この連載では、日々の企業ニュースを切り口に、会計とファイナンスを学びながらニュースの真相に迫ります。
前回は、2020年5月に経営破綻したアパレル大手レナウンの決算書を検証しながら、1902年創業の老舗に何が起きたのかを追跡してきました。
そこで浮かび上がったひとつの疑問——売掛金の未回収によりキャッシュが大きく減じて資金繰りに余裕がなくなっていたはずのレナウンが、なぜかその資金繰りを犠牲にしてまで借入金の返済を進めていたのです。
果たしてその理由とは? そして、民事再生の道を選んだレナウンがたどるべき今後の道筋とは? ファイナンスのプロ、村上茂久さんに考察していただきます。
前回の終わりで、直近2019年12月期のレナウンの行動には不可解な点があることを見てきました。
2019年から主力の百貨店向け販売が苦戦して売上が思うように上がらないことに加え、売掛金の回収が滞って資金繰りが悪化してしまったレナウン。にもかかわらず、財務キャッシュフロー(財務CF)はマイナス、つまり、せっせと借入金を返済しているのです。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
手元の資金繰りが苦しいのなら借入金の返済をしている場合ではないはずなのに、いったいなぜレナウンはこのような判断をしたのでしょうか?
「財務の安全性」3指標は悪くないが……
そこでまずレナウンの財務状況を把握するために、自己資本比率(連載第6回参照)、流動比率(第7回参照)、当座比率(第8回参照)を確認しておきましょう。
いずれも悪化傾向ではあるものの、決して悪い数字ではありません。
ただし忘れてはならないのは、キャッシュの動きです。たとえこれらの指標がただちに異常を知らせるものではなかったとしても、企業が倒産するかどうかはキャッシュの資金繰りで決まります。
流動資産もしくは当座資産がいくらあろうが、すぐに現金化できなければ、企業は債務不履行を起こして倒産してしまいます。
実際、レナウンは期を追うごとに資金繰りが悪化してきています。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
にもかかわらず、自分の首を締めるように借入金の返済を進め、財務CFがマイナス10億円になってしまったのには相応の理由があります。
なぜ資金繰りを犠牲にしてまで返済を進めたのか?
その理由の正体を明かす前に、こんなたとえ話で考えてみましょう。
あなたが3600万円を借りて住宅ローンを組み、毎月10万円の元本弁済を行うとします。住宅ローンがまだ3000万円残っているのに、ある日銀行からいきなり「おたくに融資している3000万円を明日全額返してください」と言われたら困りますよね。そんな大金がないからお金を借りているわけですから。
そういう無茶を言われずに済むように、債務者には「弁済期限まで借りたお金をすぐに全額返さなくてもよい」という権利があります。この例では「元本の10万円と利息を毎月払ってさえいれば、債務者は弁済期限まではすぐに残りの負債を返済せずともよい」ということです。この債務者の権利を「期限の利益」と言います。
企業が金融機関から借入をする際にも当然「期限の利益」がありますが、場合によっては「自己資本金額が当初比◯%以上を確保すること」「経常赤字を◯期連続回避すること」「債務が売上の◯倍以内であること」などと条件が付きます。これを「財務制限条項」(英語ではコベナンツ)と呼びます。
仮に融資契約の際に定められた財務制限条項を満たせなくなると、債務者である企業は「期限の利益」を喪失してしまうことがあります。
これこそが、レナウンが資金繰りを犠牲にしてまで返済を進めた理由です。
レナウンは、2019年2月期から数えて2期連続で経常赤字を計上しました。そのせいで財務制限条項に引っかかってしまった。それゆえ、資金繰りが苦しい状況にもかかわらず借入金を弁済せざるを得なくなってしまったのです。
実際、レナウンの2019年12月期の有価証券報告書には以下の記載があります。
当社グループは2期連続で経常損失を計上しており、その結果、一部の金融機関と締結している借入契約(2019年12月31日現在借入残高585百万円)について財務制限条項に抵触しております。2020年2月末以降の新型コロナウイルスの感染拡大が販売に影響を及ぼす中、当該財務制限条項への抵触による資金繰りに与える影響が増しております(p.46)。
財務制限条項に抵触した借入金については、当該金融機関に対して、期限の利益喪失の請求を猶予していただくよう申し入れをしております(p.46)。
貸し手である金融機関の立場からしても、ここは難しい判断です。というのも、このように財務制限条項に抵触した場合、融資した資金を回収すれば自社の債権は保全できるものの、それによって債務者たる企業の存続が危うくなるおそれが高まるためです。
もし、2019年12月期のタイミングでレナウンが10億円の返済をしていなければ、同社はもう少し事業を継続できたかもしれません。しかしたとえ事業を継続したとしても、レナウンの事業環境が改善しない限り、金融機関は融資を回収できなくなるかもしれない——。
企業の重要な意思決定は株主総会や取締役会で行われます。と同時に、資金面での重要な利害関係者である金融機関は、財務制限条項を通じて企業の行動の一部を制限することができます。このような構図にあるからこそ、企業は日頃から金融機関と信頼関係を築き、丁寧なコミュニケーションをとる必要があるのです。
金融機関はなぜ債権回収に走ったのか?
