英語、パソコン、資格……飛びつく前に今、学ぶべきもっとも重要なスキルとは

ホテルマンイメージ

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緊急事態宣言が解除されたが、リモートワーク環境を続けている人はまだまだ多い。

在宅ワーク中、普段はホテルのフロントマンとして働いている筆者の友人にあてて、人事担当者からメールが届いた。メールには、「こんな時こそ自己研鑽を」と書かれており、「ペン習字」や「食品衛生責任者」について学ぶことが推奨されていた。

あくまで自己研さんなので強制力はない。しかし、それを読んだ友人は考え始めたという。

今後の技術の進化や自分のキャリアを考えた時に、自分は何を身につけるべきなのか。

身に着けるべきスキルがわかっている社会人は28%しかいない

リクルートキャリアが全国の社会人を対象に実施した「働く喜び調査」(2017)では、働く個人に対して日常的な学びの習慣を尋ねている。

その中で「新しいことを始める時には、何を学べばよいかがすぐ分かる」に対して、5段階で聞いているが、「とてもあてはまる」または「あてはまる」と答えた人は、28%に過ぎない。

「何を学べばよいかがよく分かる」との回答は、「システムエンジニア」「医師」「土木技師」といった職種が多い。必要なスキルが明確になっていて、技術が日々進化している職種の場合は、新たに何を学べば次に何ができるようになるのかが明確だ。

グラフ

【図1】「新しいことを始める時には、何を学べばよいかがすぐわかる」(n=2774)への回答

リクルートキャリア「働く喜び調査」(2017)

一方、それ以外の職種では、前述のホテル勤務の友人のように「何を学べばよいか」が分からないという人が大半ではないだろうか。

コロナ禍でセミナーや企業主催の集合研修の激減が加速する中、どのように自分にとって必要なスキルを獲得すればよいのか、考えてみよう。

集合研修がなくなる時代

研修風景

産業構造が変わり、職場で必要なスキルが複雑化してからは、仕事を通じてスキルを獲得すること、個人がそれぞれ異なるスキルや経験を持つことが求められるようになってきた。

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1990年代までは、「仕事に必要なスキル」は企業が考え、そのスキルを獲得できるよう、自社内で研修を開催していた。この仕組みは2000年に入って大きく変わった。

スキル変遷

【図2】スキル獲得方法の変化の歴史

注:the future workplace experience: prepare for disruption in corporate learningを参考に著者作成

2000年代に必要なスキルが変わってきた背景には、仕事がより複雑化してきたこと、一人ひとり異なる仕事の経験や専門性に対して「一斉研修」が価値を持たなくなってきているということがある。

以前は「同じ量・質のスキルを持った人」がたくさんいる状態が望ましいとされていた。正解のあるトレーニングを通じて、正解を覚え込むことで、同じスキルを持った人の大量生産をはかろうとしたのだ。

しかし、産業構造が変わり、職場で必要なスキルが複雑化してからは、仕事を通じてスキルを獲得すること、個人がそれぞれ異なるスキルや経験を持つことが求められるようになってきたのだ

【図3】に見られるように、社会人のスキルはその70%が現実の仕事で得られるものだ。

図3 職場でのスキル獲得方法

【図3】職場でのスキル獲得方法

参考:Lombardo, Michael M; Eichinger, Robert W (1996). The Career Architect Development Planner (1st ed.). Minneapolis: Lominger.嶋村伸明,2017ATD-ICE参加報告

これから必要なのは「BE」のスキル

マインドフルネス

「何ができるか」というDOのスキルより、「どうあるべきか」というBEのスキル獲得こそが、今後ますます重視されていると言える。

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さらに近年では、個人が自分で必要だと考えるスキルを見極め、獲得する時代になっている。

ではどのようなスキル獲得が必要なのだろうか。2000人に対するアンケート調査の結果、社会人が実際に身につけたスキルは次の4つに類型される。

1. 仕事直結型スキル

資格、スキル、英語、簿記、ファイナンシャル、パソコン、統計がこれにあたる。

現在の仕事をより効率よく、レベル高くおこなうために必要なスキルの獲得だ。いわゆる旧来型の学びのことであり、「能力開発」「自己研さん」と言われた時にすぐに思い浮かぶ内容ではないだろうか。

前述のホテル勤務の筆者の友人が「ペン習字」「食品衛生責任者」を薦められたのは、まさにこの仕事直結型の学びである。4つの中ではもっとも古くからあるスキル獲得の方法だ。

