最近になって、「多様性/ダイバーシティ」や「包括性/インクルージョン」をテーマにした書籍が刊行されており、今後もさらに多くの出版が予定されている。
Lechatnoir/Getty Images
- 全米に広がった抗議行動によって、アメリカに存在する人種を理由とした不当な扱いや不平等が注目を集めている。
- こうした状況を受けて、アメリカのビジネスリーダーは、職場における「多様性/ダイバーシティ」や「包括性/インクルージョン」について、率直な意見を交わしている。
- 多様性や包括性について、さらに理解を深めるための方法の1つが、これらのテーマに関する本を読むことだ。
- この記事では、『Inclusify』や『Subtle Acts of Exclusion』などのアメリカでのベストセラーをはじめ、すべての企業の幹部や管理職が知っておくべき12冊の必読書をまとめた。
ジョージ・フロイド(George Floyd)氏の死をきっかけに起きた抗議行動は、5月末から6月初めにかけて全米各地に広がった。人種差別に反対し、多様な人々を受け入れる社会を求める声は、かつてないほど大きくなっている。
フロイド氏の死を受けて、ビジネスリーダーたちは声明を発表しているが、多様性をより重視した職場の文化を作っていくためには、企業はさらなる行動が必要だという意見も出ている。多様性を受け入れる企業文化の創成に向けて、企業幹部や人事部門の責任者が理解を深めるための1つの方法が、これらのテーマに関する本を読むことだ。
幸いなことにこの分野は、思わず引き込まれる、興味深い著作に事欠かない。リーダーとしての能力を磨くために読むべき本を探しているなら、この記事で紹介する12冊から始めてみてほしい。
『Inclusify』ステファニー・ジョンソン(Stefanie Johnson)
HarperCollins
マネジメントの専門家である著者はこの本の中で、「集団になじみたい」と「自分の個性を発揮したい」という従業員が持つ2つの基本的な欲求を解き明かす。この本は企業のリーダーに向けて、部下たちの最高の部分を引き出すためのロードマップを示している。そのカギは、単に多様性を許容するだけでなく、職場の方針の中に組み込んでいくこと、すなわち「インクルーシファイ(Inclusify)」することにあるという。
『Subtle Acts of Exclusion』ティファニー・ジャナ(Tiffany Jana)、マイケル・バラン(Michael Baran)
Berrett-Koehler Publishers/Penguin Random House
人が持つ偏見は、マイクロアグレッション(無意識に行われる差別)や、あからさまではないが無自覚な、人種、性、年齢、能力に基づく差別など、さまざまな形で表出する。この有用なガイドで、著者の2人は、避けるべき言動や、自分がマイクロアグレッションの目撃者や当事者となったとなった時にとるべき対応について解説している。
『Edge』ローラ・ファン(Laura Huang)
Portfolio/Penguin Random House
人が成功したのは、障壁や欠点がなかったからだと考える人は多い。だが、ハーバード・ビジネス・スクールで教授を務める著者は、こうした定説とまったく異なる理論を展開する。成功するために大事なのは、自らの欠点を自覚して向き合い、これをプラスに変えていくことだと著者は説いている。
『#MeToo in the Corporate World』シルビア・アン・ヒューレット(Sylvia Ann Hewlett)
HarperCollins
#MeToo運動は、アメリカのほぼすべての業界を変えた。今はこの運動が、より多様な人々を含むものになるべき時だと著者は提唱している。エコノミストで作家の著者はこの最新刊で、企業幹部向けに#MeToo運動の背景を解説し、職場におけるセクシャルハラスメントについての新たなデータを示すとともに、社会の周縁に置かれた人々にとってより安全な環境を作る方法について助言している。
『Bridging Differences for Better Mentoring』リサ・Z・フェイン(Lisa Z. Fain)、ロイス・J・ザッカリー(Lois J. Zachary)
Berrett-Koehler Publishers/Penguin Random House
アメリカの労働者が多様性を増すに従って、指導側と教えを受ける側の人が、異なったバックグラウンドを持つケースも出てきているだろう。こうした文化の隔たりを埋めるためには、どんな方法が有効なのだろうか? 著者の2人は実例を挙げて、自分と異なる人たちを意識し、理解し、効果的に関係を育む方法を解き明かしている。
