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「身の危険を初めて感じる」アメリカで感じる恐怖。警官による黒人殺害のデモ激化

燃えるパトカー

ジョージ・フロイド氏が死亡した事件を引き金に、反人種差別デモは全米に急速に拡大している。写真はデモ中に燃やされるパトカー(ジョージア州アトランタで、5月29日撮影)。

Getty Images/Elijah Nouvelage

「身の危険を初めて感じる」「どうか家にいて」「火災が起きている」

ニューヨークにいる私の周りでも、こうした友人の言葉がFacebookに溢れている。

中西部ミネソタ州ミネアポリスで5月25日、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏(46)が、警官に膝で首を押さえられ「息ができない」と言いながら死亡した事件を受け、「黒人の命は大切だ(Black Lives Matter)」「正義がなければ平和はない」とするデモが全米に拡大。アメリカで建国以来続いてきた根強い人種問題に対する非難が高まっている。

1960年代の公民権運動以来の大規模な運動になる可能性も秘めている。

警察はゴム弾や催涙ガスをデモをしている人たちに撃ち込んだり、取材している記者を逮捕するなど、市民と警察の対立も先鋭化している。

一方で、抗議の声をあげる人の一部が警察の車両を焼いたり、店舗に押し入り、店内のものを通りにぶちまける暴動も、全米の都市で起きている。ニューヨークでも多くの店舗が、入り口やショーウインドウを木の板で補強している。

新型コロナウイルス感染による自宅待機がやっと解かれ、人々が外出し始めた直後のデモ同時多発化し、人々に再びショックを与えている。

25都市で夜間外出禁止令、13州で州兵待機

ミネアポリス警察に放火する男性

ミネアポリス警察署は、デモ隊によって放火され、全焼した(5月29日)。

REUTERS/Carlos Barria

最初のデモは5月29日、ミネアポリスで始まった。

フロイド氏を捕らえた警官4人が解雇されただけで逮捕されなかった(のちに逮捕)ことが市民の怒りを買い、デモ隊が警察署に放火。デモ隊が警察署を取り囲んでいたことから、現場に消防隊が近づけず、警察署は全焼した。

この後デモは30日から全米に広がり、CNNによると25都市が夜間外出禁止令を発し、13州で州兵が待機している。

ニューヨーク・マンハッタンでも、複数箇所でデモが発生し、同市は5月31日までに、市内で340人を逮捕したと発表した。

ニューヨークで開かれるデモは多く、通常は主催者が事前に警察に道路の使用許可を求める。しかし今回のデモは、ソーシャルメディアを使って自然発生的に集まっている。事前に道路の使用許可をとっていないことから、警察と衝突するケースが多発している。

デモを偶然目撃したフォトグラファー、スタン・ナカゾノ氏はこう話す。

「自転車に乗った警官が、デモ参加者を1人押し倒して取り囲み、逮捕した。自転車で市民を追い散らしながら『これは違法な集会だ。通りから立ち退き、歩道を歩け』と何度も叫んでいた」

ナカゾノ氏は、ブティックなどの商店の入り口のガラスが破られているのも目撃したという。

ニューヨークデモ

マンハッタンでも商店の入り口などが破壊されている。

撮影:スタン・ナカゾノ

暴行がはっきり映ったビデオが引き金

筆者も2003年から住んでいて、ニューヨークで破壊行為を伴うデモを見たのは初めてだ。白人警官や市民に、罪のない黒人が殺害されることはこれまでもあったが、なぜ今回はこんなにデモが広がったのか。

自営業で市民運動家のジョシュ・ケイス氏(45)は、フロイド氏が殺害された際に撮影されたビデオが、大きな引き金になったとみる。

「これまでもビデオが残っている事件があったが、遠くからだったり、ぼやけたりしていた。でも今回のビデオは、公衆の面前で警官による殺人があったことがはっきりしていた」

ビデオからは、フロイド氏が警官の膝で9分近く首を押さえつけられ、2分過ぎに動かなくなる様子が分かる。

「ものを燃やしたりする過激な行動は、僕も10代から20代にやっていた。今の若者がそれをしてもおかしくない。正義が通らないことへの怒りはよく分かる」

ジャーナリストでミレニアル・Z世代評論家のめぐみ・シェリーさんも、フロイド氏殺害のビデオの迫力が、デモの広がりにつながったと分析している。

「膝で首を押さえ続けるのを見せつけられて、人種差別だけでなく、人格や人間を蹂躙していることが分かった。また、新型コロナの影響で自宅待機が長かったから、より多くの人がビデオを見て、何かしなくてはと通りに出たんだと思う」

危機感が強いZ世代

ワシントンDCのデモ

アメリカの首都、ワシントンDCで行われた反人種差別デモ(5月31日撮影)。参加しているのは、アフリカ系アメリカ人だけではない。

Getty Images/Tasos Katopodis

エクアドル・中国・ポルトガル系で市民運動家のクリス・パラシオス氏(35)は、過去に2回、警官に顔を車上に押し付けられたことがある。一旦停止で十分止まらなかったなどの疑いだった。

「あの怖さは忘れられない。今回、『息ができない』とジョージ・フロイドが言っていたビデオを見たときは、信じられない気持ちだった」

先のシェリーさんは25年以上黒人と結婚し、「黒人の命は大切だ(Black Lives Matter)」運動にも詳しい。彼女は今回、マンハッタンで黒人の人口が6割以上というハーレム地区のデモを目撃した。白人の住民は10%以下のはずだが、参加者の半分が白人の男女で、真剣な目的意識を持った平和的なデモだったという。

「新型コロナのため、集会は危険なことは分かっているけど、大切なことだからとほとんどの人がマスクをして参加しているのが分かった。『黒人の命は大切だ』という意識が浸透してきていると思う。

特に、Z世代(1990年代〜2000年代生まれ)は、半分以上が有色人種の構成となるので、今すぐに何かしないと大変なことになるという意識が強い」

「略奪が始まれば発砲が始まる」とツイート

これを執筆している5月31日夜(米東部時間)も、ニューヨーク、ボストン、シアトルなどでデモが続き、MSNBCによると、ホワイトハウスの近くで火災が起きている。

トランプ大統領は、ミネアポリスでデモが起きた際、次のツイートをアップし、Twitter側が「暴力を美化している」という注意書きをつける事態を引き起こした。

「悪党らはジョージ・フロイド氏への追悼をおとしめており、許せない。たったいまウォルツ・ミネソタ州知事と話し、軍は知事を全面支援すると伝えた。私たちは事態を掌握するだろうが、略奪が始まれば発砲が始まる」

ホワイトハウス付近のデモは連日続いており、ホワイトハウス職員は出勤を控えるように通告されている。トランプ大統領も一時、地下に避難したという。

(文・津山恵子

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