2.仕事の立体的な理解

思考力が高まる、ものの見方が変わる、深く理解できる、仕事の幅が広がる、問題の所在が見えやすくなる。

仕事そのもののスキル開発ではなく、少し違うことを学ぶことで、これまでとは違う新たな発想を得ることにつながる効果を得ている。

3.人間関係の広がり

話題が広くなる、コミュニケーションが広がる、会話の拡大、上司部下関係の改善、信頼が高まる。

近年、対話による学習の重要性に注目が集まっている。他者から学ぶ、フィードバックをもらう、さらに学びを深めるという循環を回す。

4.自信が高まる

できない仕事ができる、達成感、堂々としていられる、頑張れば何とかなると思える。これまでにできなかったことができるようになり、自信が持てるようになる。

1.のスキルは、DO(する)のスキル。何かをするために必要となるスキルだ。2〜4のスキルは、BE(ある)のスキル、つまり「個人がどうあるか」というスキルだ。

これまでのスキル獲得のターゲットは「何ができるか」というDOのスキルが中心だったのではないだろうか。しかし、学習テクノロジーの進化とともに1.のスキル獲得はオンラインで手軽にできるようになってきている。

むしろ「どうあるべきか」というBEのスキル獲得こそが、今後ますます重視されていると言える。

BEのスキルを「アウトプット」によって獲得する

リアル

アウトプット型の学習スタイルは知識定着率が高い。

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社会人でスキル獲得している人たちには、共通するある特徴がある。

それは、「学んだことを役立てる機会がある」人であり、「学んだことは仕事など実際の場に活用しようとする」スコアが高いことだ

これまでの研究でも、インプット型で学ぶか、アウトプット型で学ぶか、という学習スタイルの違いが、知識維持率の違いをもたらすことがわかっている。

大学生を対象とした調査(Catherine & Mazur2001)では、大教室で講義を受ける学び方、つまりインプット型の学び方では、半年後に自分の学んだ内容を人に適切に説明できるレベルで知識を維持できる学生の割合は10%以下だった

一方、小グループでの学び合いを行った学生では、知識維持率が70%だったことが分かっている

リクルートワークス研究所では、社会人がアウトプットの場を想定することで、日々の学習行動に変化が見られるのか、ある企業における定点調査を実施した。

その結果、他者に対するアウトプットの機会を設けることが個人の学習を促進していること、それによって組織の対話が生まれやすくなっていることが明らかになっている

アウトプットの場をまず設定し、それに必要な準備をする。これによって、自分の不足に改めて気づくことができる。何を学んだらよいのかが、明らかになるのだ。

オンラインミーティングがアウトプット型学びの追い風に

オンラインミーティング

オンライン会議では「上下関係」や「場の空気」を気にせずに発言しやすいという。

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コロナ禍でオンラインミーティングを始めた人も多いことだろう。実はオンラインミーティングは、アウトプット型の学びを行うのに非常に適した環境だ。

オンライン会議になってから、「上下関係を気にしなくなった」「場の空気を読まずに意見が言えるようになった」という声をよく聞く。

普段は場の空気に押されて、メンバーの発言がほとんど見られない会議でも、オンラインなら場の雰囲気を読むことなく、気軽に、自分のペースで(コメント欄も含め)発言することができるようになったようだ。

また、自分が発言した内容に対して、上下関係を気にせずフィードバックを受けることもできる。こうしたフィードバックを回していくことが、アウトプット型のスキル獲得の場としては欠かせないだろう。

アウトプット型で学ぶと、自分にとって不足しているスキルがわかり、アウトプットに対する他者からのフィードバックによって、自分の「どうあるべきか」「どう仕事と向き合うべきか」というBE型のスキルをより高めていくことができる。

オンラインミーティングはコミュニケーションの在り方を大きく変えた。コロナ禍でもたらされたこの環境は、アウトプット型のスキル獲得をするには、絶好の環境と言えそうだ。

(文・辰巳哲子、編集・滝川麻衣子


辰巳哲子:リクルートワークス研究所主任研究員。働くことと学ぶことのつながりをテーマに、キャリア教育や大人の学びを中心とした調査・研究をおこなう。これまでに、「分断されたキャリア教育をつなぐ。」「社会リーダーの創造」「社会人の学習意欲を高める」「「創造する」大人の学びモデル」「働く×生き生きを科学する」をリリース。博士(社会科学) 。

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