この時の判断を逆の立場、つまり金融機関の視点から見てみましょう。金融機関はなぜ、リスケ(返済スケジュール等を調整すること)ではなく債権の回収に走ったのでしょうか?
第一に、先述したようにレナウンの自己資本比率、流動比率、当座比率はそれほど悪い状態ではなかったことが挙げられます。レナウンの資金繰りは苦しかったとはいえ、流動性のある資産をそれなりに有していたことは事実。金融機関は「まだ資金繰りはなんとかなるだろう」と考えていたのかもしれません。
第二に、有利子負債の少なさが挙げられます。有利子負債とは、借入金や社債のように、利子を付けて返済する必要がある負債のことです。「倒産」の定義は、この連載の第14回でお話ししたように「弁済すべき債務の支払いができなくなった」状態のこと。その原因の多くは有利子負債、つまり借入金です。
自己資本のうち有利子負債がどの程度の比率を占めるかを見る指標として、「有利子負債比率」というものがあります。計算式は以下のとおりです。
筆者作成
有利子負債比率は一般的に、100%以下なら「支払い余力あり」と見なされます。有利子負債比率が高くなるほど、財務の健全性は悪いことになります。
ではレナウンはどうだったのかというと、なんとわずか16.9%。直近の2019年12月末では、有利子負債25.9億円に対して、自己資本はその5倍以上の153億円もありました。
「流動比率は200%超え、当座比率も100%超えと流動性には問題なし。加えて有利子負債比率も余力あり。これならば融資を回収してもレナウンは持ちこたえられるだろう」と判断したのか、はたまた「今後はどうなるかわからないから今のうちに回収を」と思ったのか——。
真実のほどは分かりませんが、金融機関はここで財務制限条項に則り融資の回収へと走りました。
しかし忘れてはならないのは、先ほども見てきたように、この時レナウンにはキャッシュがわずか33億円ほどしかなかったという事実です(図表5)。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
ただでさえ売上が低迷し(要因1)、売掛金を回収できないばかりか(要因2)、金融機関が融資の回収に走ったことでレナウンは苦境に立たされました。手傷を負ったレナウンに、さらなる脅威が襲いかかります。そう、同社が苦境に陥った第3の要因である「新型コロナウイルス」です。
百貨店をはじめとする取引先が営業自粛を決めたことで売上が激減、刀折れ矢尽きた格好のレナウンは、ついに民事再生申請を通じて再建の道を選ぶことになりました。
なぜ会社更生ではなく民事再生だったのか?
では、レナウンは「再建型の法的整理」の中でも、なぜ会社更生ではなく民事再生を選んだのでしょうか?
まず考えられるのは迅速さです。レナウンを最終的に経営破綻へと追いやったのは、コロナをきっかけとした急激な環境変化です。再建にあたってはコロナの影響がどこまで尾を引くか分からないこともあり、スピード感を持って再生計画を進めたいという意向があったのではないでしょうか。手続きについては会社更生よりも民事再生の方が簡易なため、迅速さを優先させるなら民事再生のほうが適しています。
第二に考えられる理由は、この連載の第14回でも説明した「担保権」です。仮にレナウンが担保付きの資産を多く有していたら、別除権を気にすることなく再建を進めるために、会社更生を選ぶということもあったかもしれません。
しかしレナウンの2019年12月期の有価証券報告書を見るかぎり、担保となっている資産は預金のみ。事業をするうえでキャッシュは当然必要ですから、別除権を通じた担保権を実行される懸念は極めて少ないと言えるでしょう。
このように、手続きの迅速さから見ても、担保権の観点からも、時間がかかる会社更生をあえて選ぶメリットはなく、民事再生を選択したのは当然の帰結と考えられます。
ただし——。
このレナウンの民事再生をめぐっては、ひとつ気になる点があります。ここで注目していただきたいのが、「誰が民事再生手続きの申請をしたか」という点です。
民事再生を申し立てたのは誰だったか?
