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EU首脳会議「メルケル首相引退への花道」復興基金まとまるか。「倹約4カ国」の動きがカギ

ドイツ メルケル首相

9月に政界から引退するドイツのメルケル首相。

REUTERS/Fabrizio Bensch

6月18~19日に行われるEU首脳会議(欧州理事会)について、筆者への照会が増えている。

永年の課題であるユーロ圏の債務共有化への一里塚として、設立に向け調整中の「欧州復興基金」に注目が高まっており、今回の首脳会議にかかる期待は小さいものではない。

後述するように、2021年9月をもって政界引退を宣言しているドイツのメルケル首相にとって、債務共有化は最後の“偉業”であり、“花道”としての位置づけになるとの見方もある。

以前から債務共有化に反対してきたドイツがここに来て態度を軟化させているのはその証左と思われる。

EUのコロナ対応策の全貌

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2021〜27年のEU予算とコロナ復興策について議論する欧州会議(ベルギー・ブリュッセル)。

REUTERS/Johanna Geron

懸案の欧州復興基金の展開だが、EUは基金以外にも並行していくつものコロナ対応策を打ち出しており、さまざまな数字や枠組みがヘッドラインで交錯して状況把握だけでも容易でない状況だ。まずは現時点で把握できている情報を整理しておきたい。

EUのコロナ対応策には、これから設立される復興基金のほか、4月に決定された財政措置(総額5400億ユーロ)もある。さらに最近は、EU多年度予算(Multiannual Financial Framework、2021~27年の7年間)をめぐる報道も出てきていて、これが復興基金と重要なかかわり合いを持っているからなお複雑だ。

日常からEUをウォッチしている者でも混乱しやすい状況が足もとにある。

まず、4月に決まった財政措置は総額5400億ユーロの政策パッケージだ。これは、以下の3本から構成されている。

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出典:欧州委員会資料より筆者作成

  1. 欧州投資銀行(EIB)の支援による企業の保護=2000億ユーロ
  2. 欧州安定メカニズム(ESM)の特別融資枠による国家予算の保護=2400億ユーロ
  3. 欧州委員会の一時的な助成金による雇用と労働者の保護=1000億ユーロ

この5400億ユーロはコロナショックを緩和するのが狙いで、いわば「最初の一手」の位置づけだ。

4月23日に開かれた前回のEU首脳会議は、上記の5400億ユーロに加え、コロナショックを乗り越えるための復興基金を検討することでも合意し、欧州委員会に枠組み策定を託した。

復興基金は、パンデミックが終息し、経済が立ち直り、加速していく2021年以降に求められる「第二の矢」の位置づけと考えられる。

その後、欧州委員会は枠組み検討を進め、5月27日に総額7500億ユーロの基金「次世代のEU(Next Generation EU)」を発表した。これがいま「復興基金」と呼ばれているものだ。

財源の議論まで含めて制度設計を評価すると、復興基金は明らかに債務共有化の性質を備えており(後述)、だからこそEUにとって歴史的な意味を持ち、同時に意見集約が難しいテーマといえる。

また、欧州委員会は復興基金の発表と同日、1兆1000億ユーロ規模のEU多年度予算も発表している。両発表が同じタイミングになったのは、復興基金が財源を多年度予算に依存しているためだ。

ここまで紹介した金額を整理すると、コロナショックへの対応としては1兆2900億ユーロ(下表の[1]+[2])、2021年以降にEUが支出する資金規模としては1兆8500億ユーロ([2]+[3])ということになる。

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出典:欧州委員会資料より筆者作成

いずれも欧州委員会が公式文書で引用している数字だが、復興基金の7500億ユーロをダブルカウントしているのでわかりにくい。

基金の行く手を阻む「倹約4カ国」

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「リカバリー(復活)とレジリエンス(強靭さ)のファシリティ」に関する記者会見。欧州委員会のバルディス・ドムブロフスキス上級副委員長とパオロ・ジェンティローニ経済問題担当委員。

Aris Oikonomou/Pool via REUTERS

欧州委員会案によれば、前節の表にある[2]復興基金の総額7500億ユーロのうち、5000億ユーロが返済不要の補助金、2500億ユーロが返済を要する融資という構成になっている。

実はひと口に基金といっても、費目はさまざまに分かれている。なかでも「リカバリー(回復)とレジリエンス(強靭さ)のファシリティ」と呼ばれる費目が目玉で、全体の75%にあたる5600億ユーロ(返済不要の補助金3100億ユーロ+融資2500億ユーロ)が割り当てられている。

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出典:欧州委員会資料およびEU Budget Communication: “The EU budget powering the recovery plan for Europe”より筆者作成

