Patrick Pleul/Pool via Reuters
イーロン・マスクは、ツイッターの買収で最近何度もトップニュースを飾っている。
マスクは多忙だが、読書の時間は確保している。ロード・オブ・ザ・リングの原作『指輪物語』のような叙事詩的ファンタジーからロケット製造の実務書まで、多様な書籍を読むことが成功のために不可欠だという。
そこで、これまでのマスクのインタビューやSNSでの発言に基づき、億万長者となったこの起業家が「すべての人が読むべき」と考える13冊を紹介する。
J.R.R. トールキン著『指輪物語』
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マスクは生まれ育った南アフリカで、小柄で口達者な子どもだったことから「マスクラット」(ネズミ科の小動物)というニックネームで呼ばれていた。
『ザ・ニューヨーカー』誌の2009年の記事によると、マスクは「孤独の中で多くのファンタジーとサイエンスフィクションを読んだ」という。とりわけJ.R.R. トールキンの『指輪物語』は、マスクが未来の自分像を形成するうえで影響を及ぼした1冊だ。
「本に登場する英雄たちはいつも世界を救う使命感を抱いていた」と、マスクは『ザ・ニューヨーカー』誌に語っている。
既に『指輪物語』を読み終え、映画『ロード・オブ・ザ・リング』も観たが、もっと「中つ国」に触れたいという人のために、『ロード・オブ・ザ・リング』テレビシリーズをAmazonが制作中だ。
ダグラス・アダムス著『銀河ヒッチハイク・ガイド』
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スーパーコンピュータが「人生の意味」についての「回答」を導き出す。それは「42」という数字で——。『銀河ヒッチハイク・ガイド』はそんなあらすじのSFコメディだ。
10代の頃に南アフリカで本書に出合ったマスクは、ものの考え方を形成するうえで大いに影響を受けた。
2020年2月、宇宙船から宇宙に放出されたテスラ・ロードスターのインパネに「Don’t Panic(落ち着いて!)」という言葉が刻まれていたことからも、マスクが本書にどれほど魅了されていたかがうかがい知れる。これは『銀河ヒッチハイク・ガイド』の初期の版の表紙を飾っていた言葉だ。
2015年のインタビューで、SFに登場するお気に入りの宇宙船を尋ねられたマスクは、「それはもう、『銀河ヒッチハイク・ガイド』に出てくる宇宙船でしょう。あの『無限不可能性ドライブ』を動力とした宇宙船だよ」と語った。
ウォルター・アイザックソン著『Benjamin Franklin: An American Life』
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マスクはたびたび、アメリカ合衆国の建国の父であり発明者としても有名なベンジャミン・フランクリンが自分にとっての英雄のひとりだと語っている。
フランクリンは、有名な凧の実験を通して雷が電気であることを初めて証明し、それが後の避雷針の発明につながった。また、2種類の光学レンズを組み合わせた二焦点眼鏡を発明した功績もある。
マスクはこのフランクリンの伝記について、「フランクリンがまさに起業家だったということがわかる」と、気候変動に取り組む非営利団体のプラットフォームFoundationのインタビューに答えて発言している。「彼は起業家でした。家出少年という、何もないところからスタートしたんですから」と語り、「彼は本当に素晴らしい」と付け加えている。
ジェイムス・エドワード・ゴードン著『構造の世界——なぜ物体は崩れ落ちないでいられるか』
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スペースX創業時、マスクの専門領域といえばコーディングだった。しかし彼は、ロケット工学の基礎を独学で身に着けた。
独学に役立った書物のひとつが『構造の世界』。イギリスの材料科学者ジェイムス・エドワード・ゴードンが著した構造工学の一般向け解説書だ。
南カリフォルニアのラジオ局KCRWのインタビューに答えたマスクは、本書について「構造設計の入門書として非常に優れている」と紹介している。
ロケット構造に関心を持っていたマスクは、同社のCEOばかりか一時期チーフデザイナーも兼任し、スペースXのロケット「ファルコン・ヘビー」の計画・設計に深く関与していた。
マスクは、「私がチーフエンジニアやチーフデザイナーを兼務することになったのは、採用がうまくいかなかったから致し方なくね。優秀な候補者が誰も入社してくれなかったんだ」と述べている。これは2017年、マスクが火星植民地化計画について語る中での発言だ。
ジョン・D・クラーク著『Ignition: An Informal History of Liquid Rocket Propellants』
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ロケットという複雑なテーマを学習・習得するうえで決定的に重要な役割を果たしたのが『Ignition』だった、とマスクは述べている。
著者のジョン・D・クラークは、1960~1970年代にロケット燃料開発の分野で活躍したアメリカ人化学者だ。本書は、ロケット燃料開発分野の発展の軌跡を描くとともに、科学とはどういうものかを解説している。
マスクは本書の教えを心に銘じながら、スペースXのロケット「ファルコン・ヘビー」の開発に取り組んだ。スペースXがロケット発射用燃料の燃焼に使ったのは、低温冷却RP-1というジェット機に使われるケロシン系燃料と液体酸素だった。
本書は入手困難だが、オンラインではここから入手できる。
ニック・ボストロム著『Superintelligence: Paths, Dangers, Strategies』
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マスクはたびたび、抑制のないAIの危険性について警告を発している。
2014年には「AIに細心の注意を払わなければいけない」とツイートしており、「ことによっては核兵器より危ない」と付け加えている。
また、「このコンピュータを信頼しますか?(Do You Trust This Computer?)」と題するドキュメンタリーの中で、AIは「私たちがそこから決して逃れられないような、不死身の独裁者となる可能性」があり、「我々は明らかに、いかなる人間をも凌ぐ超知性に向かって急速に進んでいる」とマスクは述べている。