民事再生手続きの申請ができるのは、債務者である会社自身もしくは債権者です。レナウンのリリースでは誰が民事再生の申請を実施したかまでは言及されていませんが、東京商工リサーチが報じるところによれば(※2)、民事再生の原因となる事実は手形決済資金8700万円の不足。申立人は、レナウンの債権者であり同社連結子会社でもあるレナウンエージェンシーとなっています。
つまり、連結子会社が親会社に対して民事再生の申立てをした、ということです。しかも、わずか8700万円の不足額を理由に——。
このことをどう解釈すればよいのでしょうか?
レナウンの民事再生を申し立てたのは、連結子会社であるレナウンエージェンシーだった。この意味するところとは何か(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
この謎掛けを考えていくうえで、もうひとつ見逃せない事実があります。
それは、レナウンの民事再生では管財人が選任されているということです。これは、従来の経営陣が直接経営に関与できなくなることを意味します。
この連載の第14回でもお話ししたとおり、会社更生ならば必然的に従来の経営陣は撤退となりますが、民事再生では従来の経営陣が続投するのが原則で、裁判所の判断により管財人が選任されるのは例外的なケースに限られます。
ところが、今回のレナウンの民事再生はまさにこの「例外的なケース」に該当しています。これはいったいどういうことでしょうか?
謎が謎を呼ぶ展開になってきたので、ここまでの話をいったん整理しましょう。レナウンの民事再生の背景には、
- 子会社が民事再生を申し立てたうえに、
- 裁判所の判断により管財人が選任され、
- 結果として旧経営陣の経営への影響力が弱まった
という動きがありました。
では、旧経営陣はどんな顔ぶれだったのでしょうか? 2019年12月期の有価証券報告書によれば、レナウンの取締役会は、レナウンの指名する3名に加え、山東如意グループ(※3)の指名する5名、およびレナウンと山東如意グループが合意する2名の、合計10名から構成されています。
つまり実質的に、取締役の半数は親会社である山東如意の意向を受けた顔ぶれになっていたのです。
ここで注目に値するのは、2020年3月26日に行われたレナウンの株主総会です。この時、親会社である山東如意により、レナウンの生え抜きである北畑稔会長と神保佳幸社長の再任が否決されました。代わって新たに会長として選出されたのは、株式の53%を持つ山東如意の邱亜夫氏。そして社長には生え抜きの毛利憲司氏という布陣です。
この新体制により、これまで以上に山東如意の意向は強まるだろう——。そう思われていた矢先、この株主総会から2カ月も経たないうちにレナウンは、子会社のレナウンエージェンシーによる民事再生の申立てを受けて、民事再生手続きの開始決定を受けることになりました。
多くの場合、法的整理手続きに進む理由は、有利子負債の過多により経営が続けられなくなるためです。たしかにレナウンも資金繰りは苦しく、財務制限条項に抵触してもいましたが、先述のとおり有利子負債比率はわずか16.9%。この財務体質を踏まえれば、ファクタリング(※4)を含めて他の資金調達の手当てができた可能性は十分あります。
レナウンの社内ではいったいどんな駆け引きが行われていたのだろうか(写真はレナウン本社が入る有明のTFTビル)。
撮影:今村拓馬
ここからは推測の域を出ませんが、経営が傾くきっかけのひとつとなった兄弟会社による売掛金未回収の一件(前回を参照)、そして山東如意の影響力が徐々に増してきていることを踏まえて、「このままでは経営の立て直しは難しい」と判断したレナウン内部の山東如意反対派が、計画的に子会社を通じて、民事再生の申請を行ったのかもしれません。
会社更生では必然的に従来の経営陣は追い出されることになりますから、これでは親会社(山東如意)の反発を受けることは必至です。そこで“隠れ蓑”として民事再生の申立てを行った。これならば基本的には従来の経営陣が残りますから、親会社も反発はしないでしょう。
反対派の狙いは的中し、裁判所は「山東如意に支配された経営陣では事業の再建に支障が生じる」と考えて、「例外的に」管財人選任の判断を下した。その結果、旧経営陣は退陣を余儀なくされた——あくまで推測ではありますが、レナウンをめぐる一連の動きを見ていると、そんな構図が脳裏をよぎります。
復活へ向けた2つのポイント
では、レナウンは今後どうなるのでしょうか?
