アフターコロナの再挑戦。和歌山発電動バイクベンチャー「立ち乗りバイク」試乗

x-scooter_LOM-8

撮影:伊藤有

電動バイクバンチャーglafit(グラフィット)が5月28日、国内でも非常に珍しい“立ち乗り”スタイルの電動スクーターのクラウドファンディングを開始した。

応援購入サイト・Makuakeでの価格は、先着200台までの超早割で10万5000円(30%オフ)。出荷開始は12月末だ。

「X-SCOOTER LOM」(クロススクーターロム)は、2020年1月にラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES2020」で発表したものだ。

当初計画では、アメリカのクラウドファンディング・Kickstarterで市場調査をして海外発売をしたあと、日本上陸で販売開始……という販売プランを描いていた。

しかし、Kickstarterの開始と前後して、世界をコロナ禍が直撃した。

日々刻々と状況が変わるなかで、仮にKickstarterの支援が予定金額に達したとしても、世界展開のプランとして想定していた「知名度の獲得」や、「現地販売店との提携」など本来の効果が期待できないと判断し、早々にプロジェクトを取りやめた経緯がある。

その意味で、Makuakeでのプロジェクト開始は、glafitにとってもアフターコロナの「仕切り直し」だ。

「ちょっとそこまでお買い物」が楽しい。立ち乗り試乗体験

x-scooter_LOM-14

筆者が試乗中の風景。代々木公園周辺の、アップダウンの多いエリアをスムーズに走ることができた。特に登り坂のパワーは、先行して登場した「GFR-01」よりパワフルなモーターの恩恵を感じる。

撮影:伊藤有

Makuake開始の前日、東京・渋谷で20分ほどの間、この全く新しい立ち乗り電動スクーターに試乗した。

車両は法律上は50ccの原動機付自転車、いわゆる「原付」登録するもの。法律上の速度上限は、原付の制限である30km/hまでだ。

試乗車両はCES2020展示と同じもので、開発中のプロトタイプ。デザインの細部が実機とは違ったり、加速のモーター制御がやや荒削りだったりするが、しっかりと公道を走行できるものだった。

x-scooter_LOM-1

ブレーキランプ、ウィンカーといった保安部品がついた状態で販売される。両足の間に設置されるバッテリーは別売りの大容量版も用意(写真は標準容量版)。航続距離は約40キロ(標準)、約60キロ(大容量)。

撮影:伊藤有

「スケボーのように足で蹴り出してから、アクセルを操作してください。HIGHモードだと、けっこう出足の加速がいいので、慣れるまで気をつけてください」

スタッフからそんな説明を受けて、人通りの少ない場所で加速感に体を慣らしてから、先導してもらいながら走り出した。

立ち乗りはキックボードに似たスタイルだが、車両を跨ぐように立つので、安定感はずいぶん違う。バイクと違って、漕ぎ出しを足で勢いをつけて走り出すのがユニークだ。

加速は思ったより鋭くて、重心を気にしていないとフロントの接地感がなくなるほどモーターの力がある。HIGHモードの上限と思われる30キロ弱のリミッター速度には難なく達する。筆者は大型バイクも乗っているが、X-SCOOTER LOMの乗り味は、新鮮でとても面白い。その一方、初めて乗る人には事前の乗り方説明と慣れが必要、そんな感じだ。

X-SCOOTER LOMの駆動モーターは、glafitの電動初号機「GFR-01」よりパワーのあるモーターになっている。特に登り坂で顕著な違いがあり、GFR-01だと足漕ぎを併用しないと登りづらかった坂道(例えば、渋谷・NHK放送センター前の坂道)でも、モーター駆動だけでするすると上る。