こうしたリスクがいかに恐ろしいかを理解するうえで、ニック・ボストロムの『Superintelligence(超知性)』は一読の価値がある、とマスクは言う。本書は、コンピュータによる知性が人間の知性を超えると何が起きるかについて、大胆な考察を行っている。
ジェームス・バラットバラット著『人工知能——人類最悪にして最後の発明』
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AIの危険性について、さらに強い警告を発しているのが『人口知能』だ。マスクは2014年のツイートの中で、同書を「読む価値がある」と評している。
著者のバラットは本書でAIの未来を詳細に考察し、そのメリットとデメリットを比べている。
バラットは自身のウェブサイト上で、同書は、少なくとも一部は「グーグルやアップルやIBM、そしてアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)が決して語らないような、AIの破滅的なマイナス面について書いたものだ」と記している。
バラットの見方にはマスクも賛同しており、AIに関するドキュメンタリーの中で次のように語っている。
「AIが人類を破壊するためには、悪魔になる必要すらない。もしAIに目的があり、たまたま人類がその目的を果たすために邪魔だとしたら、当然人類を破壊するでしょう。それについて何ら考えることも、悪感情を抱くこともなくね」
アイザック・アシモフ著『ファウンデーション』シリーズ
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アイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズは、『指輪物語』と並んで少年時代のマスクをSFとファンタジーの世界へと駆り立てた作品だ。
『ファウンデーション』シリーズは、人類が入植した数百万の銀河系惑星から構成される「銀河帝国」が舞台。この物語がマスクのキャリアに大きな影響を与えたようだ。
マスクは2013年、『ザ・ガーディアン』のインタビューの中で次のように語っている。
「歴史の教訓は、文明が循環的に変化すること示しています。大昔まで遡れば、バビロニア、シュメール、その後のエジプト、ローマ、中国然りです。
私たちの文明は今、上昇局面にあります。それが続いてほしいところですが、続かないかもしれません。テクノロジーのレベルを低下させる出来事が連続して起こるかもしれません。
45億年間で初めて、人類が永遠に生存できる可能性が生まれた今、そのチャンスがあるうちに行動することが賢明でしょう。そのチャンスが長く続くことを当てにするのではなくね」
ロバート・A・ハインライン著『月は無慈悲な夜の女王』
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本書は、1966年に出版されヒューゴー賞も受賞したSF小説で、近未来の暗黒世界を描いている。マスクのような読者の豊かな想像力を満足させる、空想の世界が生き生きと描かれた作品だ。
本書では、地球から追放された人々が月に自由主義社会を建設する。2076年、マイクと名付けられたスーパーコンピュータや片腕のコンピュータ技師などから成る反体制グループが月植民地による革命を主導し、地球の支配者に対抗するという物語だ。
マスクは、マサチューセッツ工科大学(MIT)で開催されたシンポジウムで、本書をハインラインの最高作と評している。
マックス・テグマーク著『Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence』
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そろそろ本稿で取り上げている本に共通するテーマに気づき始めた読者もいるだろう。そう、マスクはまさにAIの未来を探求している。
『Life 3.0』の著者マックス・テグマークはMITの教授でもある。彼は本書の中で、AIが人間にとって有益なものであり続け、テクノロジーの進歩を人間の未来の目的に合致させ続けるにはどうしたらよいかを論じている。
本書は、マスクが推薦する書籍の中で、AIが悪ではなく善の力となる可能性を描いた数少ない1冊だ。
エリック・M・コンウェイ、ナオミ・オレスケス共著『世界を騙しつづける科学者たち』
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最近ドキュメンタリーにもなった『世界を騙しつづける科学者たち』は、2人の科学史研究者が著したものだ。
本書は、政治や産業界とのつながりを持つ科学者が、喫煙、殺虫剤の使用、オゾンホールなど公衆衛生を脅かす事実を隠蔽してきたことを問題として取り上げている。
マスクは、2013年に開かれたある会議で本書を推薦し、その後のツイートでも本書のポイントを紹介。喫煙が癌の原因となることを否定したのと同じ勢力が気候変動の危険性を否定している、と語っている。
ウォルター・アイザックソン著『アインシュタイン——その生涯と宇宙』
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マスクはウォルター・アイザックソンが書く伝記の大ファンだ。
2012年のインタビューの中で、マスクはウォルター・アイザックソンによるアインシュタインの伝記を推薦している。アインシュタインは、科学と人間の歴史に大きな足跡を残した人物だ。
アインシュタインの私信をもとに書かれた本書は、彼がいかにして不遇の特許局員からノーベル賞受賞者になったかを描いている。マスクも本書に触発されたに違いない。
ドナルド・L・バーレット、ジェームス・B・スティール共著『Howard Hughes: His Life and Madness』
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マスクは、財を成した実業家でアメリカ人飛行家でもあるハワード・ヒューズの長年のファンだ。
マスクはCNNのインタビューの中で、伝記『Howard Hughes(ハワード・ヒューズ)』を読み終えたばかりだと語っている。
ヒューズは、エキセントリックな映画製作者であり、航空王でもある。晩年には精神に異常を来したこともよく知られている。「私は絶対、爪を長く伸ばすとか、瓶に排尿するといったことがないようにしたい」とマスクは語っている。
ともあれ、複数の業界で事業を行い、飛行速度記録を樹立し、飛行の境界線を押し広げたヒューズにマスクが魅力を感じるのは頷ける。
※この記事は2020年7月9日初出です。