民事再生手続き後、管財人のもと、レナウンは再生計画を策定します。認可されれば、再生計画に則って事業を進めていくことになりますが、ここで重要なことは次の2点です。以降で順に説明しましょう。
- 債務をどれだけカットしてもらえるか
- スポンサーがつくかどうか
(1)負債をどれだけカットしてもらえるか
債務者にとっての「負債をどれだけカットしてもらえるか」は、債権者にとっての「どれだけ返済してもらえるか」と表裏の関係にあります。民事再生手続きを経た企業が、事業を続けることでどれだけのキャッシュフローを生めるか、そのキャッシュフロー内でどれだけの額を債権者に弁済できるかが鍵になります。
このように、もともとあった債務に対し、将来にわたって弁済される割合を「弁済率」と言います。帝国データバンクの調べによれば、過去の民事再生における弁済率は平均15.3%(※5)。ちなみに、会社更生では11.4%です(※6)。
レナウンのリリースによると、同社の負債総額は約138億円。仮に弁済率が15%だとすると、約20億円は債権者に弁済され、残りの118億円は債務カットされる計算になります(※7)。かなり多い金額ですね。
ただしレナウンの場合、有利子負債はそれほど多くなく、有利子負債(約26億円)よりも支払手形及び買掛金(約42億円)や退職給付にかかる負債(約51億円)が多いという特徴があります(※8)。そのため、債務カットは平均よりも少なくなる可能性もあります。
いずれにせよ不透明なのは、過去2期連続で経常赤字を出しているレナウンがどれだけキャッシュを生めるのか、つまり弁済する体力があるのかという点です。実際、営業CFの推移を見ても「安定している」とは言いがたい状況です(図表6)。
(出所)レナウン有価証券報告書をもとに筆者作成。
となると、次なるポイントはスポンサーがつくかどうかです。
(2)スポンサーがつくかどうか
2020年5月15日付けのレナウンのリリースには、次のように書かれています。
「今後は、東京地方裁判所および同裁判所から管財人に選任された永沢徹弁護士の下、スポンサー探索を行い、当社グループの事業の維持再生に取り組むこととなります」
企業が民事再生手続きを始めると、株式の価値は基本的にはゼロになります。レナウンの株式も、今回の民事再生手続きによって価値を失い、紙切れとなります。そのため、新たな株主となるスポンサーを探しながら再生計画を実行していく必要が出てきます。
民事再生手続き終了後はどうなるのか
最後に、今後のレナウンについての未来を2つのシナリオで考えてみます。
楽観シナリオ:新スポンサーが見つかり再起を果たす
楽観的なシナリオは、衣料に強い事業会社や商社、あるいは企業再生ファンドはたまたEコマース(以下、EC)に強いIT企業等のどれかが新スポンサーにつき、新たな経営陣のもと、レナウンは事業を伸ばしながら再生計画に則って債務を弁済していく、というものです。
再生手続き開始後、3年間は裁判所から選任された監督委員が監督することになりますが、その後は、仮にまだ債務が残っていたとしても民事再生は終結となります。
民事再生手続きが終結すれば、もう普通の会社です。過去には、経営破綻後に法的整理を経た後に再上場を果たした企業も、数は多くないながらも存在します。JALも2010年に会社更生法の適用を申請しましたが、その2年後には再上場を実現しています。
レナウンも同様に新スポンサーが無事に見つかり、再生への道筋を描くことができれば、引き続き事業を継続することができるかもしれません。
悲観シナリオ:再び行き詰まり「清算型」の道へ
他方で、悲観シナリオも考えておく必要があります。つまり、どこかのタイミングで再び事業が立ち行かなくなり、「再建型」ではなく「清算型」の道をたどってしまうというものです。
東京商工リサーチのデータによれば、民事再生法を適用した7341社のうち、生存企業はわずか29.1%(2136社)。残りの70.9%(5205社)は民事再生申請後に吸収合併や破産・特別清算などで消滅しています。
さらに、消滅した5205社の内訳を見てみると、約6割に当たる2989社は、申請から3年経過して裁判所の関与から離れた後に消滅しているというデータが出ています。
厳しい数字ではありますが、これが企業再生を目指す企業に突きつけられる現実でもあります。
では、レナウンはどうでしょうか。
レナウンの売上の内訳を見てみると(図表8)、売上の半分以上は百貨店で、GMS(総合スーパー)と合わせると70%を超えます。他方、インターネットや通販での販売はわずか3.2%です。
日本百貨店協会のデータ(※9)によれば、百貨店の売上高は年々下がっており、これに新型コロナウイルスの影響が加わって2020年4月の売上高は激減しています(※10)。加えて、コロナ禍をきっかけにリモートワークの定着や外出機会の減少が進めば、衣服にかける金額も減る可能性が十分あります。
そう考えると、従来の流通からいかに方向転換していくかがレナウン再生の鍵を握りそうです。実際、同社の2019年12月期の有価証券報告書には、販売施策として以下のことが言及されていて、今後ECに力を入れていく予定のようです。
