日立、資生堂、富士通も導入の「自由な働き方」はうまい話ばかりでない

サラリーマン

リモートワークが定着する中で、人事制度が懸念されている。

撮影:今村拓馬

コロナショックによる雇用環境の悪化と働き方の変容が、同時並行で進行している。

働き方の変容で注目されるのが緊急事態宣言解除後も続くリモートワーク(在宅勤務)だ。政府が掲げた8割出社制限より緩和するものの、出社率を5割程度にする働き方を継続する企業も多い。

リモートワークと組み合わせた働き方をニューノーマルと呼ぶ向きもあるが、そのなかで従来の人事制度を「ジョブ型」に転換する企業も登場している。

大企業では日立が従業員の7割を在宅に

日立の写真

出社を抑え、ジョブ型人事制度を本格導入する予定だ。

shutterstock/Denis Linine

日立製作所は5月26日、在宅勤務を働き方の中心に据えると表明し、7月までは出社率を3割程度に抑制し、2021年4月以降、国内従業員の出社率を全体の50%にとどめると発表した。

同時に、国内従業員の約7割にあたる約2万3000人を対象に、「ジョブ型」人事制度を2021年7月から本格的に導入する。

なぜ在宅勤務がジョブ型雇用につながるのか。

欧米で主流のジョブ型はあらかじめ職務内容を細かく規定した「職務定義書」(ジョブディスクリプション)を社員に明示し、その達成度合いを評価する成果主義的色彩が強い仕組みだ。

つまり、日本のように上司の指示を仰ぎながら日々の業務をこなすというやり方と違い、上司が見えない在宅勤務で仕事をするうえでジョブ型は相性がよいという利点がある。

じつは、今回のコロナ感染を契機に多くの企業が在宅勤務を導入したが、部下の行動が見えなくなる中で、人事評価が難しいとの声も出ている。

一般的な人事評価は、目標達成度や営業数字など定量化された「成果評価」と、チームワークやコミュニケーションなどの「行動評価」(コンピテンシー)の2つの総合評価で決定する。

建設関連業の人事部長はこう語る。

「営業職はもともと数字(成果)が評価の大部分を占めていたが、人事・経理・総務などの管理部門やマーケティング、制作部門は、目標達成度以外の行動評価も重視していた。例えば『コミュニケーションを取りながら周りと連携しながら仕事を進めていた』といった項目は、在宅勤務に入ってからまったく見えなくなってしまった」

部下の仕事ぶりが見えないなかでの行動評価は難しくても、あらかじめ明記された職務を忠実にこなしているかどうかを成果物で計るジョブ型なら問題はない。

日立はすでに管理職層にはジョブ型人事制度を導入していた。ただ、組織成果に責任を持つ管理職はジョブ型は難しくないが、育成期の非管理職は上司の指導・助言が不可欠であり、導入は難しいと言われてきた。今回、日立は一挙に非管理職への導入に踏み切ることになる。

自由な働き方はうまい話ばかりではない

資生堂

shutterstock/Ned Snowman

日立だけではない。富士通も今年度から国内の課長職以上の約1万5000人を対象にジョブ型を導入し、他の社員にも拡大していく考えだ。資生堂も2021年1月から国内の非管理職社員の一部である約3800人に、ジョブ型人事制度を適用する予定だ。

いずれの企業も「時間と場所に制約されない自由度を高めた多様な働き方」を謳い文句にジョブ型人事制度を導入する。

しかし、そんなにうまい話ばかりではない。ジョブ型は、給与も就いているジョブで決まり(職務給)、どんな職務を担当しているかという仕事の内容と難易度(ジョブグレード)によって細かく給与が規定される。

ジョブで決まる以上、どんなに高い能力の持ち主でも、それが発揮されないと給与は変わらない。また、仕事と関係のない扶養手当や年齢給、持ち家の有無で決まる住宅手当もないケースがほとんどだ。

従来の生活保障給的な年功給や属人手当がなくなるだけではなく、同じジョブに留まっている限り、30歳と40歳の給与は変わらない。

給与を増やそうと思えば職務レベルを上げるか、マネジメント職などより給与の高い職務にスイッチするしかない。

IT企業がジョブ型人事制度を導入する理由として、AI人材など高度の専門性を持つデジタル技術者を高い報酬で獲得することが挙げられるが、当然、社員間の給与格差は今まで以上に拡大することになるだろう。

