ニューヨーク・マンハッタンのWeWork(ウィーワーク)本社。ビジネスモデルに揺らぎが生じている。
REUTERS/Mike Segar
- IBMがマンハッタンのWeWork(ウィーワーク)シェアオフィスから退去する。
- 新型コロナウイルスの大流行で入居企業の流出が止まらないWeWorkにとっては大きな痛手だ。
- スタートアップや起業家だけでなく、Fortune500社にランクインするような大手企業にとっても魅力的な選択肢であることを示す好例ゆえ、WeWorkはIBMと親密な関係を築いてきたが、今回の退去はその意味でも後退といえる。
- IBMの退去により、昨今の経済低迷によりフレキシブルオフィス市場が直面しているリスクがはっきりとした。
IBMがマンハッタンでレンタルしている広大なWeWorkのシェアオフィスからの退去を決めた。スタートアップや起業家だけでなく、一流企業にとっても有効な拠点になることをアピールしたかったWeWorkにとっては大打撃だ。
ユニオンスクエアの南側、ユニバーシティプレイス88番にあるWeWork物件(約7万平方フィート)から、「レイバーデー(9月の第1月曜日)以降」に退去するという。
IBM広報のダグ・シェルトンはBusiness Insiderの取材に次のコメントを寄せた。
「WeWorkにはすでに解約を通知しました。同社は素晴らしいパートナーでしたし、契約期間中のサービス提供について心から感謝しています」
IBMは3年間の入居期間中、マーケティング部門をこのユニバーシティプレイス88番のオフィスに置いていたという。
WeWork側にもコメントを求めたが返答はなかった。
IBMのオフィス戦略
IBMは、マンハッタンにあるWeWork物件の解約を決めた。
REUTERS/Brendan McDermid
コロナ危機の発生により、あらゆる業界のテナントがオフィススペースの広さや存続の是非について再検討を強いられている。パンデミックの終息後も、リモートワークを一部あるいは全面的に継続する戦略をとる企業も出てきており、そうした企業は既存のオフィススペースを縮小することになるだろう。
例えば、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOによると、同社は2030年までに従業員の最大半分をリモートワーカーに切り替え、都市圏の大規模オフィスから各地に分散した小規模なハブのネットワークにシフトする方針を示唆している。
数千人規模での削減を発表したIBMも含め、レイオフを行う企業が相次いでおり、オフィススペースへのニーズは縮小傾向にある。IBM広報によると、人員削減はコロナショックとも、ユニバーシティプレイス88番からの退去決定とも、無関係という。
「レイオフに関する発表とWeWorkオフィスの解約に関連性はありません。長期的な競争力の獲得を見据えた構造改革の一環です。シカゴとロンドンなど、他のエリアで契約しているWeWorkのシェアオフィスは維持する方針です」(IBM広報)
従業員数35万人のIBMは、ニューヨークの北25マイルほどに位置するウェストチェスター郡アーモンクに本拠を置き、マンハッタンに数カ所の拠点オフィスを構えている。近ごろ、これらのすべての拠点を最大50万平方フィートの単一オフィスに統合する検討を進めていたが、コロナショックにより保留、削減、あるいは中止の可能性もありそうだ。
「当社は引き続き、ニューヨークとウェストチェスター郡での最適なオフィス活用の検討を行います。従業員のニーズと、クライアントのビジネスに貢献することを主眼に、今後のオフィス戦略を決定して参ります」(IBM広報)
フレキシブルオフィス業界の苦境
サンフランシスコのWeWorkシェアオフィス。ベイエリアのオフィス事情にも、新型コロナの影響で変化が生まれ始めている。
REUTERS/Kate Munsch
フレキシブルオフィス業界は、コロナ以前の好況とオフィス需要の増大を背景に、フレキシビリティの高さをウリにテナントを集めてきた。その短期契約のおかげで、今回のIBMがまさにその実例だが、テナントはすぐにオフィスを退去できてしまう。
一方、フレキシブルオフィスを提供する企業側は、空室が増えてもオーナーへの家賃支払いを継続しなくてはならないのがビジネスとして苦しいところだ。
ユニバーシティ・プレイス88番は、WeWorkにとって象徴的な成功物件だった。スタートアップや起業家向けのコワーキングオフィスにとどまらず、Fortune 500に名を連ねる世界企業にもフレキシビリティとオフィステクノロジー、アメニティ、さらにはデザインを提供できる —— そんなシフトを体現する存在だった。
ただし、さまざまなレポートによると、同物件はエレベーター設備にしばしばトラブルが発生し、IBMの従業員はロビーで長いこと待たされたり、ときには階段を使って職場まで上がっていかなくてはいけないこともあり(ちなみに11階建て)、苦情が何度も寄せられるなど必ずしも順風満帆ではなかった模様だ。
(翻訳・編集:川村力)