「消費者の購買行動の変化に対応すべく、EC事業の強化及びサブスクリプション型事業「着ルダケ」の展開を加速してまいります」
もちろん、新スポンサーの元でもこのEC事業の強化が行われるかは分かりません。しかし、少なくとも現在の売上構成のままではこの先もジリ貧であることは容易に想像できますから、ECを含め新たな打ち手が必要なことは間違いないでしょう。
加えて、民事再生によって主要株主と経営陣が変わることを踏まえると、グローバルでのサプライチェーンにも大きな影響が出てきそうです。そうなれば、どれだけコストを削減して利益が出る体質に切り替えられるかも重要になってきます。
いずれにせよ、これからの再生フェーズにおいて、レナウンには売上面でも費用面でも本質的な改革が求められるでしょう。この改革がうまくいくかどうかによって、無事に再建を果たせるか、それとも過去に民事再生を選んだ多くの企業のように清算という終末を迎えるかが変わってきそうです。
レナウンをめぐる一筋の希望
ただしレナウンに関して言えば、多少の希望もあります。総資産における有利子負債の割合は比較的少ないという点です。
たしかにレナウンは資金繰りを誤って経営破綻してしまいましたが、流動資産は流動負債の倍以上もあります。事業を通常どおり回していけば、まだ十分に再生できるだけの貸借対照表(B/S)の状態であると見ることもできます。
となると、コロナ禍を経た後のレナウンが、今後どれだけP/Lを改善できるかにかかっていると言えるでしょう。そもそもレナウンの利益率がそれほど高くなかったことを踏まえると、強力なスポンサーが付き、レナウンの事業そのものを伸ばすようなテコ入れをスポンサーができるかどうかがやはりレナウンの再生のポイントになりそうです。
かつて、バブル崩壊後やリーマンショック後の不況下では不動産や有価証券を多く抱える企業の資産価値が暴落して、債務超過になったり、負債を多く抱えたりする“B/S型の倒産”が多発しました。
一方、レナウンのケースからも分かるように、今回のコロナ禍が引き起こす不況では、B/Sがそれほどダメージを負っていないにもかかわらず、P/L、特に売上高の減少とそれに伴う資金繰りの悪化が原因で倒産する事例が今後も増えることが予想されます。
つまり、ポジティブな見方をすれば、B/S自体はそこまで傷んでいないのですから、十分な資本増強とP/Lの立て直しを実現できれば、比較的短期間のうちに再建できる可能性があるということです。
創業から100年を超える老舗の看板が、この苦難を乗り越えて不死鳥のように再び輝く時は果たしてやってくるか——再起を賭けたレナウンの動向に、引き続き注目です。
※1 民事再生や会社更生といった再建型の法的整理の道を選ぶと、基本的に株式は100%減資となり価値はゼロになります。しかし場合によっては99%減資とするケース、すなわち既存の株主の株式に価値を残すことも、稀ですがあり得ます。
※2 東京商工リサーチ「レナウン、8,700万円足りずに民事再生 事業譲渡の可能性も」2020年5月20日。
※3 北京如意時尚投資控股有限公司及び山東如意、ならびにそれらの子会社・関連会社のことを言います。
※4 ファクタリングとは、企業が保有する債権や手形を、ファクタリング会社と呼ばれる金融サービス業が買い取る仕組みのことを言います。債権や手形を売却する企業からすれば、流動資産等を活用した資金調達手法の一種とも言えます。
※5 帝国データバンク「民事再生法 弁済率調査」2018年12月19日。
※6 帝国データバンク「会社更生法の弁済率調査」2019年5月14日。
※7 弁済率は一概には言えません。例えば、2011年に会社更生の適用を申請した林原は弁済率は93%という高さでした。ただ、弁済率が93%にもなると、そもそも会社更生が必要だったのかという別の議論も生じます。
※8 2019年12月期有価証券報告書の値から引用。
※9 日本百貨店協会「百貨店売上高(2020年4月 売上高)」(2020年5月22日更新)。
※10 2020年4月の売上高は前年同月比72.8%減(7カ月連続)と、前月(33.4%減)よりさらに39.4ポイントダウンし、統計開始(1965年1月)以来最大の減少率となっています(日本百貨店協会「令和2年4月 全国百貨店売上高概況」2020年5月22日)。
※次回は7月3日(金)の更新を予定しています。
(執筆協力・伊藤達也、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:1980年生まれ。経済学研究科の大学院を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして大手企業や地方の新規事業の開発及び起業の支援等をしている。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も実施している。