね。

だから、1社あたりの契約する座席数は減っても、契約者数・契約企業数は増える。大局的に見れば、シェアリングエコノミーは終わるどころか伸びるに違いないと思っています。

また、オンラインで人と人をつなげるSNS的な事業もしてきたわけですが、まずはオンラインから始めるということが、どのレイヤーでも増えていくはず。最終的にオフラインで会う・会わないはあまり関係ない。オンラインでのスタートが増えれば、どちらにしろ、うちはハッピーです。

コロナ後、資本主義社会は修正される

アンチョビ

リモート生活の一番のお供は、業務用サイズのアンチョビの瓶詰め。たくさんあるから、毎日のように、食べられる。

提供:上田社長

経済状況の悪化も予想されていますが、コロナによって正常化され、より本質的になる面もあると思います。

これまでの資本主義社会は、射幸心をあおってお金を回そう回そうとしてきたのが、家族の時間が増えるとか、高い家賃の東京を引き払って田舎で暮らす人が増えるとか、コロナで大きく変化しています。

経済的には損失かもしれませんが、幸福の定義や価値観は、より本質的になる。

そうなれば、1人勝ちはますます難しい。うちが何か事業をやるときも、周囲や他社を必ず巻き込んでいます。目指すものを実現するにはその方が早い。

1社や1人で何かを持ったり、やったりせず、みんなで持ってみんなで勝つ。コロナによって過剰な資本主義が修正されるに連れ、日本全体がそういう方向にさらに流れていくのではないでしょうか。

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(聞き手・滝川麻衣子、構成・三木いずみ、デザイン・星野美緒)


上田祐司(うえだ・ゆうじ):ガイアックス・代表執行役社長(兼取締役)。1997年、同志社大学経済学部卒業後に独立起業を目指し、ベンチャー支援をするベンチャー・リンクに入社。1年半で同社を退社後、1999年にガイアックスを設立。その後、名証セントレックスに株式を上場。現在、一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事も務める。

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