レモンサワーだけでなく、アルコールを含まない無糖炭酸水市場でもレモンフレーバーの人気が高まっている。
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近年続く、レモンサワーブーム。
2020年1月1日、ローソンから販売された「LEMON SOUR SQUAD from NAKAMEGURO」は、1カ月で累計販売本数が100万本の大ヒット商品となった。
実は、非アルコールの無糖飲料市場でも「レモン人気」が広がっている。
中でも、無糖炭酸水市場の売り上げは、2015年の3000万ケース規模から2019年には5000万ケース規模へと、1.6倍に拡大。そのうち、レモンフレーバー市場に限ると、約2倍に成長しているという(サントリー調べ)。
飲料市場規模は横ばいなので、レモン比率が相当、高まっているということだ。
なぜ、私達はこれほどまでにレモンに心惹かれてしまうのだろうか。
温暖化にストレス社会。環境の変化がレモンを求めるきっかけに
LDH JAPANと宝酒造、ローソンが共同開発したEXILE監修の本格レモンサワー「LEMON SOUR SQUAD from NAKAMEGURO(レモンサワースクワッド)」は1カ月で累計販売本数が100万本のヒット商品となった。
撮影:西山里緒
「レモンフレーバーは流行というより、以前からずっと素材として使われていたものです。ただ、ここ数年夏が暑いこともあり、清涼感、すっきり感のあるレモン飲料が現状に合ってきていのではないでしょうか」
そう話すのは、味香り戦略研究所・研究開発部部長の早坂浩史氏。
同社では、これまでさまざまな食のトレンドを分析してきた。
ここ数年のトレンドとしては、2009年の食べるラー油ブームや、2013年頃に起きたコーヒーの苦味の変化など、辛味や苦味、そして旨味やコクといった比較的「濃い味」の飲食品が話題になることが多かったという。
味のバランスと近年のトレンドの経緯。
出典:味香り戦略研究所
早坂氏によると、レモン系の製品が充実しはじめたのは、2014年以降。
「瀬戸内レモン」「塩レモン」といった、レモンを全面に推し出した商品が並ぶようになると、2018年にはレモンサワーブームがはじまり、それが今なお続いているのが現状だという。
また、早坂氏は、夏の暑さとともにレモン系製品ブームを後押しした要素として、社会的なストレスの積み重ねをあげる。
実は、これまでの分析結果から、社会が大きなストレスを抱える状況になると、「苦味」や「酸味」が味覚のトレンドになる傾向があることが分かってきている。私達の身体の生理現象としても、強いストレスは味覚に影響を与えることが知られている。
「一概に、(ブームとしての)味の好みが変わってきたということよりも、ストレスが重なる社会的背景をひっくるめて、世の中が求める味が変わってきたのではないでしょうか?」(早坂氏)
こういった背景の中、ここ数年で存在感を発揮しているのが、さっぱりとした酸味や健康的なイメージのある無糖レモン飲料なのかもしれない。
さっぱり派?しっかり派?レモン飲料の味わいは千差万別
各社の無糖レモン飲料を、苦味の強度と味の濃厚さ(塩味)の強弱で分類した図。縦軸と横軸が交わる点は、レモン飲料全測定平均値。
出典:味香り戦略研究所
無糖レモン飲料の中でも、とりわけ注目されるのが「無糖炭酸レモン水」。
アサヒ飲料のウィルキンソン・タンサンレモン、コカ・コーラのザ・タンサン・レモン、サントリーの天然水スパークリングレモン、キリンのキリンヌューダスパークリングレモン(製造終了)など、各社のラインナップも充実している。
2020年の6月には、キリンがキリンレモンスパークリング無糖を発売するなど、新商品や製品のリニューアルも多い。
味香り戦略研究所は、味覚センサーを用いてこれら炭酸系も含め、無糖レモン飲料を分析。それぞれの味わいの違いを成分レベルで調べると、一見似たような無糖レモン飲料でも、客観的に味わいが異なることが明白となった。
味覚センサーによって分析された、無糖レモン飲料の成分。中心にあるグレーの五角形は、無糖レモン飲料の平均値を示している。
出典:味香り戦略研究所
早坂氏は分析の結果を、
「こんなに違うかなというほど違いました。特殊なものは2つ。コカ・コーラの『ザ・タンサン・レモン』とアサヒ飲料の『ウィルキンソン・タンサンレモン』でした。共通しているのは苦味の強さ。そのままごくごく飲むというよりも、割材として使っても良いのかも知れない」
と話す。
なお、味覚センサーでは、味の基本要素とされる「甘み」「酸味」「塩味」「苦味」「旨味」はもちろん、「渋味」などをもたらす成分もそれぞれ検出。
さらに、食べ物や飲み物を口に含んだ瞬間に感じられる「先味」と、飲み込んだ後も残る「後味」も計測。
それぞれの成分が無糖レモン飲料の「平均値」からどの程度ずれているのかをレーダーチャートで可視化することで、それぞれの味の特徴を抽出した(上の図参照)。
サントリーの天然水スパークリングと、ウィルキンソンタンサンレモンを飲み比べてみた。
撮影:三ツ村崇志
筆者も実際に、他の無糖レモン飲料に比べて酸味が強い「天然水スパークリング」と、酸味や味の強さ(塩味)が弱く、苦味や渋味が強い「ウィルキンソン・タンサンレモン」を飲み比べてみた。
天然水スパークリングは、ほんのりと効いたレモンの酸味によって、さっぱりした後味が感じられた。
一方、ウィルキンソン・タンサンレモンは、レモンの酸味よりも炭酸飲料特有のシュワシュワ感と、しっかりとした苦味や渋味によって、口に残らないスッキリさを感じた。
無糖飲料である以上、どちらもそれほど強い味ではないはずだが、飲み比べてみると確かに味の特徴はまるで異なるものだった。
無糖レモン飲料とベストマッチするコンビニフードは?
