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「実行できない政策に意味はない」現役最年少市長が語る、コロナ時代の地方自治論

京大で原子核工学を学び、外務省、野村総研インドと官民で揉まれた異色のキャリアを持つ東氏に、ウィズコロナ・アフターコロナにおける自治体の課題を聞いた。

京大で原子核工学を学び、外務省、野村総研インドと官民で揉まれた異色のキャリアを持つ東氏に、ウィズコロナ・アフターコロナにおける自治体の課題を聞いた。

Business Insider Japan

「なぜ10万円の給付に時間がかかるのか」——。

5月下旬、現役最年少の市長として知られる大阪府四條畷(しじょうなわて)市の東修平市長(31)が「特別定額給付金」に関する疑問に答えたnoteの投稿が「わかりやすい」と大きな話題となった。

人口5万6000人、大阪市のベッドタウンである四條畷市では、独自の緊急支援予算やnoteを利用した地元企業の広報支援など、積極的な情報発信をしている。

京大で原子核工学を学び、外務省、野村総研インドと官民で揉まれた異色のキャリアを持つ東氏は、なぜ自らnoteを書いたのか。ウィズコロナ・アフターコロナにおける自治体の課題、求められる役割を聞いた。【聞き手:吉川慧/Business Insider Japan】

バズったnoteを書いた理由、それは……

東市長が特別定額給付金の仕組み、給付に時間がかかる背景を解説したnoteは大きな話題を呼んだ。

東市長が特別定額給付金の仕組み、給付に時間がかかる背景を解説したnoteは大きな話題を呼んだ。

東市長のnoteより。

——「なぜ10万円給付に時間がかかるのか」というnoteを個人で執筆され、10万円給付を自治体が実施する仕組みの解説には大きな反響がありました。

もともと四條畷市でも相談窓口を設けていたのですが、10万円給付の話が報道で先走っていたこともあり「いつ10万円もらえるんだ」と、ひっきりなしに問い合わせがありまして……。

自治体に出向している霞が関時代の同期の中には、給付の仕組みを嘆いている人もいました。世の中に出る情報も部分的だったこともあるでしょうか。

誰かが仕組みを統一的に説明すれば、市民の皆さんにも「それならもうちょっと待ってみよう」と思ってもらえ、日本全国の自治体の職員の負荷も減るし、結局は早く給付できるのではないかなと。

ちょうど同じ頃、noteさんから自治体向けに法人プランのnoteを無料提供するとのお話があったタイミングで、「市長も書いてみませんか」とすすめられまして……。

友人の徐東輝弁護士が検察庁法案の疑問点についてnoteを書いていたのもきっかけでした。「すごい見やすいし、読みやすい。拡散もするんやなぁ」というのをリアルタイムで見ていた。それもあってnoteでやってみようと思いました。

「自治体に出向している霞が関時代の同期の中には、給付の仕組みを嘆いている人もいました」と語る東市長。

「自治体に出向している霞が関時代の同期の中には、給付の仕組みを嘆いている人もいました」と語る東市長。

撮影:吉川慧

—— 作成も投稿も、ご自分で?

文章も資料作りも、全て自分でやりました。ただこれは職員が日々きっちりとレクをしてくれたおかげです。

現場で対応している全国の公務員の方からも「説明してもらえてありがたい」という声もいただけました。

世の中が10万円給付について議論していたタイミングで公開できたことも大きかったのでしょう。何かしらお役に立てたかもしれない、一石を投じられたのかなと思います。

—— 意外だったのは、オンライン申請で「申請する側(市民)」も「申請を受理する側(基礎自治体)」もみんな楽になると思っていましたが、実際そうとは限らないという点でした。

僕自身、文字には感情を込めずに淡々とした文章で書くように心がけたのですが、多くの方が驚かれるだろうなとは思いました。

東市長のnoteより。

—— みんなが便利だろうと国が考えて導入したサービスが、住民や自治体にしてみれば意外とそうではない例はある。

自治体が政策を考えていく場合は、もちろん「アイデア」も「中身」も重要ですが、なにより「実行」ができないと意味がありません。

今のような緊急時には動ける職員の数も限られている。いたずらに工数がかかることをやると、他の大事なことができなくなってしまう。

たとえば、いま国(政府)の2020年度第2次補正予算案には、低所得のひとり親世帯に5万円の給付金が組み込まれました。年収減少による差をつけたり、第2子からは3万円ずつ加算される制度も入っています。

四條畷市ではすでに市独自の緊急対策プランで、ひとり親世帯等への児童扶養手当を一律5万円上乗せし、1カ月以内に98%の給付を終えました。

これは工数を最小にすることを考え、最も効率的に対象者に給付できることを考えて予算化して通したんですね。

決まった後に、年収や世帯ごとの人数で分類するなど時間かかる仕組みになっては、緊急対策としては意味がありません。

市民の手元にお金が届くまでを計算して最も効率的に予算をつくる。それがゴールです。届いてようやく意味あるものになります。そこに一番詳しいのは、我々のような基礎自治体(市町村など自治体の最小単位)だと思います。

