ゼネラル・モーターズとホンダ、ソフトバンクが出資する自動運転車「クルーズオリジン(Cruise Origin)」。
Stephen Lam/Reuters
- 新型コロナウイルスの大流行が、自動運転分野における開発企業の統合を加速する。専門家3人が指摘。
- ウェイモ、フォード・オートノマス・ビークルズ、GMクルーズ、バイドゥ、インテル=モービルアイの5社がこの難局を切り抜ける企業になりそうだ。
- 目に見える進歩の少ないウーバーやBMW、日産はかなり厳しい状況だ。
自動運転開発の分野では近年企業どうしの協業や大規模な資金調達が相次ぎ、勝者と敗者の分かれ目がはっきり見えてきている。新型コロナウイルスの経済的影響により、その流れは一段と加速しそうだ。
輸送分野の企業と関係の深いシリコンバレーバンクのマット・トロッター(シニア・マーケット・マネージャー)はこう指摘する。
「勢力統合の動きはすでに始まっている。新型コロナウイルス発生後の新たな環境のもとで、その動きは間違いなく加速していくと考えている」
2010年代、一部の企業は2020年代前半までに自動運転車を市場投入できると予想していた。しかし、計画はいずれも遅延あるいは規模縮小を余儀なくされ、自動運転技術を安全かつ効率的に開発するのは予想よりずっと難しいことが明らかになっている。
そうした状況の変化と、いまだに多くの企業が自動運転から収益を生み出せていない現実とが相まって、
「スタートアップは市場から脱落し、大企業でも開発継続を断念したり、他企業との協業の道を選ぶなど、結果としていくつかの大企業・大勢力に集約されていく」
と、ボストン・コンサルティング・グループのアーカシュ・アローラ(マネージングディレクター、自動車・モビリティ産業担当)は予測する。
統合に向かうトレンドはいまに始まったことではない。米ゼネラル・モーターズ(GM)が2016年にスタートアップのクルーズ(Cruise)を買収したのを皮切りに、自動運転技術開発の世界に合従連衡の波が起きた。
フォードとフォルクスワーゲンはアルゴ(Argo)AIに、トヨタは中国の小馬智行(Pony.ai)とウーバーのアドバンスト・テクノロジー・グループ(ATG)に出資。ダイムラーとBMWは自動運転およびモビリティ分野での提携を決めた。韓国の現代自動車と米アプティブ(Aptiv)は自動運転車開発のためにジョイントベンチャーを設立している。
ウェイモ、フォードなどが「ベストポジション」
テクノロジーカンファレンス「CES2019」で披露されたウェイモ(Waymo)の車両。
REUTERS/Steve Marcus
市場調査会社ガイドハウス・インサイツによると、自動運転技術の分野をけん引するのは独立系のスタートアップではなく、フォーチュン500(全米上位500社)による、(自動車の街デトロイトではなく)シリコンバレーでよく見る類いのテクノロジースキルに特化した企業連合だという。
アルファベット(グーグルの親会社)傘下のウェイモ(Waymo)、フォード・オートノマス・ビークルズ(Ford Autonomous Vehicles)、GM傘下クルーズの3社は、2019年、2020年と連続でガイドハウス・インサイツのランキング最上位を占めている。
その3社にインテル=モービルアイとバイドゥを加えた5社が、新型コロナウイルスの影響を脱して開発競争を勝ち抜く「ベストポジションにつけている」と、ガイドハウス・インサイツのサム・アブエルサミド(リサーチアナリスト)は分析する。
「自動運転システムをつくるだけじゃ足りない。どうやってそのシステムを市場投入するかを明確にするのが大事なんだ」(アブエルサミド)
逆に、この時点で際立った進歩を手にしていないスタートアップは厳しい状況に置かれていると考えていい。アブエルサミドは、新型コロナウイルスの流行以前のような資金調達はすでに難しくなったとみている。
ここ数カ月の間に、ズークス(Zoox、アマゾンへの身売りを検討しているとの報道あり)、ベロダイン・ライダー(Velodyne LiDAR)、コーディアック・ロボティクスはレイオフを実施し、スタースキー・ロボティクス(Starsky Robotics)は事業停止、解散に至っている。
「単純に、プレーヤーが多すぎる。ひとつの市場で70社が開発競争をする日はもう二度とこない」(アブエルサミド)
アップルもウーバーも開発断念の可能性
トヨタが出資した中国の自動運転開発企業、小馬智行(Pony.ai)の車両。
REUTERS/Mike Blake
新型コロナウイルスのせいで厳しい状況に追いやられるのは小さなスタートアップだけではない。現段階で見るべき成果を得られていないアップルやウーバーのような資金力のある大企業にも、自動運転プロジェクトを放棄する日がやって来るかもしれない。
同様に成果の薄いBMW、ボルボ、日産のような自動車メーカーは自社開発の継続を断念し、他とのパートナーシップを選ぶ可能性がある。
ただし、BMWの担当者は「現在の(コロナショックの)状況が自動車産業に影響をおよぼすのは間違いないですが、当社の自動運転技術開発に関するスタンスには変わりありません」とBusiness Insiderの取材に答えている。
また、ウーバーの担当者は、2019〜20年に行ったワシントンDCとダラスでのマッピングなどデータ収集、サンフランシスコでのテスト走行再開などの成果を強調し、完全自動運転技術を実装する車両の共同開発に着手したこと、さらには安全性に関するアドバイザリーボードを設置したことを明らかにしている。
アップルとボルボ、日産からのコメントは得られなかった。
企業どうしの統合・集約は自動運転システムの開発スケジュールにはさほど影響がない、とアローラ(ボストン・コンサルティング)とアブエルサミド(ガイドハウス)はみる。
一方、どの企業も、コロナショックの終息後により大きな収益を得られるビジネスモデル、あるいは配送サービスや路線バスのようにより早く収益を生み出すビジネスモデルにシフトしていく、というのがトロッター(シリコンバレーバンク)の見立てだ。
「長期的なタイムラインに変更はない。変わるのは、技術開発で優位に立ついくつかの企業(グループ)にしぼられた、さらに激しい競争が始まるということだけだ」
[原文:5 self-driving-car companies primed to survive the wave of consolidation slamming the industry]
(翻訳・編集:川村力)