【ジンズ・井上一鷹】集中力途切れないよう自宅をリノべ。リモートワークの難点は「見取り稽古」ができない

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撮影:三木いずみ

コロナショックによる「在宅シフト」で働き方が大きく変わろうとしている。経営・マネージメント層に、 改めて気づいた新たな課題は何かを聞くシリーズ。

8回目は、 アイウエアブランド 「JINS」を運営するジンズ・ Think Lab Gエグゼクティブディレクターの井上一鷹さん。ジンズのグループ会社で、ソロワーキングや集中などの1人で気持ちよく仕事ができる空間の研究開発およびサービスを提供する「Think Lab」の取締役でもある。

Think Labでは、 集中の度合いを測定できるメガネ型のウエアラブルデバイス 「JINS MEME」で得た結果を、同社が提供するソロワーキング・スペースに反映。「1人で気持ちよく仕事ができる空間」を提供してきた。フルリモート体制になり、家で仕事に集中することの難しさも指摘されている。改めて気づいたリモートワークで仕事をするための最大のコツとは?


自宅をリモートワークにリノベーション

4月7日に緊急事態宣言後、200人程度いるジンズの本社はほぼ全員が在宅勤務になりました。宣言が解除された現在も、 必要最低限の約1割だけが出社しています。全国約400店舗ある「JINS」も、地域の状況に従い、徐々に再開。今は、ほぼ全店舗が営業しています。

Think Labも飯田橋と汐留にBtoCの店が2店舗ありますが、汐留はレイアウトを変更するなどの感染対策をして営業しており、飯田橋も6月1日から再開しています。

Think Labは、1人で集中して仕事ができる「ソロワーキング・スペース」、オフィスでも家でもない場所を提供してきました。人はどうしたら集中できるのか。JINS MEMEで得た結果を空間デザインに反映し、実験を重ねてきました。

同時に、自分がリモートワーク中心の働き方をしているので、自宅でも実験をしていました。コロナ前からかなり本気で自分の部屋をリモートワーク向けにリノベーションしていたんです。

集中が途切れないための本気の環境づくり

PCは窓際

井上さんの自宅のワーク・スペース。「窓際にするだけでなく、できるだけ、椅子にはやはりこだわったほうがいい。バランスボールはお尻が蒸れるのですぐ止めました」。

提供:井上さん

部屋の明かりが暖色系の電球色だったり、薄暗かったりすると、 人間は副交感神経が優位になり、リラックスモードになるため、集中には入りづらい。照明は、仕事に集中したいときは寒色、寝るときは暖色、と色を変えられるスマートLED照明に変えました。

PCを置く、メインのワーク・スペースは窓際に作りました。基本的に家の中はオフィスより暗い。暗い中でPCやスマホのブルーライトを浴びると、よく見ようとして瞳孔が開き、目に負担がかかります。

ワーク・スペースは窓際にすることで、窓からより明るい光が差し込み、瞳孔が自然に絞れます。

集中が途切れないようにするには、仕事の種類によって場所を変える必要もあります。単なる作業なのか。アイデア出しなどの発想を促したいのか。適切な場所や環境が違う。

アイデア出しをしたいときは、リラックスして資料を広げて仕事ができるように、リビングは長椅子と大きなテーブルにしました。

ほかにも、オフィスさながらウォーターサーバーを置いたり。集中だけでなく、オン・オフの切り替えのために、アロマを仕事部屋と寝室で変えたりもしています。

フルリモートになってからは、観葉植物も買いましたね。ただ、フルリモートで6時間以上、座って仕事をしていると、身体がおかしくなる感じがしてくる。視覚情報と聴覚情報しか、ほとんど使わないからです。

バブ

オフの大切な時間、お風呂タイムのお供のバブ。箱買いすると、使わない香りのものも付いてくるので、檜の香りに統一する予定。

提供:井上さん

触覚刺激や嗅覚刺激を促すのと、こり固まった体をほぐすために、お風呂に入る頻度を増やしました。身体に本当にいいかはちょっとまだ不明ですが、1日4回入る。

起きた直後、昼の空いた時間、夕礼が終わった時、そして寝る前の4回。温度は45度と40度で上げたり下げたりして、サウナ状態にする。嗅覚刺激のために、檜(ひのき)の香りのバブも入れます。

