撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
新型コロナウイルスの影響により、多くの企業で業績が悪化し、倒産する企業も出てきています。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、経済活動が完全に元通りになるのはまだまだ先でしょう。
こうしたなか、転職を考える方も多数いらっしゃいます。
私は2020年4月以降、オンラインで多くの転職検討者の皆さんとお話ししています。皆さんが今、どんな思い・目的を持って転職活動をしているのか、今の状況下で積極採用を行っているのはどんな企業なのかをお話しします。
今、転職を考えている人たちの3大理由
コロナ禍を機に転職を考える人たちも。彼らを転職に向かわせた理由とは?
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まずは、転職活動をしている方々の動向をお伝えしましょう。転職を考える理由は人それぞれですが、大まかには次のようなパターンに分けられます。
(1)コロナの影響で会社の先行きに不安を抱いている
コロナの影響による業績悪化が「一時期の我慢」で済めばいいのですが、事業存続が難しいとなれば「事業撤退」「部門縮小」の判断も下されます。すでにそれが起きている、あるいは起きると予想している方が、転職を見据えて情報収集に動いています。
また、「予定していたIPOが白紙撤回された」「事業売却の方向に動き始めた」といった理由で、新たな活躍の場を探している方もいらっしゃいます。
(2)コロナに対する自社の対応や姿勢を見て不信感を抱いている
新型コロナ感染拡大防止策については、そのスピードも内容も、企業によって大きな差が表れました。
スピーディにリモートワークに移行したり、サービスのオンライン化を図ったりする会社もあるなか、「うちの会社は対応が遅い」「対応する気がない」と苛立ちを感じた人も多いようです。
「そもそもリモートワークの環境を整備していなかった」「必要性がないのに『出社しろ』と言われる」「中長期的視点がなく、目の前のことに右往左往している」「リモートになったとたん、マネジメントの脆弱さに気付いた」など嘆きの声が。
経営陣の方針や力量に対して不信感を抱き、転職を考えるようになった……というわけです。
(3)考える時間ができたので自身のキャリアを再考している
在宅勤務になり、通勤時間や商談などでの移動時間が削減されたり、夜間の会合や飲み会がなくなったりと、皆さん、時間に余裕ができています。そこで、自身のキャリアや今後の人生についてじっくり考えた結果、転職が一つの選択肢に挙がってきた……という方もいらっしゃいます。
なかでも「勤務地」に対して、意識の変化が見られます。以前は「首都圏勤務でなければ」という方が大半でしたが、最近は「地方の求人も検討する」という方が増えているんです。
外出自粛期間中、人口密集地で暮らす窮屈さを実感した人は多いはず。自分や家族にとって心地よい暮らし方を見つめ直したのかもしれません。
なお、コロナを機に在宅でのリモートワークを経験して、「このスタイルでも十分働ける」と実感した人も。「むしろリモートワークのほうが生産性が高い」なんて声も聞こえてきます。今後は、リモートワーク中心で働ける企業を選び、郊外に広々とした住まいを構える人が増えていくかもしれませんね。
「今の時期だからこそ」人材採用に意欲的な企業も
さて、私がお会いしているのは主にリーダー、マネジャー以上のポジションの方々ですが、こんな声も多く聞こえてきます。
「この時期にあえて採用活動をしているのはどんな企業なのか見てみたい。話をしてみたい」
景気が悪化し、通常であれば採用を抑制するばかりかリストラが行われてもおかしくない状況です。そんななかで人材採用を行っているということは、「順調に事業拡大が見込めるからだろう」「中長期戦略をしっかり立てているのだろう」「資本政策がうまくいっているのだろう」……そう思うのでしょう。
コロナ禍で企業の採用活動は萎縮傾向。にもかかわらず、森本さんのもとへは転職希望者からの相談が多数寄せられている。
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では、実際、今の時期に積極採用を行っているのはどんな企業なのでしょうか。
皆さんも想像がつくところで言えば、「コロナの影響で業績が伸びている企業」です。
マスクや消毒液といった医療・衛生関連商品は言うまでもなく、オンラインでのミーティング・セミナー・採用面接などで使われる機器やシステム・関連サービス、ゲーム、書籍・エンタメコンテンツサービス、健康グッズ、オンライン学習サービス、ネット通販、フードデリバリー、物流関連などは需要増。
こうした商材・サービスを扱う企業では、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、エンジニア、バックオフィスなどの増員を行っています。
また、With/Afterコロナの時代を「ビジネスチャンス」と捉えている企業も。業務やビジネスのオンライン化がさらに進み、定着していくのを見越して、「SaaS型」のクラウドサービスを手がける企業が営業人材を強化しています。
業績悪化に伴い「コスト削減」に取り組む企業も増えると予測されますから、効率化を実現するITサービスも拡販のチャンスを狙っています。
一方、「戦い方を変える」ことを目的とした採用も。コロナ以前から、多くの企業にとって「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は大きな課題です。最新テクノロジーを活用したビジネスモデルの創出や業務改革に取り組んできました。
コロナ対策が長期戦となるなか、売上の維持・拡大のため、これまでオフラインのみだった事業をオンライン化する動きはさらに加速していくでしょう。
こうしたパラダイムシフトに対応するため、経営企画やマーケティングといった人材採用が継続して行われています。
このほか、コロナ禍以前に資金調達を成功させた企業、体力がある企業なども積極採用を行っています。多くの企業が採用を控えている今、「優秀な人材を獲得するチャンス」と考えているのです。
オンライン面接で選考スピードが大幅アップ
非常時である今は、会社や経営者の資質、思考の特性が浮き彫りになりやすいと言えます。
こんな時期でも、思考停止に陥らず、新サービスの開発を推進している企業もあります。「社員の成長を止めてはいけない」と、オンライン研修サービスを導入するなどして時間を有効活用している企業も。
転職を検討している人にとって、企業の柔軟性や変化対応力、成長性、働きやすさを見極めやすいとも言えるでしょう。
Withコロナでは採用面接もオンラインで行われるため、時間の融通も効き、通常時よりスピーディーに転職活動が進む傾向にあるという。
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なお、私が転職相談に乗っている方々は、「とりあえず情報収集」で終わらず、すぐに応募行動に移る方が大半です。なぜなら、在宅勤務が続く今の時期は、通常時よりも面接を受けることへのハードルが低くなっているからです。
面接はすべてオンライン。在宅勤務中は比較的自由に時間をコントロールできる人が多く、すぐに面接日程を組むことができます。
平常時であれば、応募者も面接官も多忙ななか面接日程調整をすると「2週間後の水曜日の18時以降に」なんてことが多かったものですが、今では「明後日以降、何日何時でもOK」という状態。
応募から1〜2週間の間に、3回程度のオンライン面接を経て内定に至る事例も複数生まれています。
内定前後には、応募者と企業側のメンバーで「Zoom飲み会」を開催。ビール片手に今後のビジョンを語り合い、お互いの理解を深める……ということも行われています。
不安が増す状況下、早まって転職に踏み切ることはお勧めできません。しかし、オンラインで「カジュアルな面接」がしやすい今、いろいろな企業と話してみるのはお勧めです。
内定を得たら必ず転職しなければならないわけではありません。自分が描く未来につながる道がどこにあるのか、イメージをより明確にするためにアクションを起こしてみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第20回は、6月15日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。