5月18日に独仏共同提案により「返済不要な5000億ユーロ基金」として補助金形式が先に表に出てきたが、同23日には、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデンの4カ国、通称「倹約4カ国(frugal four)」がコンディショナリティ(財政再建や構造改革など)と引き換えに実行する融資形式を対案として示し、行く先は波乱含みだ。

また、過去の寄稿でも論じたように、これらの国々には「大国主導で決めてほしくない」という胸中もあったと考えられる。補助金と融資の割合が「2対1」とされたところに、欧州委員会の苦労が透けて見える。

このような経緯を踏まえれば、復興基金の先行きは、6月18~19日のEU首脳会議で倹約4カ国をどの程度説得できるかにかかってくることになる。

現状では「緊急的(時限的)な基金をつくることには賛成だが、補助金形式には反対」が、倹約4カ国の基本認識と報じられている。

実は、5400億ユーロの財政措置を決める際にも、利用条件の取り扱いで揉めた経緯がある。その際は、使い道を大まかに限定する程度にとどまり、倹約4カ国側が譲歩する形となった。そうした「すでに一度譲っている」感覚があるため、今度の説得は難渋するだろう。

基金の正式名称は「次世代のEU」

欧州連合

REUTERS

また、復興基金の稼働時期や財源も問題含みだ。これらはセットで考えたほうがわかりやすい。

基金の財源は、EU予算の引き上げによってまかなわれることになっている。

現在のところ、EU予算は域内の国民総所得(GNI)の1.23%が上限とされているが、欧州委員会案では、これが2%まで引き上げられる。

そうやって2021〜24年に上積みする予算を担保に、欧州委員会は債券(EU債)を発行し、復興基金の財源を確保する。債券の償還期間は3年から30年とされ、2028〜58年にEU予算から返済することになる。

上のような財源確保の手法をとることから、復興基金の導入を決断したとしても、実際に資金がついて稼働するのは最短でも2021年以降になる。そこに稼働時期をめぐる問題が出てくる。

基金の正式名称が「次世代のEU」とされているのは、環境保護やデジタル化の促進といった費目があることからもわかるように、文字通り、次世代をにらんだ投資を企図しているからだ。

それは言い換えれば、「基金はコロナショックの克服だけを目的とするものではない」ということであり、だからこそ、そもそも無理をして急いで稼働させる設計にはなっていない。

さらに財源の問題もある。

債券なので当然、償還のタイミングで返済原資が必要になる。上でEU予算から返済すると述べたが、厳密には「加盟国からの追加拠出」に加え、「EU独自財源とするための新税(炭素税やデジタル課税など)」でまかなうことになる。

新税は域外からも資金を獲得することができるため、加盟国の負担を軽減する策ともいえる。しかし、それはEUの徴税権を強化することを意味し、これまでの歴史的経緯を踏まえると(過去の詳細はここでは省く)意見がまとまらない可能性もある。

また、域外から資金獲得できる面があるとはいえ、加盟国経済への追加的な負担が一切なくなるわけではない。

結局、基金を利用する国からの将来の返済を充てられる融資部分(2500億ユーロ)と異なり、返済不要の補助金部分(5000億ユーロ)は程度の差こそあれ、加盟国のふところから出すことになる。

それはつまり、EU加盟国における「債務の共有化」以外の何ものでもなく、財政健全国から反対意見が出てくることが容易に想像される。

2020年下期以降に「メルケル首相の花道」を意識した動き

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欧州委員会のフォンデアライエン委員長。メルケル内閣で2003〜19年という長期にわたって閣僚を務めた「親メルケル」派。

REUTERS/Francois Lenoir

どんなに急いで欧州委員会案を可決しても、結局は稼働が2021年以降となるならば、6月18~19日に急いで決める必要性はあまりない。筆者は下期となる7月以降に結論が持ち越される可能性が高いと考えている。

下期になれば、(半期に1度入れ替わる)EU首脳会議の議長国がクロアチアからドイツに回ってくる。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、メルケル内閣で国防相などの要職を長く務め、メルケル首相に近い政治家として知られる。

政界引退を目前に控えるメルケル首相に花を持たせる意味も考えれば、その政治家人生の集大成として「EUの債務共有化をまとめた」という流れがつくられていく可能性は十分考えられる。

欧州委員会案に先駆けて、ドイツがそれまでの立場を翻して補助金を主体とする枠組みをフランスと共同提案する側にまわったのは、その流れの一環に思えてならない。

今回のEU首脳会議は、一気呵成に細部まで詰められた復興基金案が固まるというよりも、「メルケル首相の花道」につながる道筋をつける機会にとどまるのではないかと考える。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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