【エクサウィザーズ・石山洸1】介護AIで日本の超高齢社会に挑む「広さの天才」。社会課題の解決にテクノロジーを

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撮影:竹井俊晴

人工知能の世界にシンギュラリティが起きると言われる2045年には、日本の人口の6割が50歳以上となる。本格的な少子高齢社会に突入した日本の社会課題に対し、AIを活用して解決する——。

エクサウィザーズ(東京都港区)は、日本が抱える最も大きな社会課題、高齢化に真正面から取り組むAIスタートアップだ。

2019年はLinkedIn(リンクトイン)の「TOP STARTUPS(トップスタートアップ)」ランキングで、1位を受賞。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2020」で2位を獲得している。

“探索”を兼ねてピラティスもエステも経験

テーマは重厚だが、社長の石山洸(37)は、ゆるキャラ的な見た目も相まって、ポップで柔らかな印象を受ける。3月上旬に取材した折は、社名のロゴ入りパーカーを羽織り、ふらりと現れた。

プライベートでは精進料理を作り、ジャズピアノも玄人の粋。研究領域を広げる“探索”も兼ねて、自らピラティスやエステに通っているという。

「ピラティスはAIで画像解析もやっています。エステは、僕、ずっとパックしてるのかな? って思ってたら、セルライトを溶かすために超音波を使った医療機器を美容に転用していたりして、今すごいですよね。ビジネスにもサイエンスにもなるし、面白い分野だなと思って」

このフットワークの軽さと、またぐ領域の途方もない広さは石山の特徴であり、同社の特徴でもある。アイコンタクトができているか、相手との距離は適切かといった熟練者のケアの技能をAIが学習して初心者に教える「コーチングAI」、認知症ケア技法「ユマニチュード」の解析と普及など、医療・介護領域を主軸に、ロボット、人事、創薬、金融など多様な産業に領域を広げている。

目指すのは「プロブレムドリブン」

CEATEC

CEATECのキーノートに登壇する石山。コロナ禍前はほとんど毎週のように講演に登壇していたという。

提供:エクサウィザーズ

同社の前身のデジタルセンセーション創設者であり、現在はエクサウィザーズの取締役を務める坂根裕(45)は、石山を「広さの天才」と呼ぶ。

「石山さん自身はもともと、コンピュータサイエンスとマーケティング畑で、それぞれ得意領域は深い。だけれども、あの人(石山)は二刀流を通り越して、『n刀流』という感じなんだと思いますね。掛け算で各領域を横に伸ばすのが、実にうまい。言ってみれば、『広さの天才』ですよ。だから誰もいない未踏の領域に踏み出せる。

かつ、何が社会的にインパクトがあるかを、ぱっとつかむ能力も高い」

坂根の言う通り、石山の“探索”の目は社会的な影響に注がれている。

「AIは流行りでもあるけれど、テクノロジーを使えば何でもいいってものじゃない。僕らが挑むのは、社会的な価値が高い領域でAIを活用すること。先に課題ありき。『プロブレムドリブン』の考え方を重視しています」(石山)

これからは介護や医療は不可欠であり、超高齢化を見越して社会保障制度を持続させるには金融も必要だ。少子化による労働人口減少で労働力も補う必要があり、ロボット技術も欠かせない。

そんな発想で、「本当に解決しなければいけない課題」にフォーカスして取り組むのだと石山は言う。

「認知症介護のスキルを持つ社員もいて、彼らは介護現場に出向くことも厭わない。それぞれの領域に身を置くスタッフが現場の人たちとがっちり組んで、『課題側から』ものを見ていくんです」

コロナ禍で苦しむ在宅介護者を救う

介護イメージ

「介護×AI」を事業の軸に据える。

RUNSTUDIO / Getty Images

奇しくもコロナ禍は、少子高齢社会の課題をあぶり出した。

新型コロナウイルスの感染拡大により、訪問、通い、短期宿泊サービスを行う介護事業所の運営に黄色信号が点る。多くの施設がサービスを停止して介護難民が増えれば、在宅介護者の負担が一気に増す。少子化で介護力が細る中、家族単体ではとても介護の手が足りず、高齢者の認知機能低下や身体能力低下も懸念される。

そんな中、エクサウィザーズは4月28日から、地方自治体と連携して在宅介護者を技術面・精神面の両方からオンラインでサポートする「在宅介護者支援プロジェクト」を始動した。

年表

外出自粛の状況下でも、被介護者が活動量を落とさず運動機能を維持できるよう、同社が運営する運動プログラムの動画コミュニケーションアプリ「ケアコチ」を活用。気付かぬうちに運動能力が衰え、自分で動くことが思うようにできなくなったり体調不調を起こしてしまったりする「廃用性症候群」の対策が狙いだ。

運動の動画をアップロードした利用者には、理学療法士や作業療法士が遠隔から添削やコメントをする、いわば「赤ペン先生」の介護プロフェッショナル版のようなオンライン指導サービスもある。認知症介護向けには、AIを利活用した在宅介護者の負担軽減支援アプリの提供も予定している。

石山はもともとは、熱きサイエンティストである。東京工業大学大学院の修士2年間で、18本の論文を書いた。社会人になり一貫して抱いている思いは、常に、「ワーキング・ソーシャル・サイエンティスト(働く社会科学者)としてありたい」ということだという。

なぜ、「ソーシャル」に目覚めたのか?

