撮影:今村拓馬
2020年春から一新したローソンのプライベートブランド(PB)のパッケージデザインが、攻めている。
今までのコンビニの常識からは考えられない「おしゃれ」なデザインに、SNS上での評価は「かわいい」もしくは「わかりづらい」の二極化。同社のマーケティング責任者にその背景を聞いてみた。
「パケ買い」か「超不便」か
「L marche(エル マルシェ)」の一つであるお茶の新しくなったパッケージ。
撮影:西山里緒
新旧パッケージは並べると一目瞭然だ。
茶や菓子、冷凍食品などの「L marche(エル マルシェ)」と呼ばれる商品群においては、商品名のフォントはグッと小さくなり、写真に代わって中身や原材料などがわかる手描きのイラストが小さくあしらわれた。さらに牛乳や卵、パンなどの「L basic(エル ベーシック)」と呼ばれる日常使いの商品には、内容を示すシルエットのイラストだけが描かれた。
この大きなデザイン変更に、Twitter上では賛否両論の嵐が巻き起こっている。そのほとんどが「かわいい」もしくは「わかりづらい」に二極化している。
「ローソン最強に可愛いパッケージに変更しててパケ買いした」
「ローソンPB商品の新パッケージ、どれが何やら見分けがつかず超不便。眼鏡を忘れてきたので、いちいち手に取らないと商品名が読めなかった。なんでこんな反ユニバーサルデザインを採用するのかな」
「話題になってたローソンPBのパッケージ、なんやこれジュースか茶かもわからんやんけ…と思いながら冷蔵庫に詰めてたら娘2人が『なにそれ!かわいいー!』『ほんとだ!かわいいー!』って言うので思わず『ねー!かわいいよねー!!』と若い子に迎合してしまった」
担当者は「思ったより反響大きかった」
「面で見たときのインパクト」を意識したというローソンの新しいパッケージデザイン。
撮影:西山里緒
なぜローソンPBは、「パケ買い」を誘う斬新なパッケージに変わったのか?
ローソン マーケティング本部 本部長補佐の藤田和生氏に聞くと、同氏も「(SNSでの反響は)思ったより大きかった」と驚きを隠さない。
そもそもパッケージの変更は、ローソンの自社ブランドを統一するプロジェクトの一環だったという。
同社のブランド商品の歴史は実は長く、ヒット商品も豊富だ。
PBとしての「ローソンセレクト」が初めて発売されたのは2010年だが、それ以前から「からあげクン」(1986年)、フライドチキン「Lチキ」(2009年)などの商品を世に送り出している。
ここ数年で見ても、累計4000万食の販売(2020年1月時点)を突破した「バスチー」や、発売1年で5600万個を突破した「悪魔のおにぎり」など、話題性のある商品が目立つ。
一方で、ローソンブランドとしての統一した打ち出し方ができていないという課題意識があったという。
「売り場を面で変える」2年越しの大変革
各ブランドに「Lロゴ」を導入してブランドを統一。
画像:ローソン
そこでローソンは2018年から、ブランドの整理とPBリニューアルの取り組みを同時並行で進めてきた。プロジェクトは国内外で受賞経験のある佐藤オオキ氏率いるデザインオフィス「nendo(ネンド)」に一任した。
ロゴに関しては、Lの形をとった「Lロゴ」を「ナチュラルローソン」「からあげクン」「おにぎり屋」などに新たに導入。そして話題となった新パッケージデザインは、日用品や食品など約680品目に新装された。
コンセプトは「優しさ」。おしゃれで手に取りやすいだけでなく、部屋に置いたときに自然になじむデザインを目指したという。
「かなりチャレンジングなプロジェクトではありました。ただせっかく変えるなら、いったんデザインを振って(=振り切って)みよう、と。夏にかけて全ての商品が切り替わっていくので、面で見たときの『売り場が変わった感』を感じていただければ」(藤田氏)
職人セブンとおしゃれなローソン
セブンイレブンは「頑固なラーメン屋の店主」?
撮影:今村拓馬
「バスチー」「悪魔のおにぎり」などの大ヒット商品をいくつも抱えるローソンが、ここに来てPBの大変革を決断したのはなぜか?
コンビニジャーナリストの吉岡秀子氏は「そもそもローソンは、女性ウケの良いブランドづくりが得意だった」と同社のPBを分析する。
「2001年に開始した健康志向の商品を扱う『ナチュラルローソン』や『Uchi Café SWEETS』を始め、ローソンならではの“可愛さ”や“おしゃれさ”を支持する、根強いファンを持っています」
一方で、競合するセブンイレブンは2007年にコンビニ他社に先駆けてPB「セブンプレミアム」を立ち上げ、躍進させてきた。10年以上にわたって販売実績を積み重ね、2019年時点では他社を圧倒する4150アイテム、1兆4500億円の売り上げを誇るまでに成長した。
「セブンイレブンPBの特徴は“職人気質”。行列のできるラーメン屋の頑固な店主のような、本質を追求する傾向があります」
なお、2020年2月期の決算資料によると、セブンイレブンの国内チェーン全店売上高が約5兆102億円に対し、ローソンは約2兆8200億円と水を開けられている。挑戦者であるローソンが、すでに厚いファン層に裏打ちされたPBで“勝負”に出たのも納得できる。
ステイホームで激化するPB戦争
左が新デザイン、右が旧デザイン。
撮影:西山里緒
ちなみに、ローソンの先を行くセブンイレブンも、3月に大胆なパッケージ変更をしている。それも、ローソンとは真逆の「視認性」をより強く打ち出したリニューアルだ。フォントはより大きく太めのゴシック体になり、英語表記も大きくなった。
こちらもSNS上では「わかりやすい」「ダサい」と議論が二極化している。
「LAWSONのパッケージの商品名が分かりにくい批判を受けてなのか、セブンイレブンのパッケージの商品名の主張が激しくなってた」
「ローソンのリブランディングが話題になってる中、セブンのパッケージ(写真の緑茶)がよりダサくより分かりやすい方向に変わってた」
ローソンとセブンを巻き込んで膨らんでいる「コンビニPBパッケージデザイン論争」。
そもそもこんなに議論が白熱したのは、新型コロナ禍で多くの人が感染防止のために「ステイホーム」せざるを得なくなったことが関係しているのではないか、と吉岡氏はいう。
「コロナ自粛期間中は遠くのスーパーまで行けない上、自宅で三食作らなければならない。コンビニPBの中食や冷凍食品といったラインナップが、日々の食事で使うリアルな選択肢として、より鮮明に浮かび上がってきたのだと思います。さらに自粛期間中はネットをよく見るので、みんな(SNSで)言いたい。コロナがなければ、こんなに話題にはなっていなかったのでは」 (吉岡氏)
念のため、セブンイレブンの広報担当者にローソンを意識しているのか、と確認してみると「(新パッケージの導入が始まったのは3月なので)全く関係ありません」とのことだった。
奇しくも同じタイミングで真逆のPBパッケージリニューアルが行われた、ローソンとセブンイレブン。この「コンビニPB戦争」はどちらに軍配が上がるのか……。アフターコロナの消費者の行動に委ねられている。
(文・西山里緒)