撮影:鈴木愛子
今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。テーマは「管理職になれる人となれない人の違い」。
「管理職はプレイヤーよりも上」とは言えない時代
「管理職になれる人となれない人の違い」についてお話しする前に、少し気にかかったことをお伝えします。
Aさんは、キャリアアップの志向が強いとお見受けしますが、キャリアステージにおいて、「プロジェクトリーダー」や「プロデューサー」よりも「管理職」の方が上であると捉えていらっしゃるのではないでしょうか。
もしそうだとすれば、今後のキャリアの可能性を自ら狭めてしまっているかもしれません。
もちろん、課長→部長→役員といったように管理職としてグレードアップしていくことが「出世」や「バリューアップ(報酬UP)」とされている企業も多数あります。
しかし、時代は変わりつつあります。広く人材市場においては「管理人材」より「プロフェッショナルプレイヤー」が求められる場面も多くなっているのです。
実際、「プレイヤー」として専門的な知見・スキルを高めた人が、「プロジェクトリーダー」「プロデューサー」、あるいは「顧問」といったポジションで複数の企業を渡り歩き、「管理職」の人々よりも高収入を得て、自由度高く働いている事例が増えています。こうした雇用・働き方のスタイルは今後も広がっていくでしょう。
Aさんが描くキャリアアップが、「裁量権の範囲を広げる(自由度を高める)」「収入を上げる」「長く働き続ける」といったことであれば、そして今の会社で一生働き続けることにこだわらないのであれば、このままプレイヤーとしてスキルを磨き、実績を積み上げていくのもいいと思いますよ。
なお、プレイヤータイプの方々は「フリーランス」としても活躍のチャンスが広がっていますので、その動向についてはこの連載の第17回も参考にしてみてください。
「管理職」に求められる視点とは?
さて、「管理職になれる人となれない人の違い」という本題に移りましょう。その差はどこにあるのでしょうか。
結論から申し上げると、「視点の時間軸」「視座の高さ」にあります。
視点の時間軸とは「短期的に物事を見るか」「中長期視点で物事を見るか」ということ。そして「視座の高さ」とは全体を俯瞰して見られるかどうか。つまり自分のチームや部署だけでなく、他部署も含む会社全体のバリューチェーンを見渡せて判断ができるか、ということです。
「メンバーマネジメント」を例にとってみましょう。
プロジェクトマネジャーのミッションは、半年・1年といった一定期間内に目の前のプロジェクトを完遂させること。そのために必要なスキルを持つメンバーを集め、メンバー1人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるようにモチベーションを管理します。
プロジェクト達成のために、時にはメンバーの入れ替えを判断することもあるでしょう。もしくは、外部人材を活用したり、人ではなく「ツール」を導入したりするケースもあるかと思います。
メンバーマネジメントひとつとっても、プロジェクトマネジャーと管理職では接し方が大きく異なる。
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一方、管理職として経営に近い立場で働く人の場合、メンバーへの接し方は異なります。次のようなことを意識しながら、メンバーマネジメントを行います。
- 経営者が掲げる「ミッション・ビジョン・バリュー」をメンバーに伝搬し、メンバーが当事者意識を持って取り組めるようにする
- 経営者が掲げる「ミッション・ビジョン・バリュー」に基づき、人材育成を行う
- 中長期的な視点で、メンバーの成長を支援する。時には失敗の可能性が高いミッションにあえてチャレンジさせ、成長を促す
こうしたことは、期限が決められているプロジェクトマネジメントにおいては後回しになりがちですよね。
それでも、上記のような視点・意識を持ちながらプロジェクトマネジメントに当たれる人は、「組織マネジメントを担う素養がある」として管理職登用につながりやすいと言えるでしょう。
メンバーマネジメント以外にも、「全体最適」を考えられることは重要です。
プロジェクトを推進するプロセスで、「この企画については、あの部署と協働したほうがいいのではないか」「この案を実行した場合、あの部署にとっては不利益となるのではないか」といったことも発生します。そのことにちゃんと気づいて、他部署も巻き込んだ対処ができるかどうか。それも、「管理職」に必要な素養といえるでしょう。
管理職を目指すために、今とるべき行動は?
Aさんが、「プレイヤー」ではなく「マネジャー」として組織の中で上位ポジションにのぼっていくことを望むなら、今後どんなアクションを心がければいいか。
これまでお話ししたことを踏まえて整理してみましょう。
経営陣との対話を増やし、会社が目指す方向性を理解する
経営幹部の人たちと可能なかぎりコミュニケーションをとり、彼らが日々どんなことに課題を感じているのか、会社の将来ビジョンをどう描いているのかに触れるようにしましょう。それにより、会社全体のバリューチェーンも意識できるようになると思います。
経営幹部と話す機会を得るためには、自身の担当プロジェクトを高いレベルで完成させ、認めてもらうことも重要です。特に、顧客となるマーケットと向き合うマーケティングの知識・視点を磨いて取り組むことで、プロジェクトの質も上がり、経営陣から一目置かれるようになるでしょう。
ただし、会社規模によっては、経営陣と直に接する機会を得るのは難しいと思います。その場合は、会社のIR情報にも目を通したり、社内報やSNSなどで経営幹部メンバーが発信しているメッセージを読み込んだりして、会社の中長期ビジョンをつかんでください。
そのうえで、自分の担当プロジェクトにどう取り組めばいいか、会社が目指すゴールに向けて自分に何ができるかを考え、提言していってはいかがでしょうか。
経営課題の解決をテーマとするプロジェクトに積極的に携わる
「会社に変化が求められている今は、会社全体を俯瞰する目を養うチャンス」と森本さん。
撮影:鈴木愛子
事業や組織についての課題解決に取り組む組織横断型のプロジェクトが持ち上がった時などには、手を挙げて積極的に参加することをお勧めします。例えば、最近では多くの会社で「デジタルトランスフォーメーション(DX)」について議論するプロジェクトが立ち上がっています。そうした機会があれば見逃さないでください。
With/Afterコロナ時代、事業モデルや業務フローの「新しい様式」が模索されている今はチャンスです。他部署の人と協働することで会社全体を俯瞰する目が養われ、視座が高まります。
また、最近は「社内の課題を解決するコンサルタント」のようなミッションを担う経営企画人材が求められています。可能であれば、経営企画部門への異動希望を出してみるのも手でしょう。
以上のことを意識して、今の仕事にプラスしていけば、管理職への道が拓けると思います。
ただし、会社によっては上のポジションが詰まっていて、なかなか昇進が叶わないこともあるでしょう。その場合は、「転職」という選択肢もありだと思います。
特に、今より規模が小さいベンチャー企業などであれば、プロジェクトマネジメントの経験を活かしつつ組織マネジメントも担うことを期待され、早期に経験を積めるかもしれません。
今はキャリアの選択肢が多様化しています。将来的にどんな組織で、どんなポジションで働いていたいのかを見つめたうえで、どんな経験をプラスしていくかを考えてみてくださいね。
※この記事は2020年6月15日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。