女性初のdoda編集長に就任した喜多恭子氏。
撮影:横山耕太郎
新型コロナウイルスの影響で、企業の景況感が悪化している。
内閣府と財務省が6月11日に発表した法人企業景気予測調査(4〜6月期)によると、景気が「上昇」していると答えた企業の割合から「下降」していると答えた企業の割合を引いて求める「景況判断指数(BSI)」は、大企業・全産業でマイナス47.6。リーマンショック後に次ぐ低水準となった。
そして、景況感の大幅な悪化を受け、転職市場も縮小傾向にある。そんな厳しい時代に転職を成功させるにはどうしたらいいのだろうか。
2020年6月、パーソルキャリアの転職サービス「doda(デューダ)」で女性初の編集長に就任した喜多恭子氏に聞いた。
採用抑制と積極採用に二極化
有効求人数は減少している(図は厚生労働省の発表を基にdodaが作成)。
提供:転職サービス「doda」
—— 転職を取り巻く環境はどう変わっていますか?
「厚生労働省の統計によると、2020年3月の有効求人は前年同月比で86%まで減少しています。一方で求職者数は前年比で横ばいです。
doda新規登録者だけで見ると、2020年4月は前年比79%と減少しており、安易な気持ちではなく、真剣に向き合う転職希望者の比率が増えていると感じます」
「コロナの影響を強く受けている業界としては、『飲食』『冠婚葬祭』『旅行・レジャー』などがあり、大幅に採用数を抑えています。
逆に採用を増やしているのは、『IT』『建設』『理容美容エステ』の業界です。
パーソルキャリアが独自に行った企業アンケート調査では、36%の企業が採用への影響があると回答しています。
そのうち7割が『採用時期のめどが立たない』または『終息後に再開を検討する』としており、採用を抑制する企業と、積極的に採用している企業が二極化しています」
未経験歓迎の求人は減少
未経験を歓迎する求人は4月、5月と続けて大きく落ち込んでいる。
提供:転職サービス「doda」
—— 未経験の職種への転職はどうでしょうか?
「これまでは売り手市場が続いており、ジョブチェンジを希望される方も多かったのですが、4月以降は未経験歓迎の求人は減っています。
dodaに掲載されている求人を見てみると、2020年1~3月は『業種未経験歓迎』『職種未経験歓迎』とされた求人は前年比130%前後で推移していたのですが、2020年4月に106%、5月には71%まで減少しています。
自律的に働ける経験者がより求められる傾向にあります」
増える「在宅」希望者
特に20・30代の若い世代で、コロナ終息後もテレワークを希望する割合が多い。
提供:転職サービス「doda」
—— 転職を希望する側にも変化はありますか?
「テレワークが急拡大し、在宅勤務を就労条件にあげる人が増えています。
パーソル総合研究所のアンケートによると、4月に初めてテレワークを行った人は523万人で、すそ野は拡大しています。
同アンケートによると『新型コロナが終息した後もテレワークを希望する』と答えた割合は5割を超えており、年代別でみると、20代・30代では6割以上にのぼりました。
dodaで検索されたワードを調べてみても、『在宅勤務』の検索ランキングは17位(2019年4月)から10 位(2020年4月)に上昇しています」
成長する企業の見分け方
喜多氏は「テレワークの導入など、変化に素早く対応した企業には持続的な成長が期待できる」と話す。
撮影:横山耕太郎
—— 転職先としてどんな企業が有望と言えるでしょうか?
「新型コロナに限らず、今後も予測不可能なことは起きます。例えば5Gの普及もそうですが、淘汰される仕事や新しく生まれる仕事が出てきます。
その中で生き抜いていくためには、まず自分は何ができるか、どんな経験があるかを棚おろしすることです。
『こういう会社だと将来も安定ですよ、だから行きましょう』ではなく、自分にはこんな力があり、これからこんなスキルが欲しいといった視点から、転職を考えてほしいと思います」
「コロナをチャンスと捉え、採用を有利に進めた企業は、すぐにリモートワークを導入したり、面接をウェブ対応できるようにしたりできた企業です。
変化への対応が早い会社は、持続成長性が高い会社ともいえると思います。その視点から会社を見てみるといいでしょう」
企業は慎重、書類通過率は低下
パーソルキャリア人材サービスのプロセス数値を集計。書類通過率は下がっている。
提供:転職サービス「doda」
—— withコロナ時代の転職について、注意すべき点を教えてください。
「企業側は厳選して採用活動を行うようになっています。
書類選考の通過率をみてみると、2020年4月は約22%。前年同期は34%だったので12ポイント低下しており、書類審査は明らかに通りにくくなっています。
また、1次面接の通過率も2019年4月に比べ2ポイント低下して32%。企業が厳しい判断を行っていることが分かります」
「転職希望者へのアドバイスとしては、エントリーや面接を増やすことをお勧めしています。
書類や面接の通過率が低いのは全体的な傾向なので、悲観的にならずに挑戦すること。オンライン面接ができる環境が整ってきているので、面接の機会を多くもち、企業への理解を深めてほしいです」
どんな働き方がしたいか
撮影:今村拓馬
—— withコロナの時代に、転職を成功させるにはどうしたらいいでしょうか?
「新卒採用とは違い、転職では自分が今どんな武器を持っているかが求められます。
プログラミングなど分かりやすい資格やスキルだけなく、接客業職の人であればコミュニケーション力も武器になります。
新型コロナの影響で、未経験歓迎の求人が減っていることもあり、持っている武器を使いながら、その上でどういう働き方をしたいかを追求してください。
自由な時間や場所で働きたいのであれば、プログラマーやエンジニア職など、個人の裁量が大きい職も視野に入ってくるでしょう。逆に、従来のメンバーシップ型の会社で、チームの一員として働きたい人もいると思います」
「新型コロナを機に、在宅勤務を経験したことで、家族の大切さや、仕事で得ていた喜びに、改めて気が付いた人も多いと思います。
『仕事の時間と家族との時間を同じくらい持ちたい』と思えば、これまでとは違う働き方でも選択できる世の中になりつつあります。
過去のように『大手企業の部長だったらいい』とか、多くの人が信じていた価値観が崩壊してきた時代です。
そんな今だからこそ、どう働きたいのか、一人ひとりが自分で考えなくてはいけません」