この連載では、日々の企業ニュースを切り口に、会計とファイナンスを学びながらニュースの真相に迫ります。
前回は、倒産とは何なのか、その手続きの種類や特徴について整理しました。
その知識をもとに今回から2回にわたって取り上げるのは、2020年5月に経営破綻が報じられたアパレル大手レナウンです。
コロナショックが最後の引き金を引いたとはいえ、1902年創業の老舗の看板にいったい何があったのでしょうか? 同社の決算書から倒産原因を分析、同社が今後進むべき道筋を、ファイナンスのプロである村上茂久さんに考察していただきます。
2020年5月15日、アパレル大手のレナウンが経営破綻し、民事再生手続きの開始決定を受けたというニュースが国内を駆け巡りました。
レナウンといえば1902年創業の老舗企業であり、1980〜90年代は業界では世界最大規模の売上を誇るアパレルメーカーでした。
しかし、バブル崩壊後は百貨店の売上低迷やファストファッションの台頭により業績が悪化。リーマンショック後の2010年には、中国の繊維会社である山東如意科技集団有限公司(以下、山東如意)と資本提携し、2013年には第三者割当増資を通じて山東如意グループの連結子会社になりました。
ファストファッションの台頭などにより経営環境が悪化していたとはいえ、かつては世界屈指のアパレル大手だったレナウンに何が起きたのでしょうか? 本稿では、同社の決算書をもとにその原因をたどっていくことにしましょう。
決算書から見るレナウン経営破綻の要因
レナウンのプレスリリースによると、同社が苦境に陥った主な要因として以下の3つが挙げられています。
- 消費税増税による消費低迷、夏季の台風による店舗休業、記録的な暖冬による防寒衣料の不振などにより、主力販路である百貨店向け販売が苦戦したこと
- 2019年12月期において、親会社である山東如意科技集団有限公司の子会社(恒成国際発展有限公司)に対する売掛金の回収が滞ったことにより、貸倒引当金繰入額5,324百万円を計上し、また、かかる売掛金の回収が遅れたことで、資金繰りが悪化したこと
- 新型コロナウイルスの感染拡大により全国の百貨店・量販店等で営業自粛の動きが広がり、消費者の巣ごもり傾向および不要不急の外出控えによる購買行動の変化のため、当社の商品は著しい販売減少を来たしたこと
つまり、レナウンが経営破綻に至った主な要因を時系列に整理すると、次のとおりです。
- 2019年から主力の百貨店向け販売が苦戦していた(P/L上の課題)
- 親会社の子会社向けの売掛金の回収が滞り、資金繰りが悪化した(キャッシュフロー計算書〔以下、C/S〕上の課題)
- 新型コロナウイルスの影響による売上の減少(P/L上の課題)
この3つを念頭に置きながら、次に過去3期分のレナウンの決算書を見てみましょう。
消費増税、暖冬…外部環境悪化で2期連続営業赤字
まずは損益計算書(P/L)の確認です。レナウンは、2018年2月期までは営業利益が出ていたものの、2019年2月期からは営業赤字に転じています。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
ここでひとつ注意点です。直近は2019年12月期ですが、これまでは2月末決算だったのを12月末決算へと変更したため、直近は10カ月分の決算のみを反映した数字になっています。2019年12月期は前期と比べ売上高が100億円以上落ち込んでいるように見えますが、これは売上高が2カ月分計上されていないためです。
そこで、比べやすくするために月単位の売上高に変えてみましょう(図表2、※1)。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
2018年2月には月次で55.3億円の売上がありましたが、直近の2019年12月は約50.3億円。わずか2期の間に売上高が10%近くも下がっています。まさに、消費増税や記録的な暖冬の影響で売上が低迷した様子が手に取るように分かります。
黒字だった2018年2月期ですら、その利益率は0.3%ほど(図表1参照、2.2億円÷664億円)と、利幅は非常に薄い状態でした。そこへ売上高が10%近くも減少すれば、経営は当然厳しくなるでしょう。
ですが、原因はそれだけではありません。2019年12月期に大きく営業損失を出した第2の要因は、「売掛金に関する引当金」です。
売掛金を回収できず巨額の引当を計上
有価証券報告書には詳しく書かれていませんが、この売掛金とは、上述したとおり親会社である山東如意の子会社、恒成国際発展有限公司(以下、恒成国際)に対するものです。
レナウンは事業のひとつとして、世界中から仕入れた羊毛や綿花を恒成国際に販売しています(※2)。しかし2019年12月期、レナウンは恒成国際に販売した売上等を回収できず、約58億円の引当を計上することになりました。
仮にこの引当による損失がなければ、2019年12月期の営業損失は約22億円となり、2019年2月期と同水準の損失にとどまっていたはずでした。
では、この引当がレナウンの財務状況にどれほどの影響を与えたのかを、今度はC/Sから分析してみましょう(図表3)。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
2019年2月期には約78億円ものキャッシュがありました。そこに投資CFが約11億円加わっています。これは、約23億円もの有形固定資産を売却したことで獲得したキャッシュです(図表4)。
(出所)レナウン有価証券報告書(2019年12月期)をもとに筆者作成。
一方、再び図表3に目を転じると、売掛金の未回収も含めた営業CFは約45億円のマイナス。これが大きく響き、2019年2月期末には78億円あったキャッシュが、同年12月には6割近く目減りしてしまいました。
ここで注目したいのは、財務CFです。このように資金繰りが苦しくなってくると、資金調達をしてキャッシュの減少の埋め合わせをしそうなものですが、不可解なことに財務CFがマイナスとなっています(図表5)。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
この連載の第9回でも解説したように、営業CFがマイナス、投資CFがプラス、そして財務CFがマイナスというのは、「リストラ型」のキャッシュフローの動き。つまり、資金繰りが苦しいなかで借入金の返済をしている、ということです。
筆者作成
どうも不可解ですね。レナウンは後に民事再生を申請することになるほど資金繰りに余裕がなくなっていたはずなのに、なぜこの時点で、資金繰りを犠牲にしてまで返済を進めたのでしょうか?
この謎については、次回詳しく検証していくことにしましょう。
※1 この数値は、対象月の異なる期間での単純月割計算の比較です。季節繁閑が正確に加味されていないため、あくまで参考値となります。
※2 林芳樹「レナウン社長『売掛金問題、必ず解決できる』 回収不能で67億円の最終赤字に」(WWD JAPAN、2020年3月3日)を参照。
※次回は6月9日(火)の更新を予定しています。
(執筆協力・伊藤達也、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:1980年生まれ。経済学研究科の大学院を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして大手企業や地方の新規事業の開発及び起業の支援等をしている。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も実施している。