スタートアップのカルチャーを可視化するのは簡単なことではないが、組織の規模拡大には不可欠だ。
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- スタートアップの規模を拡大させるということは、自分が作った組織にチームを適応させること。ただしやり方を誤るとビジネスに深刻な影響を与えかねない。
- 「企業文化」とはあいまいな概念のように聞こえるが、スタートアップが規模拡大を図るうえでは特に注意を向けなくてはならないものだと識者らは口をそろえる。
- 採用候補者に対して適切な問いを投げかけ、スタートアップとしての自社の文化に時間を割くことは、事業の成長に避けて通れない浮き沈みをチームが乗り越えていく助けになりうる。
スタートアップの規模を拡大させるということは、自分が作った組織にチームを適応させるということだ。
創業から間もない頃は、チームメンバーは1人何役もこなし、ビジネスの成長に必要となるあらゆる場面で助け舟を出すことが多い。だが、従業員数が200人程度になったあたりで、初めのうちはうまくいっていた自社の企業文化が、求められるものが新しくなったことでぐらぐらと揺らぎ始める。
組織をこの規模にまで伸ばしてきた目に見えないシステムやプロセスを、突如として可視化しなければならなくなる。しかも、やり方を誤ると今後の成長に深刻な影響を与えかねない。
システムやプロセスを可視化するのは容易ではないが、自社の企業文化を整理することは、スタートアップが規模拡大を図るうえで特に注力しなくてはならないことだ、とニューヨーク大学のディーパック・ヘッジ(Deepak Hegde)教授は言う。
ヘッジ教授は同大学でマネジメントと組織について研究しており、ITやサイエンス分野のスタートアップ企業の規模拡大を支援するエンドレス・フロンティア・ラボ(Endless Frontier Labs)で指揮をとっている。
教授は言う。「創業者は、自分で何から何まですることにすっかり慣れきっています。彼らにとって、自分の組織は我が子も同然なんです」
そこで以下では、“我が子”の成長に応じた正しいケアの方法を紹介しよう。
成長のためには時に“散髪”が必要
成長企業がよく犯す間違いのひとつが「(従業員数が)増えたのに(創業時からある慣習を)減らさないこと」だと、米ペンシルバニア大学ウォートン校のイーサン・モリック(Ethan Mollick)経営学准教授は語る。
「創業当時にうまくいったことが、後々も使えるとは限りません」とモリック教授は言う。例えば従業員が500人に達すると、全社会議はもはや形骸化してしまうか、そもそも開催が難しくなる。
スタートアップ企業アドバイザーで、作業着ブランド「M.M.ラフルール」創業者のナリー・フォスター(Narie Foster)も、自社の会議体を頻繁に変える必要に迫られ、会議の人数が膨れ上がると参加者を追い出すこともあったという。
チームのメンバーには、これから様々な状況で勝手が違ったり、もどかしい思いをすることになると知らしめる必要があった。「この会社にいたいということは、こういうある種クレイジーで冒険的な道のりを自分が望んでいるということに他なりません」
適材を見つけるため、採用候補者に尋ねるべきこと
誰を同じ船に乗せるか。採用活動の成否はスタートアップ企業の成長スピードに直結する。
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チームを成長させることは、単にふさわしいスキルを持つ人材を見つけるにとどまらない。プレッシャーが極めて高いスタートアップという職場でとりわけ重要になるのは、避けて通れない浮き沈みを乗り越えられる性格と敏捷性を兼ね備えた候補者探しだ。
フォスターは候補者に、前の上司はどんな人物で、どう思っていたかを語ってもらうという。
「自分が気に入っていた、あるいは不満を抱いていた職場環境についてどう語るか。これはつまるところ、どういう企業文化が自分に合っているかに行き着くのです」
候補者にはどん底の経験も語ってもらいたいとフォスターは思っている。
「辛い時期をどんなふうに語るかを見ることで、候補者の自己認識の仕方や、我が社で働くうえで非常に重要になるポジティブ度合いが分かります」
スキンケアスタートアップのエヴァーエデン(Evereden)CEO兼共同創業者であるキンバリー・ホー(Kimberley Ho)は、候補者に対し、以前の上司5人を10段階で評価してもらっているという。上司たちについてどう考えているかを知るためだ。
ホーによれば、この質問によって候補者の誠実度や他者のフィードバックにどれだけ耳を傾けられる人物かが分かるという。というのも、マネジャー全員が10点満点に値するということもなければ、全員が0点というのも考えにくいからだ。
もっと気さくに話すよう、こちらから促さないとならない候補者もいる、と語るのは、自動マーケティングプラットフォーム「カラ(Kara)」のCEO兼共同創業者、マリー・ベリー(Marie Berry)だ。
「候補者が[自分について]どう話すかで、本人の志望動機がかなりの部分、分かるものです」
チームの一員として迎え入れるべき有能な人材を見つけることは、それ自体気が遠くなるような難題だ。だが、創業間もない時期に企業文化に時間を割くことは、長い目で見れば自社にとって有益なことと言えるだろう。
「役割の混乱」を回避するために
認識のずれを防ぐには、コミュニケーションが欠かせない。
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スタートアップが中規模に成長してくると、何か違和感を覚えたスタッフが大量に辞めていく。
人事ソフトウェア会社ネームリー(Namely)の人材担当役員であるローナ・ハーゲン(Lorna Hagen)は、200~500人規模の従業員を抱える中堅企業へと成長すると、役割の混乱が生じるおそれがあると語る。
ネームリーのプラットフォームを利用する1200社を対象とした調査結果では、中堅企業を辞めた人の46%が、入社前に会社から言われた仕事内容と実際とのずれを退職理由に挙げている。
「ずれ」が生じる割合は、中小企業では37%、大企業でも26%あった。面接プロセスで仕事が誤って伝えられるおそれがあるだけでなく、会社が成長するにつれて仕事内容が変わることもある。
ハーゲンによると、会社の設立当初は「誰もが手に手をとって、何でも一緒にやって、あらゆる情報が完全にガラス張りになっている」。
しかし企業が大きくなるにつれて、この透明性は変化してくる。規模拡大のプロセスで役割を明確にしていくのは、従業員とマネジャー双方の責任だとハーゲンは言う。「自分たちが一体何を求めているのか、明確に意思表示するのは、自己責任に委ねられる部分が非常に大きい」
いずれにせよ、スタートアップの経営陣が優先すべきは、こうしたオープンで話しやすいフィードバック環境をしっかり整えることだろう。
(翻訳・印田知実、編集・常盤亜由子)
[原文:Startups tend to stall once they hit 200 employees. 7 experts share their tips to avoid this fate.]