「もともとリクルートでは、デジタルトランスフォーメーションをずっとやってきたし、マネタイズにも力を注いできた。だけど、もうちょっと社会的な価値が高いような領域でAIを活用したいという気持ちがすごくあったんです」

リクルートで手がけた「うつ病ビッグデータ解析」

石山洸

デジタルセンセーション時代に「ユマニチュード」の本場フランスにて研修を受ける石山(右)。左は坂根。

提供:エクサウィザーズ

きっかけは、「知人のうつ病をなんとかサポートできないか」と考えたことだった。

「リクルートに在籍していた頃、僕はうつ病の研究をしていたんです。知り合いがうつ病で苦しんでいて、ケアする人もどう導いてあげればよいのか分からない状況が続いていて。

一方で、自分にはコンピュータ・サイエンスの知識がある。サイエンスとテクノロジーと現場のニーズとを掛け合わせて問題解決ができないかな? と考えたのがそもそもの始まりです」

2012年には、新規事業を生み出すリクルートの実証研究機関「メディアテクノロジーラボ(MTL)」から、うつ病の人のための行動記録のためのスマートフォンアプリ「うつレコ」をリリース。リクルートグループの関連会社が精神障がい者向け就業支援サービスを行っており、実証研究の協力も得やすい環境だった。

石山は、『ツレがうつになりまして。』の漫画を描いた細川貂々にアイコンのデザインを依頼した。アプリを無料で提供し、ダウンロード数が軒並み伸びたことで、数年間で数万人分という大規模なデータセットを集めて研究ができるようになった。

「結構安い金額で作って、広告宣伝費もなくリリースしただけなんですが、いきなりAppストアのメディカル部門1位になりまして。世界からも重宝される、『うつ病ビッグデータ』になったんです」

その後、2015年に石山はリクルートのAI研究所である「Recruit Institute of Technology」を設立して、初代所長に就任。その頃、石山が意識したのは、アメリカの神経科学者で精神科医でもあるトーマス・インセル博士の存在だ。「アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)」元所長であり、グーグルの親会社の医療部門に引き抜かれて移籍した人物だ。

インセル博士はビッグデータ解析に基づくうつ病研究に従事し、その後はヘルステック企業を興して独立。新しいうつ病のアプリケーションを開発している。

石山は、自らのバックボーンでもあるコンピュータ・サイエンスに限りない可能性を感じ、「メンタルヘルスにAIはどこまで活用できるのか?」という挑戦心に火がついた。

うつ病の予測AIから介護AIへ

ユマニチュード

ユマニチュードは、体育学を専攻する2人のフランス人、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって作り上げられた。

提供:エクサウィザーズ

「じゃあ、自分には何ができる?」

「Recruit Institute of Technology」では、それまでに集まっていたうつ病のデータを機械学習のプラットフォーム「DataRobot」で分析し、睡眠時間、気分、行動などのデータから、次の1週間の体調を80%程度の確率で予測可能というところまで精度を上げた。

やがて石山の目は、うつ病の予測へのAI活用から、介護へのAI活用へとシフトする。認知症の人へのケアの領域だ。

当時のリクルートが取り組んでいた介護事業の担当者から「ユマニチュード」のケア技法を紹介され、「これだ!」と開眼。ユマニチュードは〈見る〉〈話す〉〈触れる〉〈立つ〉を4つの柱としたさまざまなケア技術で実践していく、フランス発のコミュニケーション・ケアメソッドだ。「最期の日まで人間らしい存在であり続けることを支える」という哲学がベースにある。

認知症の人は、例えば介護者がオムツを交換するため普通に近寄っていくとパニックを起こすことがある。いわゆる、「介護拒否」だ。それは「認知」の能力が低下しているためであり、本人からすれば、「いきなり知らない人にズボンを脱がされた」などと独特の感じ方をしていると考えられている。

そこで、ユマニチュードでは真正面から20センチ以内の位置に立ち、相手の目を見て、「今は、◯◯をしているんですよ」と声で伝えながら動く。身体に触れる場合は、背中をなでるのが安心しやすい。こんなふうに、認知能力が低下した人の特性をキャッチしながら人間らしい接し方をするための方法論が整理され、体系化されている。

社会的に価値が高い領域で/AIを活用したい。

こうしたケアの導入で、介護を受ける人の拒否反応が有意に減り、介護する側の負担軽減にもつながる、といった検証も行われている。

石山は言う。

「ユマニチュードのケアは、うつ病の人にも効くかもしれないと直感的に思ったんですよ。医療機関にかかって薬を処方してもらう医療モデルでは、触覚を利用したタッチケアというのは介在しない。

けれど、データ解析により、うつ病の人にいい変化をもたらすアプローチが分かるようになれば、家族や近くにいる人が実践できるかもしれないと。

なので今、エクサウィザーズでは認知症だけでなく、うつ病の人へのケアにまつわる研究開発も進めています」

技術の進歩によりディープラーニングなどで解析が進むようになった今は、動画や音声などの非構造化データを解析できる。

石山は、介護者と被介護者の位置関係、目線や交わした言葉、触れ方、ケアを行うと症状がどう変化するかまでを全てデータ化していけば、新しいケアの世界が拓けるかもしれないと考えたのだ。

実際、坂根と出会うことで、現在はエクサウィザーズで介護へのAI活用を具現化している。

当初、石山はリクルートの中でケア領域の研究を深める手立てはないかと模索していたが、リーマンショックを機に、リクルートは多くの介護事業から撤退することになった。それでも石山は介護事業を諦めず、転職し、ついにはAIスタートアップ2社の合併劇を経てエクサウィザーズを立ち上げる。

次回は、彼ならではの突破力を探ってみたい。

(敬称略、明日に続く)

(文・古川雅子、写真・竹井俊晴、デザイン・星野美緒)


古川雅子:上智大学文学部卒業。ニュース週刊誌の編集に携わった後、フリーランスに。科学・テクノロジー・医療・介護・社会保障など幅広く取材。著書に『きょうだいリスク』(社会学者の平山亮との共著)がある。

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