『The Power of Disability』アル・エトマンスキー(Al Etmanski)
Berrett-Koehler Publishers/Penguin Random House
アメリカでは、4人に1人が何らかの障害を持っている。だが、こうした人たちの物語、特にサクセスストーリーは語られることが少ない。障害者の権利を訴える活動家として地域活動に取り組み、文筆業でも活躍する著者がこの本を書いた背景には、こうした状況を変えたいという思いがある。本の中では、グレタ・トゥーンベリや、スティーブン・ホーキングといった障害を抱えた有名人から、すべての人のためになる10の教訓を示している。
『Breaking the Silence Habit』サラ・ボーリュー(Sarah Beaulieu)
Berrett-Koehler Publishers/Penguin Random House
セクシャルハラスメントを一掃し、仮に問題が起きた時にも迅速に対応できる職場環境を作るためには、より多くの従業員や幹部が、これまで触れられないできた話題について議論を始める必要がある、と著者は主張している。安全な職場環境作りに向けてさまざまな企業と共同で取り組んできた著者はこの本で、実際に変化を起こすためにリーダーが取ることができるステップを解説している。
『In the Land of Men』エイドリアン・ミラー(Adrienne Miller)
HarperCollins
著者は22歳のときに、男性向け雑誌「GQ」の編集アシスタントの職を得て、出版の世界に入るチャンスをつかみ、そこで男性社会で生き抜いていく術を学んだ。その後、移籍先の「Esquire」で、同誌初の女性の文芸編集者に就任し、著名な作家、デヴィッド・フォスター・ウォレス(David Foster Wallace)と親交を深めた。この作品は、男性が圧倒的多数を占める職場で、若い女性が成功をつかむ過程を描いた、感動的な回顧録だ。
『Whistleblower』スーザン・ファウラー(Susan Fowler)
Viking/Penguin Random House
著者は2017年、ウーバー(Uber)在籍時に経験したセクシャルハラスメントと告発への報復行為の詳細をブログで公表した。この投稿はネット上でたちまち拡散し、最終的にはウーバー創業者のトラビス・カラニック(Travis Kalanick)がCEOと辞任した。さらにこの投稿は、シリコンバレーのハイテク企業に組織的な変化の波を起こすきっかけにもなった。この本で著者は、この問題を公表して以来の一部始終を回想している。
『Able』ディラン・オルコット(Dylan Alcott)
HarperCollins
著者は、車いすテニスでグランドスラム(4大大会すべてで優勝)を達成したほか、車いすテニスや車いすバスケットでパラリンピックの金メダルを3つ獲得したアスリートだ。さらにDJとしても活躍し、障害がある人たちに対する世の中のイメージや、障害者の自己認識を変えるために活動している。読むと勇気が湧くこの本は、たとえ何かできないことがあったとしても、その何千倍のできることがあると教えてくれる。
『Divergent Mind』ジェナラ・ネレンバーグ(Jenara Nerenberg)
HarperCollins
不安感だと思っていたものが、実際は自閉症とADHD(注意欠如・多動症)からくるものだった。そう知って衝撃を受けた著者は、この本の中で、女性そして社会でニューロ・ダイバーシティ(神経多様性、神経疾患を人の差異の1つとして位置付ける考え方)が軽視されがちな理由を解き明かす。さらに、社会にニューロダイバーシティを根付かせるための方法についても提言している。
『The Economic Case for LGBT Equality』M・V・リー・バジェット(M. V. Lee Badgett)
Beacon Press
同性愛者やトランスジェンダーに向けられるヘイトは、LGBTQコミュニティにとって有害だけでなく、経済的な損失ももたらしていると著者は主張する。かつてマサチューセッツ大学アマースト校の公共政策センター(現在の公共政策学部)のトップを務めた経済学者の著者はこの本で、企業やコミュニティ、経済にとって平等が有益であることを、データを用いて示している。
[原文:12 books all managers who want to build diverse and happy teams should order right now]
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)