失業手当で「貯蓄過剰」のアメリカ家計。成長の原資となるか、停滞の元凶になるか、目が離せない…

karakama_savings_labor_admin

新型コロナウイルスの影響で職を離れた人々に、手厚い失業給付を行ったアメリカ。その帰結は今後の経済状況にどう響くのか。

REUTERS/Andrew Kelly

日々明らかになる基礎的経済指標は、「予想通り壊滅的」という結果が続いており、もはやいかにショッキングな数字が出てきても、もはや資産価格の形成に大きな影響をおよぼすことがないのが現実だ。

それでも、5月29日に公表されたアメリカの4月個人消費および所得は、今後アメリカひいては世界経済がたどっていくだろう未来を暗示しているように思えた。

4月個人消費(季節調整済み)は前月比-13.6%と、現行統計が始まった1959年以降で最大の落ち込みを記録した。

アメリカ経済の約60%を占める個人消費がこうした仕上がりとなったことで、第2四半期(4~6月)の成長率が大恐慌以来の悪化となる可能性は相当に高まったと考えられる。

なお、米連邦準備制度理事会(FRB)が物価目標において目安とする個人消費支出デフレーター(PCE価格指数)は、変動の大きい食品・エネルギーを除いたコアベースで同-0.4%、2001年9月以来の落ち込み幅となった。前年比で見ても+1.0%で、2010年12月以降で最小の伸び幅だった。

好調な経済を背景に金融政策の正常化をはかろうとFRBが年4回の利上げを行ったのはわずか2年前の話。もはや隔世の感がある。

karakama_savings_graph_1

【図表1】アメリカの個人消費と個人貯蓄の推移。右端の振れ幅の大きさを見れば、今回の事態の異常さは一目瞭然だ。

出典:Macrobond資料より筆者作成

今回の個人消費の落ち込みが、歴史的に見てどれほど異常事態なのかは、図表1を見れば一目瞭然だ。2000年代前半のITバブル崩壊も、2008年9月のリーマンショックも、今回のショックの前では霞んでしまう。文字通り未曽有(みぞう)のショックだ。

迫りくる「貯蓄過剰の世界」

個人消費が急減する一方で、個人所得は前月比+10.5%と過去最大の伸びを記録し、中心的な市場予想(同-5.9%)と正反対の動きを示した。

給与所得は予想通り激減したものの、「コロナウイルス支援・救済・経済保障法」にもとづく失業手当の給付が予想をはるかに超える伸びとなった結果だ(この点、特別定額給付金の支給が遅れて話題となっている日本とは対照的だ)。

個人所得を具体的にみると、「賃金・給料」は同-8.0%と減少したものの、それを「失業保険などの労働者補償」が同+89.6%と補って余りある伸びを示している【図表2】。

karakama_savings_graph_2

【図表2】アメリカの4月個人消費と個人所得。労働者補償の伸びがものすごい。

出典:Macrobond資料より筆者作成

所得が急増して、消費が急減したので、当然ながら貯蓄(所得マイナス消費)は急増し、結果として4月の貯蓄率は前月の12.7%から過去最高の33%へと急騰した。ちなみに、貯蓄率の過去10年間の平均は7.6%だ。

この貯蓄率の上昇には、(1)経済再開後の成長をけん引する原資と見なすのか、(2)経済停滞の元凶と見なすのか、というふたつの解釈があり得る。

通常の景気後退であれば、(1)の発想にもとづき、期待を膨らませるのが妥当だろう。実際のところ、そのような展開をメインシナリオに置くのが現状では多数派のようだ。

だが、今回のように先が見通せないショックでは(2)の可能性も視野に入る。(1)を楽観シナリオとすれば、(2)は悲観シナリオとも言える。

日本の「失われた20年」と同じ道を行く可能性

karakama_savings_strong

ニューヨーク証券取引所(NYSE)前、「恐れを知らぬ少女」像。

REUTERS/Mike Segar

冒頭で「アメリカひいては世界経済がたどっていくだろう未来を暗示している」と述べたのは、上の(2)の見方に立つものであり、以前の寄稿『コロナ後は「日本型」貯蓄過剰が世界の潮流に。「お金を使わない正義」という停滞がもたらすもの』で指摘した論点をなぞる見方だ。

同寄稿では、アフターコロナの経済・金融情勢を考えたとき、家計や企業が消費・投資意欲を控え、民間部門全体が「貯蓄過剰」を常態化させる恐れがあると指摘した。

その結果として、物価や金利が低位安定し、世界経済が日本の「失われた20年」と同様の道を歩むという、あまり明るくない未来を論じた。

もちろん、今回の4月個人消費・所得のような極端な数字は、疫病と財政政策によるショックが同時発生したあくまで特殊なケースであって、今後何度もくり返されるとは考えられない。

それでも、当面の貯蓄率(可処分所得に占める貯蓄の割合)が長期平均(例えば10年平均の7.6%)に対してどのように推移していくのか、といった視点は、今後のアメリカ経済を占う上できわめて重要になると筆者は考えている(図表3)。

karakama_savings_graph_3

【図表3】アメリカの貯蓄率の推移。右端が4月の貯蓄率。異常な数値だ。

出典:Macrobond資料より筆者作成

これまでの傾向に照らして、家計部門の貯蓄率が一向に下がってこない、高止まりするような様子が年単位で確認されるようになった場合、アメリカの経済・金融情勢はもとの姿に戻らない可能性も視野に、資産価格の現状や展望を語ることも必要になってくる。

あくまでリスクシナリオと考えたいものの、可能性がそれほど低いとは言えないように筆者には思える。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み