リモートワークは下手をすると、オンの状態がずっと続きます。集中しすぎで、むしろ仕事から抜け出すチェックアウトができないことがある。「檜の香りをかいだ瞬間、仕事のことを忘れていい」という自分ルールも決めました。

今、バブ(花王の入浴剤)を1日4個は使っていますから、在宅勤務手当をもらえるとしたら、私の場合、全部バブ代で消えます。

でも人間はゆとりと揺らぎが欲しくなる

リビング

リビングも、気分しだいで仕事ができる机と椅子にしておく。家の中でも1つの場所だけで仕事をしていると気持ちが切り替えられない。

提供:井上さん

環境をほぼ完璧に整えたので、基本的に自宅でのリモートワークはめちゃくちゃ快適。しかも、単身世帯なので、家族に仕事を邪魔されるということもない。まさに天国。

でも、これだけ環境を整えても、人間はたまに外に出たくなるんですね。まだデータが集まっていないので、肌感覚ですが、少なくとも2週間に一度くらいは“ゆとり”と“揺らぎ”が欲しくなる。

それに、在宅ワークの環境を100点満点にしようとすると時間もかかるし、精神的負担も大きい。実験したい自分のような立場でない限り、どこまで家を仕事仕様に変えていいのかも迷うところですよね。

だから、リモートの環境を整えたいと思ったら、「何がつらいか」「何が問題か」を問い詰めるより、「どうしたら、楽しくなるか」発想で工夫しつつ、まずは70点の環境作りを目指すのが大事なんじゃないかなと思います。

リモートワークは「見取り稽古」ができない

ThikLab

Think Labでは、キュービクル型と呼ばれる仕切りのある半個室のレイアウトで隣りとの仕切りを四方に作り、飛沫感染の確率を下げる。

提供:Think Lab

コロナでリモートワーク に半強制的に移行したことで、思った以上のことがリモートできることが分かった。「JINS」も改めてECに力を入れています。

基本的にそれでいいと思うのですが、コミュニケーションについては、 ある気づきがありました。

私の場合、田中(ジンズ田中仁CEO)と話すというのと、リーダーとしてメンバーと話すという2パターンある。実は、田中と話すのはリモートだとなかなかしんどいとわかりました。

偉い人だからとか、言葉数が少ないからとかいうわけじゃないんですよ。「見取り稽古」ができないんですよ。リモートだと。

見取り稽古というのは知人が教えてくれた表現です。自分は剣道とか柔道とか1回もやったことない軟弱者なんですが、 剣道などには上段者をただ見るだけの稽古がある。

上手い人の動きをただただ観察する。これを見取り稽古というのですが、リモートだと無理なんですよね。同じことがビジネスの現場でもある。

Zoomで機微を読み取ること難しい

身内を褒めるのは口はばったいのですが、うちの田中は商売の勘がやっぱりすごい。自分も若輩者ながらThink labという事業を牽引していく立場なので、事業の目指すべき方向性を自分なりに考えるわけですけど、自分の思考の枠内だけで考えていると限界がある。

そこで当然、田中と話すわけですが、自分が想定していたのとはもう絶対に違うところからいつも意見を言われる。田中と話す時は「なるほど。自分は見えていなかった」というのを自覚する瞬間でもあるんですね。

これがリモートだとできない。そもそも、ズームのフレーム・レート(1秒間の動画で見せる静止画のコマ数)じゃ無理なのかもしれません。動画って、まだ良くて1秒12フレームしか出せない。

