21世紀の公民権運動になったBlack Lives Matter。ミレニアルとZ世代にインスタで広がる

デモ看板あり

若い人が中心のBLM運動は従来のデモとは異なる。筆者は6月1日と6月4日(米東部時間)、ニューヨークでデモを取材した。

撮影:津山恵子

従来のデモの概念を覆す新しいタイプのデモが、アメリカから全世界に広がっている。

「Black Lives Matter(BLM=黒人の命は大切だ)」と呼ばれる今回の運動は、1960年代、マーティン・ルーサー・キング牧師が主導した公民権運動の21世紀版と言えないだろうか。

中西部ミネソタ州ミネアポリスで5月25日、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏(46)が、警官に膝で首を押さえられ「息ができない」と言いながら死亡した事件が引き金となったデモは、2週間経っても全米各地で続いている。参加人数の規模も大きくなるばかりだ。

参加者は、人種差別と警察官の暴力行為に反対しているが、ニューヨーク市を始め大都市の警察が、デモへの対応や逮捕をする際の規律を見直す改革に着手するなど、デモの効果がすでに出てきた。

デモの日程と場所はインスタでシェア

抗議の様子。

ホワイトハウス近くの「Black Lives Matter Plaza」で、「BLM」の文字が描かれた逆さまのアメリカ国旗を振るデモ隊(6月6日ワシントンDCで)。

REUTERS/Jim Bourg

筆者は6月1日と6月4日(米東部時間)、ニューヨークでデモを取材し、今までのデモと全く違ったパターンが生まれている事実に驚いた。

BLM運動が、従来のデモと異なる点は、以下だ。

・参加者のほとんどが、ジェネレーションZ(Z世代、2000〜2010年代生まれ)とミレニアル(1980〜2000年代生まれ)で、これまでデモの中心だったベビーブーマーはほぼ皆無。

・デモは、インスタグラムで日時と場所だけシェアされ、主催者が分からない。

・同時多発的に複数の場所で連日開かれている。

・警察を刺激することがなく、極めて平和的。

・主催者があらかじめ印刷して持参するように呼びかけるプラカードがなく、全部手製でアマゾンの段ボール箱の裏が多い。

6月1日の取材では、場所を探り当てるのに苦労した。見つけたデモの住所は広くはない交差点で、スペースがある公園や広場ではない。疑心暗鬼で交差点に近づくと、若者が「ここでデモがあるんだよね」と話しかけてきた。

集会で演説した数人は、1人を除いて全員が若く、名もなき学生やコミュニティ・リーダーだ。人種差別に反対するデモというと、ニューヨークでは必ず出てくる黒人の人権運動家アル・シャープトン牧師(65)や年配の黒人市会議員などの姿はない。

警官に向かう参加者止めるボランティア

実際のデモの様子

デモ行進中は何度もひざまづき、警察に対する抗議のポーズを取った(6月1日、ニューヨーク)。

撮影:津山恵子

集会が終わり、行進が始まる頃には、人数は見た目で1000人以上に膨れ上がっていた。そして警察官が待機している交差点などに来ると、一斉にひざまづき、こぶしを振り上げる姿勢を取る。

これは2016年、NFLサンフランシスコ49ersのコリン・キャパニック選手が、「黒人や有色人種への差別がまかり通っている国に敬意は払えない」と、試合前の国歌斉唱時に起立せず、片膝を地面について抗議したのに由来している。MLB運動では、警察と衝突することを避けると同時に、抗議のポーズでもある。

参加者は、「正義がなければ平和はない!」「息ができない!」「BLM!」などと声を上げながら行進し、ニューヨーク市警本部の裏口につながる通りで、抗議のポーズをとった。ミネアポリスで、警察署が放火され全焼したわずか3日後で、警察がここまで本部に近いところへの行進を許可したのには驚いた。

並んだ20人ほどの警官に近づいて声を上げようとする者がいると、すぐにボランティアが飛び出てきて、引き離した。

これまでアメリカでこうしたデモの中心にいたのは、ベビーブーマー(アメリカでは1946〜64年生まれ)と呼ばれるヒッピー世代だった。彼らのデモは1カ所に多くの人を集めて、CNNなど主要メディアに取材してもらうことで注目を集め、主張が広がるのを目的としていた。しかし、BLM運動にそうした目的はないはないように見える。

意識を失うまでの約9分間の映像

フロイド氏

店のウインドウには亡くなったジョージ・フロイド氏の写真も。「息ができない」といった文字も散見される。

撮影:津山恵子

Z世代とミレニアルの多くは、テレビも持たない。彼らにとってはソーシャルメディアの中にリアルな世界があるだからこそ、「息ができない」「ママ、ママ」と叫びながら、警察官の膝の下で絶命したフロイド氏のビデオがソーシャルメディアで広がった際、彼らの心に強く響いたのだろう。

テレビで放送されたビデオは子どもたちが視聴することに配慮し、フロイド氏の顔にモザイクがかかっていたり、警官の膝から上だけに切り取ってあったりしたため、ほとんど何が起きているのかわからなかった。だが、ソーシャルメディアでは、フロイド氏が意識を失うまでの9分近くがそのままシェアされた。

