新宿の高層ビル群(写真はイメージです)。
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緊急事態宣言の解除以来、最初の週末が明けた。
街中はある程度活気を取り戻した一方、都内では自粛要請期間まで含めればすでに2カ月近い「停止」状態にテナントが耐えられず、都心部一等地でも空き物件が出るような状況になっている。
ローランド・ベルガーが5月に公開したレポート「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」は、「新しい日常」がどうなっていくのかを、移動をテーマにさまざまな試算から論考したものだ。
多くの人がぼんやりと感じていることを、明確に言語化した試算という点で、読むべき価値がある。
都市の移動が減る理由
全32ページのレポートは示唆に満ちているが、かいつまんで見るべきスライドとしては、以下の6点が非常にわかりやすい。
出典:ローランド・ベルガーのスタディ「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」より
まず、具体的な業種ごとの変化。前年の同時期(4月1日〜15日までの2週間)から、消費指数として、遊園地は半減以下、百貨店も2割減と、移動を伴う業態における消費動向の大幅な減退がみられる(データ出典は約100万人の消費行動をもとにしたJCB消費NOWより)。一方、巣ごもり消費で活発化するスーパーの買い物や酒屋(宅飲み)は15〜25%も増加し、「移動せずに生活の満足感を高める」ことに消費が向かっている状況だ。
行動の変容と意識の変化は、多かれ少なかれ、自粛期間の実体験として感じている人は多い。収束するまでにはまだ多くの時間を要するだろうことを思うと、アフター/ウィズコロナのニューノーマル社会での「働き方」をどうイメージすべきかの議論は、まだ始まったばかりだ。
そんなときに、議論のスタート地点として次の3枚のスライドが参考になりそうだ。
「在宅前提社会」の行動パターンがどうなるか。これはツールの整備にとどまらず、「働き方」と「休み方」に大きく関わってくる。
いずれにしても「移動」の総量は減る方向に進む、ということには非常に納得感がある。
出典:ローランド・ベルガーのスタディ「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」より
こうした「働き方」の変化は、住む場所と消費行動を大きく変えていく。オフィスに近い都心住まいよりは、快適な「ホームオフィス」を持てる郊外へ回帰。またQoLを増すために「余暇の移動」はむしろ増える。
ビジネスでは当たり前だった「対面」コミュニケーションも、「会うことに特別な価値がある」ことがより明確化される。一方、余暇の移動の価値が増すとすれば、新たなビジネスチャンスの芽もありうる。
出典:ローランド・ベルガーのスタディ「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」より
テレワーク社会では、労働時間の考え方は柔軟になっていく。労働の「時間と場所の固定化」がなくなり、長期休暇も取得しやすくなる。ただし、休暇の中にまだらに労働時間が入る混んでくることは良し悪しだ。
出典:ローランド・ベルガーのスタディ「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」より
移動総量と経済成長が相関しなくなる社会
直前3枚のスライドにあるような、生活スタイルの変化から、試算では9つの移動の変化を想定している。
出典:ローランド・ベルガーのスタディ「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」より
余暇の移動は増える一方で、これまで非常にひんぱんだった「都市の中での移動」が減少し、都市と都市をまたいだビジネス移動も減少するというシミュレーションだ。
企業にとっては、新型コロナ感染の社内クラスター化をどう防ぐかは、今後しばらくの共通課題だ。事業継続計画(BCP)として、1つの大規模オフィスよりも、従業員の住居に近い「小規模なサテライトオフィス×複数」といった勤務形態が増えるかもしれない。これもやはり、都市内の移動を減らす要素になる
この試算のなかで言及はないが、都市によっては不動産価格や賃料への影響も出てくる可能性は、やはりあると考える方が自然だろう。
同レポートは、従来の社会が持っていた「移動総量」と「経済成長」の相関が覆る社会になっていくのではないか、という投げかけで、最後のスライドを終えている。この1枚は、非常に示唆が深い。
出典:ローランド・ベルガーのスタディ「新型コロナウイルス 移動のあり方はどう変わるか」より
こうしたシナリオが現実のものになるなら、公共交通の整備まで含めた移動手段のあり方についても、ニューノーマル社会は再検討していく必要があるのではないかと考えさせられる。
(文・伊藤有)