美しきトロントの町並み。近年、北米第3位の「イノベーションハブ」へと成長を遂げた。
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- フェイスブックとツイッターが打ち出した新たなリモートワークポリシーを受け、サンフランシスコ・ベイエリアからの「卒業」を考えるテック企業の従業員が増えてきている。
- なかにはカナダへの越境移転を選ぶ人もいるだろう。同国は緩やかな移民政策と生活コストの手頃さからテック人材のハブとして急成長している。
- 調査によると、カナダにオフィスをすでに設立したか、その準備中という企業が66%に達している。
- 同国でいま最もホットなのはトロント。事業用不動産サービスCBREのレポートによると、北米におけるテック人材の集積度はサンフランシスコ・ベイエリア、シアトルに次いでトロントが第3位につけている。
リモートワークの自由を得て、より良い環境で働きたいと考えるシリコンバレーのテック人材たちは、最後にはカナダを目指すのかもしれない。
カナダは過去数年間、シリコンバレーとシアトルを追撃するテクノロジーのハブを同国内に生み出そうとさまざまな取り組みを続けてきた。
そしていま、フェイスブックやツイッター、コインベースやスクエアが全従業員に永久リモートワークを認める計画を発表したことで、カナダの企業と政府当局は「ついにカナダの時代が来る」と希望を感じているに違いない。
カナダの強みとして、さまざまの魅力的なインセンティブやメリットがあげられる。国内のどこに住んでも生活コストが安く済むことがその一例で、割高なサンフランシスコとは比較にならないほどのお手ごろ感がある。
また、アメリカの移民政策が厳格さを増しているのに対し、カナダはむしろ外国人労働者の受け入れに積極的なポリシーを採用している。例えば、「グローバル・タレント・ストリーム」と呼ばれるプログラムでは、スキルをもつテック人材が労働ビザを迅速に取得できるよう便宜を供与する。
労働ビザ取得など移民関連サービスを提供するエンボイ・グローバル(Envoy Global)のリチャード・バーク最高経営責任者(CEO)はこう強調する。
「しばしば忘れられがちなのですが、アメリカの雇用主はサンフランシスコで人材を見つけられなくても、(カナダという)代替手段があるのです」
エンボイ・グローバルが最近行った調査によると、対象企業の66%がカナダにオフィスをすでに設立しているか、設立を準備中と回答している。
フェイスブックやグーグルのようなメガテック企業からスタートアップまで、より妥当な年収水準でテック人材を獲得できることから、トロントにサテライトオフィスを置いている(バンクーバーを拠点とするスタートアップも多い)。
スポットライトを浴びる新世代のテック企業
カナダの注目テック企業といえば、ECプラットフォームのShopify(ショッピファイ)。トビアス・リュトケCEO。
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もちろん、カナダにも地場のメガテック企業がまったくないわけではない。ブラックベリー(=かつての通信機器大手、現在は自動運転向けソフトウェアで知られる)のグローバル本社はウォータールーにある。
だが、いまカナダでスポットライトを浴びているのは新たな世代のテック企業だ。ECプラットフォームのShopify(ショッピファイ)がその代表例といえる。
近年、カナダ国内におけるテクノロジー拠点とそのネットワークの広がりが注目を浴びており、CBREのレポートによると、トロントでは2017年、サンフランシスコ・ベイエリアやシアトル、ワシントンDCの合計以上のテック関連求人があった。
さらに、CBREは別の(テック人材の集積度に関する)調査レポートは、トロントをサンフランシスコとシアトルに続く北米第三の都市と位置づけている。
新型コロナウイルスの大流行でリモートワークが市民権を得たことは、サンフランシスコとシアトルを抜き去り、次なるユニコーン(=時価総額10億ドル以上のスタートアップ)の波を呼び込みたいカナダあるいはトロントにとって朗報といえる。
北米第一の都市目指すトロント
新型コロナの影響で最近、アルファベット(=グーグルの親会社)傘下のサイドウォークラボ(Sidewalk Labs)は、トロントのウォーターフロントで計画していた近未来的スマートシティ構想を撤回。トロントはテクノロジー分野でコア試算となるはずのものを失った。
しかし、トロントはすでにテクノロジーにフォーカスした都市計画を推進する非営利財団を設立。北米で最大規模の都市型イノベーションセンターを建設し、そこにトロント大学や同大学のヘルスケアセンターも入居している。
同センターは1500の起業家とスタートアップの拠点として、「イノベーションエコノミー」を盛り上げ、カナダの経済成長をけん引する役割を果たすことになっている。
カナダのイノベーション拠点「MaRSディスカバリー・ディストリクト」の紹介動画。
出典:MaRS Discovery District Official Channel
「MaRSディスカバリー・ディストリクト」と呼ばれるそのイノベーションセンターは、すでにスタートアップの育成に貢献を果たしている。
例えば、国際的環境イベント「クリーンテックフォーラム」で選出されたイノベーター企業トップ100社に、カナダ企業12社がランクインしている。
MarSのCEOを務めるユン・ウーによると、その最大の要因のひとつは移民だという。彼自身が起業家としてアメリカからカナダに移る際に、両国の移民政策の違いを実体験している。ウーCEOはBusiness Insiderの取材に対し、こう語った。
「カナダはアメリカと異なり、成長のためにはテック人材の輸入が必要であることを認識している。イノベーション・ビジネスを推し進めることができるのはあらゆる面において人材の力しかない」
(翻訳・編集:川村力)