今回デモの中心となっている世代は、「BLM」「justiceforgeorge(ジョージに正義を)」といったハッシュタグやキーワードを駆使して、デモの場所を探し、デモの様子をスマートフォンで刻々とシェアする。それによって、参加者や共感する人がアメーバのように広がっている。公民権運動の参加者は黒人ばかりだったが、今は多くが白人など黒人以外の人種で、人種を超えた運動にも発展している。

真っ黒になっていたコカ・コーラの掲示板

BLM運動はデモの形態を革命的に変えただけではない。企業にも、これまでとは違う影響を与えている。

6月4日、ニューヨークの観光名所タイムズ・スクエアに取材に行って、驚いた。

真っ赤な画面に白抜きロゴがトレードマークだったコカ・コーラの電光掲示板が、真っ黒だった。

コカ・コーラロゴ

タイムズ・スクエアで目立つコカ・コーラの掲示板は黒一色に。「BLM」のメッセージを伝えている。

撮影:津山恵子

「コカコーラ 私たちが団結してすべきことは 変化を引き起こすこと

正義を要求すること 人種差別主義を終焉させること 黒人の命は大切だ」

という白字のメッセージが点滅もせず、浮かび上がっている。

アパレルのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズも、ロゴだけの真っ黒な掲示板。H&M、携帯電話のTモバイルも、真っ黒に変わっていた。新年のカウントダウンにクリスタルボールが降りる最も有名な縦長の掲示板にも4つの大画面に「BLM」の文字が並ぶ。

アメリカンイーグル

アメリカン・イーグル・アウトフィッターズの店舗の様子。ロゴだけの真っ黒な掲示板が印象的だ。

撮影:津山恵子

過去には不買運動や商品を燃やす事件も

前述したアメフト選手コリン・キャパニックはひざまづく抗議ポーズの後、当時大統領候補だったトランプ氏を中心とした保守派から「愛国的ではない」と非難され、フリーエージェントとなり、NFLに復帰することはなかった。2018年には、彼の顔を大きく使ったナイキの「エアフォース1」の広告も反発を呼び、白人至上主義者などがナイキのシューズを燃やすビデオがソーシャルメディアに登場する事態に発展した。

しかし今回、これだけ多くの大手企業が「BLM」に込めるメッセージを打ち出したことに対して、反発があったとは聞かない。商品を燃やしたり、不買運動にならないほどに、人種差別は不当であるという見方が浸透し、多くの消費者にアピールしている。特に小売りやサービス業は、最大の消費者層となっているミレニアルとZ世代を無視できないという事情もある。

もちろん懐疑的な見方もある。

「新型コロナウイルスの感染拡大から、企業から毎日来るメールにメッセージ性が増している。これがマーケティングの一部ではないとは言い切れない。経済活動が再開した際、人々が好感を持った企業を購買などでサポートするだろうとマーケッターが考えてもおかしくない」(自営業で市民運動家のジョシュ・ケイス氏=45)

フロイド氏が殺害された直後にミネアポリスで起きた暴動も含め、全米各地で夜間に起きた破壊行為は、新型コロナ禍から復活しようとする米経済にダブルパンチを与えた。

実はニューヨークは、6月8日から経済活動再開に踏み切る予定で、小売業はそれに備えていた。店内にお客を入れることはできないが、オンラインなどで注文を受けた商品を店の入り口で手渡す計画だった。

BLM

インスタグラムでシェアされているデモの告知。6月7日にニューヨーク市内でこれだけ開かれた(6月7日スクリーンを撮影)。

インスタグラムより

しかし6月1日までに夜間にあった破壊行為で、5番街、SOHOなどの高級ブティックや大手百貨店は、入り口やショーウィンドウを合板で覆って略奪を防いだ。2つの美しかったショッピング街は今や、「合板街」だ。ニューヨーク市のビル・デブラジオ市長や警察当局は記者会見で、暴徒は「市街から来た昼のプロテスターとは異なるグループ」と指摘、6月7日まで夜間外出禁止令を1943年以来77年ぶりに発令した。

ザラ店舗破壊防止の様子

ニューヨークの5番街のほぼ全ての店舗の正面は合板で覆われ、商品のピックアップだけの営業再開さえままならない。

撮影:津山恵子

この結果、事実上のロックダウンの中で、販売の一部再開を準備し、目指してきたブティックや百貨店は再開の見直しを余儀なくされ、開店がさらに遠のいた。BLM運動に乗じた破壊行為のせいで、売り上げに対するダメージが広がったことになる。

一方、ニューヨークやロサンゼルスなど複数の警察本部は警察官の訓練を変え、逮捕時の「首の締め上げ」を禁止する方針を発表した。連邦下院でも同様の法案が浮上し、全米で警察官の暴力を防ごうという動きが高まっている。

BLM運動は、社会的に運動やデモの姿を大きく変えた。同時に経済にも打撃を与えつつ、企業の社会責任についての考え方にも変化を与えている。「公民権運動21世紀版」と呼んでもおかしくないのではないか。

(文・津山恵子

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