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- 2020年5月27日に開催されたアマゾンの年次株主総会にて、CEOのジェフ・ベゾスは会社の10年ビジョンについて質問を受けた。
- ベゾスは、目標設定の前に今後10年で「変わらないものは何か」を自問することが大切だと述べた。
- アマゾンにとっては、顧客へのサービス提供に注力することがその一つであり、そこから「長期的なアプローチをとる」などの、アマゾンの他の重要なリーダーシップ・プリンシプル(原則)につながっていく。
- これはベゾスがよく言及する考え方で、昨年も、アマゾンが低価格と迅速な発送に注力しているのは、それが10年後も変わらずに要求されることだからだと、似た内容の回答をしている。
アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは2020年5月27日、同社の年次株主総会で10年ビジョンについて質問を受けた。ベゾスは、今後10年間で多くのことが変化していくものの、逆に「変わらないものは何か」を自問することのほうが重要で、それに基づいて何をしていくべきかを考えたうえで目標設定すべきだ、と語った。
「時間が経っても変わらないものをベースに戦略を策定することもできるのです。この10年ビジョンの中には、当社において今後も変わることのない、様々な要素が盛り込まれています」とベゾスは話した。
そのうちのおそらく最も重要な要素が、顧客へのサービス提供に注力し続けることだという。この「カスタマー・オブセッション」(顧客を第一に考えること。アマゾンが定める14の信条のひとつ)が起点となって、長期的視点で新規プロジェクトを捉える、失敗を恐れず新しいアイデアを生み出す、といったそれ以外の企業文化も形作られていく、とベゾスは語る。
「すべての中心にあって、すべてをつなぐもの。それが『カスタマー・オブセッション』です。これこそが、10年後も真にアマゾンの企業文化を支えてくれるものなのです」
顧客が望むものは何か。アマゾンの戦略の中心には常に「カスタマー・オブセッション」があるという。
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このようにベゾスが話すのは今回が初めてではない。2019年に開催されたアマゾンのロボティクス・カンファレンス「re:Mars」で10年後の未来について問われた際も、ベゾスは同様の回答をしている。アマゾンは低価格、迅速な発送、幅広い品揃えに注力しており、それは、何十年経っても変わらず求められることだからだ、と話している。
「『ジェフ、アマゾンのことは大好きなんだけど、もう少し発送を遅らせてくれたらいいのに』とか『もう少し価格を高くしてくれたらいいのに』と言われることは想像できませんよね」と当時ベゾスは答えている。
今年の株主総会は新型コロナウイルスのためにオンラインで開催されたが、ベゾスは他の質問にも答えている。従業員に対する感染防止策に関して、世論の批判や社員からの抗議もあったが、アマゾンの対応についてベゾスは「誇りに思っている」と話した。また、アマゾンの労働条件について声を上げた社員を解雇した件については、その活動が理由ではなく、社内ポリシーの違反によるものであると答えた。
アマゾンの10年ビジョンについての質問に対する、ベゾスの回答全文は下記の通り。
10年後にはいろいろなものが進化していることは間違いないでしょう。テクノロジーは変化します。特に機械学習技術は今後10年間で大きく進化していくでしょう。
ただ、この先の10年を考えるにあたって、「変わらないものは何か」を考えてみるべきだと、私はいつも思っています。
変わらないものを考えることの方が重要です。時が経っても変わらないものをベースに戦略を策定することもできるのです。この10年ビジョンの中に、アマゾンにおいて変わることのない要素がいくつも入っています。
そのうちのひとつが、これが最も重要な要素かもしれませんが、競合他社起点で考えるのではなく、顧客起点で考え続けるということです。私たちはこれからもこの企業文化を大切にしていきます。
また、時間をかけて物事を実行していくだけの忍耐強さもあります。
私たちは独創的でもあります。この創造性を10年後も維持することがとても重要です。身動きがとれない状況になった時、そこから抜け出すには新しいアイデアを生み出すに限ります。アマゾンは非常に創意に富んだチームなんです。
私たちは失敗を恐れません。失敗してもいいと思えるメンタリティは10年経っても変わりません。今後も大胆なことをしていくにつれて、失敗の規模も大きくなっていくでしょう。
しかし、これらの要素の中心には「カスタマー・オブセッション」があり、それがあらゆるものをつないでいます。たとえ10年後の未来であっても、アマゾンの文化を真の意味で持続させてくれるもの、それがカスタマー・オブセッションなのです。
競合他社を起点にして物事を考えている人がある分野でトップになったとしたら、モチベーションを維持するのは大変です。自分がすでに先を行っているのに、走り続ける気になりますか?
しかし顧客を起点に考えている人なら、そしてそれが自分のモチベーションになっているなら、モチベーションを保つのは簡単です。仮に先頭に立ったとしても、顧客は常に不満を抱え、より良いものを求めていますから。だからこそ、いつでもモチベーションが保てるのです。
そのための人材を獲得するためにこれからも努力していきます。私たちのアプローチに共感する人、カスタマー・オブセッションがモチベーションになる人、新しいものを生み出すことが好きな人。エキスパートであっても、初心を忘れない人たちですね。
こういったことは10年経っても変わりません。
このカスタマー・オブセッションという企業文化を維持できれば、10年ビジョンはおのずと見えてきます。
だから今後がとても楽しみなんです。
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)