シッターが預かり中の「わいせつ容疑で逮捕」の衝撃、キッズラインの説明責任を問う

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ベビーシッターの大手マッチングプラットフォーム、キッズラインの登録シッターが逮捕された事件は、親たちに衝撃を呼んだ(写真はイメージです)。

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学校の教員、保育士による子どもに対する性犯罪のニュースが後を絶たない。

どの事件も被害者の心の傷を思うと言葉を失うものだが、2019年11月に起こり、2020年5月に、ベビーシッターマッチングアプリの大手、キッズラインが舞台だったことが明らかになったベビーシッターによる性犯罪はとりわけ深刻に受け止める必要がある。

ベビーシッターは通常1対1で、第三者の目が届かない時間が長い。子どもが抵抗した場合などに、第三者がいる環境であれば、犯行を諦める可能性もある。

しかし密室では、加害者に逆上されるなどして更に深刻な被害につながるのではという懸念もある。

実際に、2014年3月には埼玉県富士見市の自宅マンションでベビーシッターの男が、インターネット上の掲示板を経由して預かった、2歳の男児を殺害したというショッキングな事件があった。

同事件を起こしたベビーシッターが利用したのは匿名の掲示板で、利用者とシッターをマッチングするようなものだったが、きちんと本人確認や評価システムがあり、日本でもシッターが利用しやすくなればという社会的使命を掲げて2015年に経沢香保子社長が始めたのがキッズラインだ。

キッズラインのシステムは自社でシッターを雇用するなどして責任を負って派遣をする従来型のシッター会社とは異なり、保育士資格などがなくても登録説明会に参加し、対面もしくはオンラインでの面接を受けて合格すると登録ができる。

5月時点の登録フローによれば、免許証などの本人確認書類を提出したうえで、経歴チェックや実地研修(訪問もしくは、オンラインによる研修とテスト)を経て、自治体に認可外保育施設設置届の提出をする必要がある。

悪意のある加害者を防げるのか?

キッズラインHPスクリーンショット

キッズライン公式ホームページのスクリーンショット。

出典:キッズライン公式ホームページ

シッター(キッズラインではサポーターと呼ぶ)は個人でプラットフォームに登録し、自ら時給などを設定する。利用者は利用希望日時に来てもらうことができるシッターをアプリ上で選び、依頼をする。

利用者同士で起こった紛争には法的責任を負わない(キッズライン利用規約:2020年5月17日確認)としているものの、経沢社長は「(キッズラインは)面接と研修をしている」と、匿名掲示板との違いをアピールしており、今回そのような形で一定の質の担保がされているはずのキッズラインで事件が起こったことで、ニュースを知った親たちには衝撃が走った。

キッズラインでは利用者同士による評価システムがあり、それも経沢社長の売りの一つだった。しかし、キッズラインの利用経験者からは「相手にどんな評価をしたのかが分かってしまうので、報復評価などを恐れて低い評価はつけづらい」という声がツイッターなどで複数あがっており、これは私自身も一時利用したことがあった際に感じたことであった。

実際に、キッズラインでは多くのシッターは評価が★5の最高値である。今回の被疑者がどのような評価を得ていたのかは不明だが、安心材料の評価システムも十分に機能していなかった可能性がある。

被害者への心配りと社会への安心を

release

事件および一部報道について触れた、キッズラインのプレスリリース。

出典:キッズラインのホームページ

問題なのは、この事件が2019年11月に起こった後の、キッズラインの対応だ。キッズライン側からこの事件について公に発信されたのは、AERA.dotの報道を踏まえた5月3日のプレスリリースのみだ(6月4日正午時点)。

プレスリリースには、「本件に関しましては、警察より被害者のプライバシー保護のために公表を控えるよう要請があり、準じてまいりました」(プレスリリースより抜粋)とある。

事件後、警察側に止められていたから発表しなかったと主張しているが、そのプレスリリースも静かに「運営からのお知らせ」に提示されたのみで、全ての利用者へのお知らせメールや利用画面への注意喚起という形で表示されることはなかった。

ことの重要性を鑑みれば、記者会見等で他に同様の被害がなかったかの検証や、評価システムの運用の見直しといった具体的な対策などを発表し、被害者への心配りと社会への安心を届けても良かったのではないか。

経沢社長のTwitterではプレスリリースについて一度つぶやいたのち、通常の発信にもどって、それ以降5月中に事件については触れることはなかった。

なぜ利用者周知が大事なのか

子連れの母親

シッターに逮捕歴があったとしても、事業者側が自治体側の犯罪データベースへの照会ができるわけではないという問題がある(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

本件について、私はキッズライン広報に質問状を送り、それに対して弁護士から回答を得ているが、その回答を読む限り、 以下の2点から キッズライン側の主張は、「今回の被疑者を事前に検知することは難しかった」というものだ。

まず、 プレスリリースでは登録時に「過去の犯罪歴などの経歴チェック」を行っているとしているものの、

「逮捕歴や前科の有無については、秘匿情報として警察、検察庁、各自治体が管理しており、外部からの開示請求に答えていただくことができません。 そこで、報道等の公知情報を可能な限り収集し、そのうえで上記チェックを行っています 」(筆者への回答書より抜粋)

