1982年生まれ。東大法科大学院卒業後、総務省に入省。入省後に司法試験に合格。熊本県庁出向後、総務省で人事採用などを担当。2010年によんなな会を発足。2013年から神奈川県庁に出向。
撮影:竹井俊晴
6月。再びオンラインでの追加取材を申し込んだとき、脇雅昭(38)は、夜も深い時間だったがまだ神奈川県庁にいた。なかなか家に帰る暇もないという。
脇は、「まだ、渦中にいるので、頭の整理ができていないのですが……」と前置きして、この数カ月の変化を語ってくれた。
神奈川県では、8月31日までの県主催のあらゆるイベントを中止したという。コロナ感染予防対策の側面もあるが、それ以上に、コロナ対策に人員を割いて注力するという決意の現れである。
「役人人生の中で、これだけ大きな危機は初めて。これまで開かなかった扉が、『人の命には引き換えられない』という価値観の変化で、次々と開いた」
と脇は言う。
実務だけでなく精神的にも支えに
オンライン市役所のHPより
通常、何か月もかかる関係各所との調整を半日、場合によっては数時間で行う。日々変化する状況に合わせ、医療体制、税金の配分、経済維持……と新しいルールを作っていく。前例のない中、爆速対応が求められる時期に、よんなな会のつながりは、実務だけではなく、精神面においても強い支えになったという。
誰もがオーバーワークを強いられるなか、週末の夜にZoomで200人のメンバーが集まり、地元のためにできることを話し合った。常時のつながりが、非常時に生きたことは1回目にも紹介した通りだ。
「今こそ、公務員が動かなくてはいけない」
その緊張感と使命を共有しながら支え合えたことも、よんなな会の価値となった。仲間たちの多くが「今ほど、仕事にやりがいを感じられる瞬間はない」と言っていた。
脇自身は、このコロナ下で感じた、
「公務員だからこそできること」「公務員にしかできないこと」
は、本来の業務の中にもあったはずだと考えた。
「地元の人たちのために、自分たちに何ができるか」
それを極限まで考えること。それは公務員の役割が変わったわけではなく、公務員がどうあるべきかの本質が剥き出しになっただけなのではないかと、脇は言う。
撮影:竹井俊晴
これまでのよんなな会は、公務員同士のセーフティネットのような役割を果たしてきた。
自分の志が見えなくなりそうな時、「こんなに頑張っている公務員がたくさんいるんだ。自分も明日からもうちょっと頑張ってみようかな」と思える場づくりを、目指してきた。
一人でも多くの人が、一歩でも半歩でも踏み出すきっかけの場になれば……そう考えてきた。
このコロナ危機を乗り越えた後は、公務員の役割はどう変わっていくのだろう。
コロナ下で感じた「公共であるからこそ生み出すことができる価値」や「公務員という仕事に対する意識」を、どう定着させていくか。
走りながら考える脇の目は、すでに未来を見据えている。
(敬称略、明日に続く)
(文・佐藤友美、写真・竹井俊晴)
佐藤友美: 書籍ライター。コラムニスト。年間10冊ほど担当する書籍ライターとして活動。ビジネス書から実用書、自己啓発書からノンフィクションまで、幅広いジャンルの著者の著書の執筆を行う。また、書評・ライフスタイル分野のコラムも多数執筆。 自著に『女の運命は髪で変わる』のほか、ビジネスノンフィクション『道を継ぐ』など。