「今、社長どう思った?」みたいのを察知するための機微みたいなものまでは映し出せない

相手を丸ごと見ないと気づけないこともある

テレカンブース

テレカンファレンス用のブースのニーズが急増しているため、増設中。

提供:Think Lab

これだけ聞くと、「なんだ、忖度(そんたく)くんかよ」みたいな話に聞こえるかもしれませんが、そうじゃないんです。それもあるかもしれないけど(笑)。

何が違うのか、何が自分との差なのか。言葉でいくら説明してもらってもダメで、背中含めて、相手を丸ごと見ないと気づけないんですよ。なんせ、相手は自分の想像を上回っていますから。

リーダーとしてはまだ修行中の身なので、些細なことでも全部を見せてもらう必要がある。この見取り稽古ができないのが、自分が気づいたリモートワークの一番の問題かもしれません。ここだけは、リアルなオフィスに残すべきなのかなとちょっと思います。

リモートはフレックスにすべきでない

チームメンバーとのコミュニケーションは、リモートワークでは逆にフレックスタイムにしないほうがいいかもしれないと思いましたね。

最初に言ったように、 家とオフィスが一緒のリモートワークでは、下手すると延々と仕事がプライベートに入り込んできてしまう。

対策として、仕事のチェックインである朝礼とチェックアウトの夕礼の儀式だけは大事にする。コロナ前はわりとふわっとしたマネージメントをするタイプでしたが、これだけは自分でも予想以上に徹底するようになりました。

この儀式を徹底するのは、「リモートワークの最大の敵は猜疑心だ」ということもあります。4〜5人の少人数のチームだと大丈夫かもしれませんが、常に猜疑心が生まれかねない危険があるのがリモートワーク。

「あいつ、何やってるんだ?」という気持ちがお互いに生じないよう、「これをやっているよ」ということを朝礼と夕礼で報告してもらう。心理的安全性ですね。

リモートでは、「そこは感じ取ってよ」みたいなことはできなくなるので、ちゃんと言語化する。

まめに自己開示することになるので、チームワークやメンバー間のコミュニケーションは、かえって、リモートのほうがよくなっていると感じます。

市中の山居を目指したい

ハリネズミちゃん

同居人のちびまるくん(1歳3カ月・オス・ハリネズミ)。「ペットじゃありません。同居人です。彼は2人目です」。

提供:井上さん

これからのThink Labの事業に関しては、「市中の山居」を目指したい。市中の山居とは、人口密度が高い街中にあるのに、山奥の住まいのような風情の茶室のことを指す言葉です。千利休が言ったとか、もっと前の時代の文化人が提唱したとも伝えられています。茶室は、戦国時代のような荒々しい時代に、心理的に逃げ込む場所としての機能がありました。

リモートワークが中心になると、まさに、近くに心理的に逃げ込める場所が求められるのではないかと思うんですね。日常に押し込められて余裕がない。茶室のように、適度に豊かな気持ちになれるなら、どこでもいいところにトリップしたい。

かといって、ワーケーションともちょっと違う。今はまだ容易に移動できないので、あまり遠くまで動くと、むしろ間違っちゃったりします。

小さな移動でも心が豊かになれる場所が必要。となると、市中の山居になる。集中を求めるというより、心豊かになれる空間だけれども、適度な緊張感で仕事をしようと思えばできる場所でもある。これからのThink Labはそういう場所でもありたい。

あとはそうですね。個人的なことですが、よくフルリモートになると、同居人とのコミュニケーションがすごく増えるといいますよね? うちには、同居人のハリネズミがいるんですけど、彼とのコミュニケーションは全然でしたねえ……。

抱っこ?させてくれるわけないですよ。前からですけど、あいつ、俺のこと、100%嫌いだと思います。

(文・三木いずみ)

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井上一鷹: ジンズ Think Lab GエグゼクティブディレクターとThink Lab取締役を兼任。大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心に事業・技術経営・人事組織戦略の立案に従事した後、ジンズに入社。社長室、商品企画グループマネジャー、R&D室マネジャーを経て現職。「集中」を測るアイウェア「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」のプロジェクトリーダーとして、Think Labにも関わる。算数オリンピックアジア4位、数学オリンピック日本最終選考に進んだ経験あり。著書に『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』。

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