大きなポートには、このような立て看板とともに複数台のLUUP Cycle Liteが設置されている。
撮影:小林優多郎
電動キックボードをはじめとした電動マイクロモビリティを開発するLuupは、5月25日(月)に渋谷や中目黒などを中心とした6区(渋谷区、目黒区、世田谷区、港区、新宿区、品川区)で、非3密型の移動手段として小型電動アシスト自転車「LUUP Cycle Lite」を使ったシェアリングサービス「LUUP」の提供を開始した。
利用料金は、初乗りが10分100円。以降、1分ごとに15円ずつ加算される仕組みだ。ほかにも特別定額パックとして、1日あたりの使用時間は限られるものの、1日、1週間、1か月単位のパック料金も設定している。
Luupはもともと、国内への電動キックボードの導入を目指していたはずだが、なぜ、ここであえて電動アシスト自転車のシェアリング事業に参入したのか。
同社の岡井大輝代表は、その狙いについて、
「電動キックボードのサービスをいきなりローンチするのは難しい。そもそも、小さなベンチャー企業が突然まったく新しいものを導入しようとしても、会社としての信頼性が現時点ではそれほど高くない。まずは自転車という馴染みやすいものからスタートして、LUUPをユーザーや街自体に好かれるサービスにしていきたい」
と話す。
そしてもちろん、
「将来的には、今回設置した小型電動アシスト自転車を電動キックボードに置き換えることも想定しています」(岡井代表)
と、引き続き電動キックボードの開発・普及にも力を入れていくとした。
今後を見越しているからこその自転車シェアリングサービスへの参入。
実際の乗り心地はどうなのか、試してみた。
初乗り10分100円、QRコードの読み込みで一発ロック解除
アプリでは、このようにいくつものポートが表示される。
撮影:三ツ村崇志
LUUPを利用するには、まず専用アプリ「LUUP」への登録が必要だ。6月5日の段階では、iOSにのみ対応している。
アプリを起動すると、名前や生年月日の入力とともに、支払い用のクレジットカードの登録が求められる。PayPayやLinePayなどの電子マネーでの支払いには未対応だ。
登録が完了すると、自転車置き場となる「ポート」がアイコンとなった地図が表示される。なお、サービス提供を開始した5月25日の段階で、ポートは全部で57か所。使用可能な自転車は50台だという(今後順次ポートや台数を増やしていく予定)。
アプリでは、ポートのアイコンをタップすると、ポート周辺の様子を写真で確認できる。
大きな駐車場の一部など、比較的広い場所に複数台の自転車を設置しているポートならまだ分かりやすいものの、カフェなどの飲食店の脇に設置された1台分の小さいポートには、正直なかなか気づきにくい。ポートの場所を画像で説明してくれているのはありがたい設計だ。
また、写真といっしょに、そのポートに設置された自転車の「使用可能台数」や「返却可能台数」も表示される。
アプリでは、このように各ポートの詳細が画像とともに表示される。ここでは、神泉駅近くのポートと、代々木八幡駅近くのポートを比較した。
出典:アプリ「LUUP」よりスクリーンショットを撮影
シェアリングサービスでは、自転車を借りるポートと返すポートが別になっても良い。
ただし、LUUPで使用できる「LUUP Cycle Lite」は、「小型」電動アシスト自転車ということもあり、大きさはキックボード以上、ママチャリ未満と自転車にしては小さい。自動販売機1台分程度のスペースがあればポートを設置することができる反面、そういった小さなポートでは返却可能台数も限られる。
自転車を返却しようと思ったら既にポートが埋まっていた、という状況が発生しないように、利用する際には返却するポートを先に選ばなければならないのだ。
実際に自転車を借りるには、アプリの「ロック解除」ボタンをタップし、自転車のサドル下にプリントされているQRコードを読み込むだけ。
通信状態に問題なければ、これでロックが解除されて使用可能な状態となる。
なおこの間、暗証番号の入力といった手間は一切かからなかった。
小径タイヤで坂道スイスイ。小回りも抜群。
サドルの下には監理用のロックが備え付けられており、そこにロック解除用のQRコードがプリントされている。
撮影:三ツ村崇志
筆者は、サービスがスタートした直後の週末、複数のポートがある渋谷駅近くで自転車を借りて乗ってみた。
まずは走り出し。車輪が小さい分、踏み込みは軽い。さらに、電動アシストの効果で想像よりもスムーズに加速できた。動き出しは上々だ。
また、渋谷駅周辺は、道玄坂、宮益坂をはじめ、急な坂道が多い。自転車での移動には一苦労するかと思っていたものの、そこは小型とはいえさすがの電動アシスト自転車。坂道でも立ち漕ぎなどで力を入れる必要はまったくなく、座ったままペダルを漕ぐだけでスイスイのぼることができた。