見てのとおり、足回りには路面のショックを吸収するサスペンション機構はないが、太いタイヤのおかげで乗り心地は思いのほか、マイルドだ。一般的な自転車で安定して走れる程度の路面状態なら、多少の道路の凹凸は大丈夫な雰囲気だった。

x-scooter_LOM-11

前輪のディスクブレーキ。初期の効きが強いということで、二輪開発に詳しい関係者のフィードバックなどから、製品版ではタッチをマイルドにする予定。

撮影:伊藤有

x-scooter_LOM-12

足乗せの部分は、スケートボード用の板と滑り止めを使った素材。モーターはリアタイヤに内蔵するタイプのインホイールモーターになっている。

撮影:伊藤有

プロトタイプゆえか、フロントブレーキの効きが良すぎて前転しそうなドキドキ感もあったが、リアブレーキ中心にブレーキをかければスムーズに止まれることに気づいてからは、かなり快適に乗車できた。

わずか30km/h以下とはいえ、風を切って走る感覚は一般的な原付スクーターにはないものだ。率直に言って、これはかなり楽しい。

glafit_LOM00-5

glafitの鳴海禎造社長。CES2020の前夜祭会場にて撮影。

撮影:伊藤有

「一度はクラウドファンディングを諦めた商品。日本でいま発表する勝機は?」

試乗後、glafitの鳴海禎造社長に単刀直入に質問した。

glafitは4月、フードデリバリー事業者向けにGFR-01の無償貸与を発表している。この反響が高く、募集が即座に埋まり追加対応を手配するなどの経験が大きかった。「近距離向けの電動バイク需要はこれから増える」(鳴海氏)と感じて、当初から想定していた国内での発売を大幅に前倒す形で、今回のMakuakeの開始を決めたという。

地方発「電動2輪メーカー」がこだわる「和歌山メイド」

x-scooter_LOM-7

本体重量は、車体本体が14キロ、バッテリーは2.5キロ。長距離を抱えて持ち運べる重量ではないものの、かなりコンパクトで軽い。

撮影:伊藤有

mini

クルマのトランクに乗るサイズ。初号機のGFR-01より小型化させ、特大のコインロッカーに収まるサイズを狙っている。

出典:glafit

glafitは和歌山発のハードウェア・スタートアップとして、従来からブランディングしてきた。

初号機のGFR-01では最終工程を地元・和歌山フィニッシュとしていたが、X-SCOOTER LOMでは、ノーリツプレシジョンとの提携によって、生産ラインそのものを和歌山に置く。

この意味については、自身のこだわりだとしながらも、「和歌山には上場企業が数社しかない。和歌山に(人々を)ワクワクさせる会社をつくりたい」と鳴海社長は言う。

今回のX-SCOOTER LOMのMakuakeプロジェクトが成功すれば、結果的に和歌山に雇用を生み出し、地域が潤うことにつながっていく、とする。

x-scooter_LOM-13

キーは基本的にスマートフォンを解除キーに使うスマートロック方式(物理キーは緊急用)。将来的には、友人や家族などにキーを電子的に受け渡して共有化できる機能も視野に入れている。

出典:glafit発表イベントより

人によっては電動キックボードに見えるスタイルのため、無事製品化できた時に起こりうる乗車マナーの問題や、法律上の議論が起こる可能性も考えられる。しかし、そこは商品化を決めた時点で、すでに折り込み済みだ。

「こういうスタイルの電動バイクは、遅かれ早かれどこかのメーカーが発売します。それによって議論も起きるのだとすれば、僕たち自身が最初に作って、(現状に見合った法整備なども含めた)議論をリードしていくほうがいいと考えました」(鳴海氏)

makuake

出典:Makuakeのプロジェクトページより

X-SCOOTER LOMの初年度販売目標は1000台。一般的な電動バイクスタイルに近いGFR-01は、発売から約2年半で累計5000台程度出荷したことに比べると、「初年度1000台」は控えめな目標だ。

新スタイルのスクーターの商品力には自信がある一方、「X-SCOOTER LOMはより趣味性が強く、市場そのものは小さい」と冷静に見て、この目標台数を決めた。

なお、Makuakeのプロジェクト開始後2時間半の時点で、支援者数は78名。応援購入金額は、目標の400万円をすでに超えて、総額621万円になっている。

(文・伊藤有)

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み