という。その上で、以下の手続きの申し入れをしているという。

「弊社登録のすべてのサポーターは、全員が各自治体に届出しており、自治体は届出サポーターの犯罪データベースを保有しているため、弊社にも共有してもらえるよう申し入れなどしています」(筆者への回答書より抜粋)

つまり、現制度においてできることはしているが、登録者が全員自治体に届出を出したところで、自治体側の犯罪データベースとの照会が許されているわけではない。

また、そもそも今回の被疑者は登録時には逮捕歴がなかったため、仮にこのデータベースが共有されていたとしても、事前に検知することはできなかった。

また、キッズライン側は私への回答で以下の指摘もしている。

「報道の中には、『AERA.dot』のように、あたかも、弊社がずさんな審査に基づき登録したことを原因として、本件が発生したかのように報じるものがあります」

その上で

「他にも内容が著しく誤った記事が発信されたり、それがソーシャルメディアなどで拡散することにより、弊社の信用は不当に、著しく毀損されており、現在報道機関に対する苦情申し入れを正式に行なっております」(筆者への回答書より抜粋)

との考えを明らかにしている。

個別での申し入れだけでなく、公の場できちんと記事のどの部分が違うのかを説明してほしいが、あくまでもキッズライン側の説明は、これまでも厳格に審査をしてきたし、再発防止策も打ちました、というものだ。

「厳格な審査」でも、起きてしまったなら

キッズラインの審査については、事件後に新型コロナ対応で無料登録会をオンライン化するなど個人的に疑問に思う点もあるものの、それが犯罪を働く人物の登録に直結しているとは言い切れない。

また他社に比べてどうだったのか、実際に審査プロセスに問題がなかったのかどうかは、現時点では私には評価し論証するだけの材料が足りていない。

しかし、ここで仮に、キッズライン側の「厳格な審査をしている」との主張こそが事実だとしよう。

それでも、今回のように、登録シッターが子どもに性犯罪をはたらくという事態は、現実に起こってしまった。厳格な審査はしている、そして評価システムで見極めることは難しい。

ということは、論理的に考えて、このように登録シッターがキッズラインのプラットフォームを使って性犯罪を行うという事件は、今後も起こりうるということではないのか。

であれば、利用者はそういうリスクがあることを知って、使う必要があるというのが私の主張だ。

だから「プレスリリースを出しました」ではなく、利用者への事実関係とリスクについての周知を徹底してほしい。

利用者が防衛できるための情報を

携帯を見ている女性

利用者がリスクを周知したうえで利用すれば、予防できるものもあるかもしれない(写真はイメージです)。

Shutterstock/leungchopan

利用者への周知があり、こういう事件があったこと、そのリスクを知っていれば、どうなるか。

そもそも代替手段を考えるか、何度か親が在宅の時に隣の部屋でシッティングをしてもらい、違和感があったらその後使わないなどの意識をもって予防できる点もあるかもしれない。

私が住んでいるシンガポールでは住み込みのメイドさんを雇うことができるが、祖父母の目があるところでしか子どもの面倒を任せないというシンガポール人も多い。

そのような使い方では本当に育児への手助けがない人の解決策にはならなくなってしまうが、子どもに傷を負わせると言う最悪の事態を防ぐことは何事にも代えられない。

性被害は子供が親に訴えられる年齢ではなかったり、言いづらい特性があったりする。

他に似たような被害がなかったのかどうかは慎重に調査をし、監視カメラは果たして有効か、何に気を付けていたら感知できたのか、性犯罪の専門家に助言を受けるなどして発信してほしい。

何か事故が起きてしまった時こそ、企業がそのことにどう対応するかが問われる。事件の検証と対策がしっかりしていれば、それが企業への信頼、利用者の安心感につながる。

シッターが頼めなかったら困る親がいる。キッズラインがあったことでシッター側も働き方の選択肢が増えていたはずだ。

しかし、親が安心して頼めて、優良なシッターが活躍できるためにも、プラットフォーマーが信頼を確保する必要がある。

短期的利益より、同社が掲げている「日本にシッター文化を」という社会的意義を達成するための行動を求めたい。

国が取るべき対策はある

キッズラインを含め、現在は内閣府などから、企業や個人事業主に対して、ベビーシッターを利用する際の補助金なども出ている。

子育てが社会化されていく方向としては親として本来大歓迎だ。しかし、子どもが被害者になり得て、子ども自ら選択ができないこの領域を市場化すること自体に反対の声もある。やはり仲介企業がしっかり質を担保しようとすれば、相応の費用がかかる。

国としても、その質を担保するための補助金を出すなどの方策を考えるべきだ。

また、それですべての犯罪を防げるわけではないが、子どもにかかわる領域で働くには無罪証明が必要という国もあり、日本でも業種を限定する形で犯罪歴チェックができる枠組みなどを検討してほしい。

(文・中野円佳)


中野円佳:1984年生まれ。東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社等を経てフリージャーナリスト。立命館大学大学院先端総合学術研究科での修士論文をもとに2014年『「育休世代」のジレンマ』を出版。2015年東京大学大学院教育学研究科博士課程入学。厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員等を務める。2017年よりシンガポール在住。著書に『上司のいじりが許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』。2児の母。

※編集部追記:この記事の取材後の6月4日午後、キッズラインは「2020年6月4日14時から、男性シッターによる新規予約受付を一時停止します」とのお知らせをホームページ上で公開しました。(2020年6月4日16:45)

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