坂道をのぼるときにかけた力は、一般的な車輪の大きな電動アシスト自転車と大差が無いような印象だった。
更に特筆すべき点としては、その小型さ故の小回りの良さがある。
筆者が試乗した日の渋谷は、緊急事態宣言が明けた直後。人通りはそれなりにあった。
スピードをある程度抑えていたとはいえ、小回りがよく効き、道路を横切る人ごみの中でも危なげなく移動することができた。
LUUP Cycle Lite。いわゆるママチャリと比べると、明らかに小型だ。
提供:Luup
車輪が小さいため、長く平坦な路面で速度を出そうとすると確かに大型自転車と比べて物足りなさは残る。しかし、街中でちょい乗りする分にはこれで十分だろう。
一方、少し課題に感じる点もあった。
キックボード以上ママチャリ未満という、大人が乗るには慣れないサイズ感の影響か、ごく一般的なサイズの自転車に比べてやや不安定さを感じることがあった。
これは、LUUP Cycle Liteの売りのひとつである「小型で小回りが効く」という面と表裏一体だ。
電動アシストが効いて、少し漕いだだけでもスムーズに進み始める点も長所ではあるが、それと同時に、久しぶりに自転車に乗るような人にとっては、「思ったよりも進む」ことは少し注意が必要な点だと感じた。
QRコードを読み込んで利用を開始し、返却時にはカメラで返却したようすを撮影する。
出典:Luup
そうこうしているうちに、返却地として設定したポートへ到着。
自転車を返却する際には、最後に「ポートに自転車を正しく返却した写真」を撮影するというひと手間が必要になる。撮影された写真は問題なければ、ほんの数秒で返却完了の通知がくる。
このひと手間は、自転車を返却する際に、乗り捨てるような雑な扱い方を防止する効果を期待してのこと。
岡井代表が話す「ユーザーにも好かれ、街にも好かれる」というサービスを目指すための設計だといえる。
最後の「のりしろ」に需要はあるのか?
小さな車輪にスタイリッシュな仕様。こんな自転車が渋谷の街を走り回る様子を見慣れる日が来るかも知れない。
撮影:小林優多郎
都内における自転車のシェアリング事業は、ドコモのバイクシェアなどをはじめ、いくつか大きなサービスが知られている。その中に飛び込む中で、LUUPに勝ち目はあるのだろうか。
現代の移動手段は、電車・地下鉄・車が多い。ただし、これらの交通手段では、主要ターミナル駅や、大きな道路沿いまでの移動はできるものの、街中の細い道の先にあるお店などには直接アクセスできない。
結果的に、最後の数百メートル、数キロメートルの区間は歩かなければならない。
岡井代表は、この最後の数百メートル、数キロメートルの移動を「のりしろ」と捉え、その移動手段として小型電動アシスト自転車が活用できるのではないかと考えている。
「LUUPは、かなり狭いエリアに、ポートを高密度に設置することができます。例えば、飲食店やカフェの前にある自動販売機を置く程度のスペースがあれば設置が可能です。そういったお店にとって、LUUPのポートを置くことで創客につながるようにしたい。
今回の取り組みは、短距離の移動に根源的なニーズがあるかどうかを検証する意味もある」(岡井代表)
サイズがある程度大きな自転車を利用する既存のシェアサイクルは、設置されているポートの面積が大きく、ポート間隔も比較的広い。そのため、小さなポートを狭い領域にたくさん設置して、移動の「のりしろ」を埋める戦略をとるLUUPとは、そもそも活用のされ方が異なることが想定される。
この戦略がうまくいけば、同社が開発に取り組む電動キックボードにも、単なるエンタメとしての利用ではなく、短距離移動の手段としての需要が見込めるのではないかというわけだ。
シェアサイクル事業に取り組んでいる企業はいくつかある。一般的な大型の自転車を活用する場合は、ポートもある程度大きくなければならず、設置できる場所も限られる。そのため、都市部では通勤や買い物、地方では観光用など、ある程度移動距離のあるときに使われるケースが多いという。
撮影:三ツ村崇志
実際、ドコモシェアサイクルの広報担当者に話を聞くと、都内における同社のシェアサイクルの利用方法の多くは「通勤手段」だという。それも、4月、5月の間は、緊急事態宣言の影響を受けてか利用数が減っているという。
新型コロナウイルスの流行によって、電車や地下鉄といった満員電車に乗るリスクを避けたい人も多い現状。そんな中、ちょっとした移動に使えるシェアリングサービスは、人の心に刺さるのか。
小型の電動モビリティは、乗ってみて初めてその楽しさが実感できる。この先、LUUPが渋谷の街を走り回る姿が、見慣れてくるかもしれない。
(文・三ツ村崇志)