しかも今就いているジョブも安泰とは限らない。職責を果たせなければ降格も随時発生する。正確には「ジョブグレードの変更」と呼ぶが、過去の経験や知識ではなく、あくまで今のビジネスに有効な価値を提供できるのかだけが問われる。

欧米では職責を果たせなければ解雇も実施される。

日本では今のところ雇用規制が厳しいために指名解雇は難しいとされるが、「希望退職募集」という名のリストラでは、事前の面談で成績不良者の退職勧奨が実施されるのが一般的だ。

いずれ起こる正社員の大幅リストラ

会社員

コロナショックにより失業率は、2016年3月以来の低水準となった。

撮影:今村拓馬

コロナショックによる雇用環境の悪化がいずれ正社員の大幅なリストラを引き起こすとみられている。そのときにジョブ型評価が利用される可能性がある。

ではいつ頃やってくるのか。

新型コロナ関連の解雇や雇い止めは6月4日時点で累計2万540人(厚生労働省調査)。5月28日時点で1万5823人だったが、わずか1週間足らずで5000人近くも増えている。

緊急事態宣言が5月14日に39県で解除され、25日に全面解除されても解雇の動きは止まらない。前月4月の完全失業率は3月より0.1ポイント悪化の2.6%。また、4月の有効求人倍率は1.32倍と、2016年3月以来の低水準に落ち込んだ。

求人数の減少と失業率の上昇は表裏一体であり、今後の失業者の増加が懸念される。

休職者600万人近くは体力次第で失業も

やめたそうな若者

撮影:今村拓馬

それを占う指標が休業者数だ。総務省の「就業者及び休業者の内訳」(5月29日)によると、4月の休業者数は597万人。3月の249万人から300万人以上も増加している。前年同月と比べても420万人増という突出ぶりだ。

このうち自営業者などを除いた雇用者が516万人。コロナの影響などで休業を強いられている人たちが大部分を占めると思われるが、企業の体力が持ちこたえられなければ失業者に変わる人たちでもある。

それでも内訳を見ると、最も多いのはパート、アルバイトなどの非正規社員の300万人。これに対して正社員は193万人と少ない。

通常、企業は業績悪化に陥ると固定費の削減に着手する。残業代や諸経費も入るが、主な対象は人件費だ。人件費削減の中には新規採用の廃止・縮小も含まれるが、雇用の調整弁といわれる非正規社員を真っ先に切るのが従来のやり方だった。

しかし、それでも業績悪化が食い止められなければ、国の雇用調整助成金を利用した正社員の一時帰休に踏み切る。すでに製造業を中心に大企業では雇用調整助成金の利用、あるいは利用を検討しているところが増えている。今後、大企業を中心に正社員の休業者も増えてくるだろう。

だが、それで終わりではない。2020年4〜6月期決算ないし9月期の中間決算が悪化すれば、中長期を見据えた事業の再編と同時に、正社員の本格的リストラが始まることになるだろう。

第2波、第3波の襲来と五輪中止で起こること

マスクしている人たち

shutterstock/StreetVJ

その決定に大きな影響を与えるのは、新型コロナウイルスの感染拡大の第2波、第3波の襲来だ。不動産業の人事部長はこう予測する。

「現段階では経営会議で事業の悪化状況と今後の見通しを分析している最中だ。個人的には第2波、第3波の感染拡大はあると思うし、来年の東京オリンピックも中止になるとみている。

そうなると2022年度卒の新卒採用数の大幅削減は避けられないし、事業縮小に伴う正社員の希望退職募集が現実のものとなるだろう」

同社はリーマン・ショックの不況時に毎年数百人規模だった新卒採用数を半分以下に減らし、正社員の希望退職募集を実施している。

本格的リストラは企業や業種によって時期や削減数が異なるが、それを判断する基準として「ジョブ型評価」が使われる可能性がある。

ポストコロナの働き方のニューノーマル(新常態)としてテレワークが定着すれば、時間と場所の自由度が高い働き方に変わる一方で、より目に見える「ジョブ型成果」の比重が高まる。

在宅勤務下でも目標の達成に向けて自律的な働き方ができない(成果が低い)社員、あるいは旧態依然とした部下の顔が見えるオフィス内でのマネジメントしかできず、新しいマネジメントスタイルを築けない管理職は、リストラのターゲットにされる可能性も十分にある。

(文・溝上憲文)

編集部より:初出時、資生堂のジョブ型人事制度の導入対象者を「約8000人のオフィス勤務社員」としておりましたが、正しくは「国内の非管理職社員の一部である3800人」です。2020年6月10日 14:30
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