市も公式note、事業者の広報を支援 「ゼロ予算事業」を活用

四條畷市の公式noteより。

—— 市では公式のnoteを開設し「#なわて10万つかエール百貨」という地元事業者を応援するプロジェクトをスタートしました。ハッシュタグをつけた事業者のnoteの投稿を、市の公式noteで紹介していますね。

あくまで主体を事業者においた仕組みが構築できるという意味で、今回は特色があるのかなと思っています。

もともとは交流のあった大分県別府市で始まった飲食店応援プロジェクト「#別府エール飯」がきっかけです。お客さんが激減した店を応援するムーブメントが全国に広がり、四條畷市でも始めました。

市民からは「地元のお店を知るきっかけになった」と嬉しい反応をもらえたのですが、同時に「支援は飲食だけですか?」という声もありました。他の事業者も状況は一緒です。

「食にとらわれず、市内の事業者をもっと知ってもらえる手段はないか」と考えていた時、宮崎県日南市が「#日南10万つかエール百貨」をやるという話を聞きました。こちらは業種問わず地元事業者さんを応援するプロジェクトです。

ほぼ同じタイミングでnoteから自治体向けに「note pro」の無償提供プランが始まるという話をいただいた。「それなら組み合わせてやってみよう」というのが経緯です。

特設サイトを作るとなると予算を組み、発注し、サイト構築に工数も時間もかかる。ですが、noteなら「ゼロ予算事業」なのですぐに始められますから。

四條畷市ではYouTubeなども活用。市内の飲食店を紹介するなど、市民に市内の事業者を「再発見」してもらう仕掛け作りに取り組んでいる。

四條畷市ではYouTubeなども活用。市内の飲食店を紹介するなど、市民に市内の事業者を「再発見」してもらう仕掛け作りに取り組んでいる。

四條畷市YouTubeチャンネル

—— 政策のKPIはありますか。

四條畷市では各政策にゴール設定、KPIを設けています。また、いわゆる「サンセット方式」を採用し、事業の周期を定め、KPIを達成できなかったらそこで終わりになります。

ただ、今回のようなこういう(草の根的な)取り組みでは、あえてKPIは設定してません。取り組みのムーブメントの火が、どこで、どうやってつくのかは、やってみなければ分からない面があるからです。KPIで絞ってしまうと、弊害が出るのではという懸念がありました。

事業者さんに「やってみたい」と感じてもらい、応援していくスタンスは貫きたい。商店会や商工会などで横のつながりも生まれそうですし、工夫次第では市の想定とは全く違う方向に化けていく可能性もあります。

「ゼロ予算事業」であることも大きいですね。これが1000万円の予算を使ってサイトを作って……となると話は別ですから。

低コストで早く始められますし、トライ・アンド・エラーが可能です。どれだけ「ゼロ予算事業」を使っていけるかは、これからの自治体の動き方のポイントではあるかなと思います。

「ウィズコロナ」の今、自治体に求められること

四條畷市内の様子。

四條畷市

——四條畷市では今回のコロナ対策でも「何をやるか」を予算で明確にしています。

優先順位として、おそらく国全体としてもそうだと思いますが、児童・生徒の学びや事業者の営業活動に一定のご負担(制限)をお願いしながら、社会全体として医療崩壊を防いだという前半のフェーズがありました。

今はそこから、ようやく社会経済活動を回復させていこうというフェーズにあると思います。社会を回復させていく一方で、第二波が来ることも想定する。一見矛盾するようなことを同時に進めているというイメージです。

「いま一番どこが困っているのか」は各部署の現場が知見を持っています。僕もすべてを具体的に理解しているわけではないので、現場の声を聞いて判断していますね。

ひとり親等の世帯は、緊急事態措置で収入に受ける影響が大きい。そこは最速・最短で支援を届けるという考えでした。

また、子供たちの学びを保障するため、オンライン環境がない世帯・お子さんにはWi-Fi環境を整えないといけないので、そこも急ぎました。

双方とも、いま国のプランで出ているので結果として先取りして実行したことになりました。

——スピード感とタイミング、適切な支援のためには、自治体の現場の知見が大切になっている。

市役所の職員は非常に「公」の意識が強いです。地震や大雨など緊急事態の時には「自分たちが最後の砦だ」という意識をもっています。

ただ、誰かがそれをうまくコーディネートしないといけない。それぞれが、それぞれの方向を向いてやってしまうと、せっかくの力が分散してしまい、非効率的になってしまいます。