職場近くのコンビニで無糖炭酸レモン水とポテトチップスを購入。本当に相性が良いのか、実際に食べてみた。
撮影:三ツ村崇志
全体的にほどよい酸味や爽快感をもつ無糖レモン飲料は、塩味の強いスナック菓子や、チキン・から揚げといったコンビニのホットスナックと基本的に相性が良いはず。
味香り戦略研究所では、無糖レモン飲料と「ポテトチップス」「チキン」「から揚げ」それぞれの相性をデータを元に解析もしている。
同社は、さまざまなタイプのポテトチップス、チキン、から揚げの成分を味覚センサーで検出。無糖レモン飲料の分析と同様に「平均的な味」からのズレをもとに、それぞれの商品の味の特徴を見出し、その上で無糖レモン飲料との相性を分析したという。
「たとえばポテチと飲み物の味をそのままの状態で比べても、味が違いすぎてなんのこっちゃ分からない。だから『ポテチの中でものり塩はこう。コンソメはこう』というように、酸味、苦味など、味の強さを決めるそれぞれの要素の『偏差値』のようなものを調べました」(早坂氏)
味覚センサーによる測定結果。グレーの三角形が食品の成分。色のついた三角形が、無糖レモン飲料の成分。各成分は、平均的な味からのズレで特徴づけられている。それぞれの成分の特徴(平均的な味からのズレ)が一致している食べ物と飲み物の相性は良いという。
出典:味香り戦略研究所
味の相性を分析する上で注視したのは、特に強い味を示す苦味、酸味、塩味の3成分。
「食べ物、飲み物、それぞれの特徴(平均の味からのズレ)が一致していれば、(味の方向性が似ており)お互いの味を邪魔せずにそれぞれの味を感じられる、いわば『味が広がる状態』になるといえます」
と、早坂氏は話す。
また、3つの成分のうち2つの成分の特徴が一致していれば、概ね相性は良い状態といえる。
むしろ、塩味、酸味の特徴が飲み物と食べ物で一致していなかった場合は、逆に味のアクセントとして顕著に捉えられることも。この状態は、逆に「味が深まる状態」ともいえるという。
味香り戦略研究所の分析で、相性の良い組み合わせとされたのは以下の通り。
味が広がる組み合わせ
キリンヌューダスパークリングレモン ✕ カルビーのりしお
サントリー天然水クリアレモン ✕ ローソン黄金チキン
サントリー天然水スパークリングレモン ✕ ケンタッキーオリジナルチキン
い・ろ・は・す天然水にレモン ✕ ファミリーマートのから揚げ
味が深まる組み合わせ
い・ろ・は・す天然水にレモン ✕ カルビーコンソメパンチ
サントリー天然水スパークリングレモン ✕ コイケヤのり塩
い・ろ・は・す天然水にレモン ✕ ファミリーマート ファミチキ
サントリー天然水スパークリングレモン ✕ セブンイレブンのから揚げ
サントリー天然水クリアレモン ✕ ローソンのから揚げ
また、ポテトチップス、から揚げ、チキンについて、成分分析の結果、全体的に最も相性が良いとされた無糖レモン飲料は次の通りだった。
ポテトチップス:い・ろ・は・す天然水にレモン
から揚げ :サントリー天然水スパークリング
チキン :サントリー天然水クリアレモン
もちろん、人の味覚を決めるには、今回分析した成分以外にも、香りや食感、あるいはその時の心理状態など、他にもさまざまな要素が関係している。一概にこの組み合わせが最適とはいえないかもしれないが、ぜひ一度試してみてはいかがだろう。
本格化してきた夏の暑さ。
コロナ禍で進むリモートワークの合間に、無糖レモン飲料で、疲れも暑さもストレスも、すべてまとめて、ふっとばしたい。