集中すべきところと切るところを判断するのが、いまの僕の大事な仕事かなと思っています。

「アフターコロナ」で自治体に求められる役割は

四條畷市内の様子。

四條畷市内の様子。

四條畷市

—— コロナ収束後の社会は、どんな形になると思いますか。

「終わった」という定義をどこに置くかにもよりますが、いわゆるワクチンができて集団免疫を持ってしまえば、その後はそれほど大きな変化は起きないと思っています。

むしろ、それまでの数カ月〜数年が社会を変えるチャンスだと思っています。業種業態にもよりますが、例えば市役所の働き方もそうです。

旧来の市役所だったらコロナ対策の会議も参加者が実際に集まって開いていたと思いますが、今は行政のチャットツールを利用したりして書面上で開催できる。

四條畷市ではリモートワークができる環境を整えているので、電子決裁もどんどん進めています。同様のことはこの1〜2年で進むと思います。

今回のコロナショックにおける取り組みで私が一番大事だと考えていること、それは「コロナが終わったら、また元に戻るだけの政策はあまり意味がない」ということです。

アフターコロナのタイミングで、より四條畷市が良くなっているという状況を各政策で目指すべきです。

情報の重要性は外務省で、説明責任の大切さは野村総研インドで学んだ。

東市長は外務省時代、TPP(環太平洋経済連携協定)など貿易協定の交渉に関する業務に従事した。

東市長は外務省時代、TPP(環太平洋経済連携協定)など貿易協定の交渉に関する業務に従事した。

Osugi / Shutterstock.com

—— ご自身でもTwitterやnoteで情報発信をされていますが、情報を外に伝える意義は大きいと考えていますか。

これは外務省で働いていた時に痛感しましたね。役所が市民に対し、情報を正確に伝えられていないという実際の例があったからです。

霞が関に入ると、まず新人は国民からの問い合わせ業務(公聴業務)に携わります。一件あたり30分〜1時間、長ければ2時間も電話対応をやります。

ただ、問い合わせてくれた方は役所のウェブサイトを見ながら電話をかけてくるのですが、サイトに載ってる情報が1年前のものだったりしたこともありました。

せっかくウェブサイトを見て頂いているのに、載っている情報が古かったりズレていたりした。役所がきっちり情報を更新できていたら、この対応は発生しなかったわけです。

情報は正しく、早く、積極的に、何度も出していくこと。それが住民のためになりますし、職員も二度手間にならない。どちらにもwin - winになると考えています。

四條畷市役所でも、かつては情報発信に関する計画や指針が全くなかったんですね。思いついたら、思いついた人がやっていた。でも、それだと市の情報発信のやり方が確立できません。

いまでは全部署に「情報発信リーダー」を置き、各課ごとにどんな情報を、月に何回ツイートして、インプレッションはどれだけだったかを毎月の部長級会議で確認しています。

——情報発信の大切さを学んだ外務省、さらに野村総研を経て、2016年から四條畷市長に。民と公をまたいだキャリアで、今に活かされている部分は。

外務省では、短いながら濃密な時間を過ごしました。特に「公的機関は何を重視して意思決定をするのか」とか、政治と行政の距離感を短期間でも知ったことは大きかったです。

野村総研インドでは、徹底的に論理が追及されました。コンサルトして経営陣にアドバイスをしていくわけですから、常にプロフェッショナルであること、クライアントファーストであることが求められます。

曖昧に物事を決めず、なぜこれを選んで、これをやらないのか。それをきっちりと考え抜き、仕事を成功させる。これを徹底的に鍛えられました。

いまの「首長」という立場は、政策に対する「説明責任」が最も大切ですから。

「よく見える政策」と「よい政策」は違う。

撮影:吉川慧

—— 危機の時はリーダーの素質が見えやすいです。自治体の対応の良し悪しにも、自治体ごとにかなりの差があります。首長に求められる役割や、住民の幸福のために求められる自治体の役割は、どのようなものだと思いますか。

難しいですね……。ただ、一人の人間が何でもできるわけではないので、そこは組織全体の総合力が大切です。

組織をコーディネートをするのが得意な首長さんがいたら、猪突猛進が得意な首長さんもいる。それは多分、どっちが良い悪いという話ではないでしょう。

たとえば市長が猪突猛進なら、副市長はコーディネートが得意な人材にすればいい。

だから、必ず「首長はこうあるべき」「首長はこうじゃなければ」といけないということではない。あくまで総合力だと思うんですね。

「住民の幸福」をどう考えるのかも難しいですよね。というのも、住民に人気のある政策でも、それが自治体の将来に有効な政策かどうかは別の議論だからです。

「この自治体に住んでてよかった」「良い街だな」という声は住民からの評価ですが、こうした声と自治体として有効な政策は一見リンクしているようでリンクしてないことがあります。

政治家ですから「なんとか今の声に応えたい」というインセンティブはどうしても働くんですが、それだけではダメだと思いますね。

「良く見える政策」と「良い政策」は別の問題です。僕は、ここが非常に大事だと思っています。

その政策が、いま本当に有効か。そのリソースがあったら他にできることがあるのではないか。そこまでとことん突き詰めれられるか。

そして、やるとなったら腹をくくって決定できるか、意思決定の理由を説明できるのか。「こういう理由で、この政策をやるんです」と理路整然と伝える。

それが首長にとって一番大事なことだと思います。

(聞き手・構成:吉川慧


東修平(31):1988年大阪府生まれ。外務省、野村総研インド時代を経て、2016年に四條畷市長に当選(当時28歳)。現役最年少の市長。全国初となる民間出身の女性副市長を2017年に公募から抜擢。市役所では職員採用時のウェブ面接の導入、市公式LINEを使った道路の損傷通報システムの整備などに取り組む。

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