制度を変え、産業を変え、社会を変える。ドリームインキュベータがソーシャル・インパクト・ボンドで目指すもの

ドリームインキュベータの三宅孝之氏

「社会を変える 事業を創る。」をミッションに、企業の変革や事業創造に取り組むドリームインキュベータ(以下、DI)。戦略コンサルティングのイメージが強いが、ベンチャー投資や海外事業、新規事業の創造でも豊富なノウハウがある。

同社の成長を支えてきた一つの柱が、社会課題の解決をする事業創造のビジネスだ。近年、事業で社会課題を解決する社会起業家が注目されているが、DIの社会課題への挑戦は約14年前から続く。なぜ、DIは社会課題に取り組むのか。そしてこれから始まる「ニューノーマル」の時代に何を目指すのか。代表取締役COO(ビジネスプロデュース代表)の三宅孝之氏に話を聞いた。

自治体にも民間にもメリットがある仕組み

ドリームインキュベータの三宅孝之氏

DIは介護問題に取り組んでいる。

といっても、介護事業者として介護サービスを提供しているわけではない。ソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB)を活用して、膨らみ続ける介護費の問題に取り組んでいるのだ。

SIBは、民間の事業者が民間ファンドから調達した資金をもとに、行政から委託された行政サービスを行い、成果が達成されたら民間ファンドが行政から成果報酬を受け取る官民連携の仕組みのこと。2010年にイギリスで始まり、その後世界各地で導入され、主に公費削減の目的で利用されている。

SIBが介護問題にどのように役立つのか。今回のスキームを手掛けている三宅孝之氏が経緯を明かす。

「5年前から、医療費・介護費の問題で政府や大学などと一緒に勉強会をしていましたが、そこで分かったのは、病気の予防を進めてもその後、別の病気にかかって結局は医療費の抑制にはなかなかつながらないこと。一方、介護費のほうはシニアが趣味やスポーツなど社会参画をすることで、生涯で15~40%の抑制になるんです。

となると問題は、シニアの社会参画をどうやって促すか。“楽しくすること”については行政より民間の方が得意というところまでは良いのですが、だからといってコンサル提案だけでは企業は動けない。いっそのことDIはそこに投資し、実現をプロデュースする立場に立ちつつ、その成果をもってビジネスにできないだろうかと考えました」

しかも、介護費抑制の成果を数カ月から1年という短期で評価することは難しい。だからといって、中長期の評価で報酬を受け取るのが5年後となると、回収までに時間がかかりすぎて民間事業者はやっていけない。

「そこでSIBを活用することにしました。民間ファンドを組成して資金面のリスクをDIが引き受ければ、自治体にも民間企業にもメリットがあるし、ファンドに資金を提供する金融機関もリターンを狙いつつ社会貢献ができます」(三宅氏)

『官僚たちの夏』に憧れて入省したけれど

証券取引所の写真

gettyimages

それにしても、なぜDIは社会課題に取り組んでいるのか。

話は2006年のライブドアショックにさかのぼる。DIは「未来のソニーやホンダを100社創る」という理念を掲げて2000年に設立。ベンチャー企業に投資をしてIPOを目指すインキュベーション事業と、大手企業を中心とした戦略コンサルティング事業の二つを柱に成長を続けてきた。だが、ライブドアショックで東京証券取引所マザーズの上場審査が極端に厳しくなり、インキュベーション事業に急ブレーキがかかった。代わりにどのような事業を展開すべきか。元経産官僚でDIに転職していた三宅が提案したのが、社会課題の解決を事業にすることだった。

当時から社会課題の解決をビジネスで解決する動きはあった。ただ、それはNPOや社会起業家による草の根的なものが中心。三宅氏が描いていたのは、国を巻き込んだ、より大きな仕掛けだ。

「経産省にいたときの経験が大きかったですね。現状の枠組みで補助金を出すより、ルールや制度を変えた方が社会に大きなインパクトを与えられ、ビジネスとしても大きなものになることは分かっていました」

解決すべき社会課題として目をつけたのは、産業そのものを創っていく取り組みだ。これも経産省時代の経験が背景にあることは言うまでもない。

「私は学生時代に城山三郎の『官僚たちの夏』を読み、産業政策で世の中を良くする通産官僚の姿に憧れて経産省に入省しました。ところが当時は時代の転換点。『産業政策より規制緩和』という声が大きく、新しい産業を育成するために私は外に出ました。規制緩和だけで政策を構築するのは、日本の産業競争力にとってマイナスだという問題意識があったのです」

三宅氏が最初にプロデュースしたのはスマートコミュニティ。経産省に提案を重ねて、総額予算1500億円規模、5年がかりのプロジェクトを動かした。ほぼ同時にLED照明の産業プロデュースも手掛けた。LED照明は今でこそ広く普及しているが、当時は価格が高く、市場規模は約80億円と小さかった。そこで中国からの粗悪品を排除するために品質基準を定めたり、地方公共団体の物品調達の選択肢にLED照明を追加したりするなど、5本の法令改正を後押し。現在、LED照明は国内だけで5,000億円を超える市場へと成長している。

事業化ステップ別の政策ツール

2009年当時、DIが描いた市場創造のための政策ツールの全体像。R&Dの支援から生産、販売、海外輸出まで、さまざまな政策ツールを一覧にまとめ、これらを一体的に活用していくことの重要性を経産省に伝えた。

提供:ドリームインキュベータ

ビジネス側とのリンケージ

「スマートコミュニティ」にはどのようなモジュールやプレイヤーが存在しているのかを2009年時点でまとめた図。プレイヤー候補は伏せられているが、バラバラだった技術要素を有機的にとりまとめた構想を描いて行政や大企業を巻き込んでいった。

提供:ドリームインキュベータ

LED照明の市場創造

日本で見捨てられかけていたLEDの技術に着目し、日本に普及させたのもDIの仕事。

提供:ドリームインキュベータ

設立20年、経営体制を刷新

ドリームインキュベータの三宅孝之氏

広い視野で大きな絵を描く構想力は、戦略コンサルティングファームであるDIの魅力の一つだ。ただ、理想の未来は絵を描くだけでは実現しない。

「絵だけを政府に提案しても、結局は『誰がやるのか』という話になる。スマートコミュニティやLEDのときも数多くの企業を回って主体となるプレイヤーを巻き込んでいきました」(三宅氏)

三宅氏がこう話すように、地道に地上戦を展開できるのも同社の強みだ。DIはその後も社会課題を軸にしたビジネスプロデュースを続けている。中でも今、力を入れているのが冒頭に紹介したSIBスキームによる社会課題解決だ。医療・介護の他にも、橋梁などのインフラのメンテナンスや、子どもの教育、リサイクルといった問題にも、SIBを活用することが可能。自治体の関心は高く、DIは2020年2月に豊田市、5月に前橋市と提携して、SIB導入に向けた検討を開始している。

さらに注目したいのは、同年6月に発表された日本政策投資銀行との包括連携協定だ。DIは日本政策投資銀行とともにSIBスキームの適用検討、自治体・政府との連携、具体案件への投資を進めていく予定だ。

「いくつかのファイナンススキームを検討し、将来的には1000億円の投資規模にすることを目指しています。金融機関は融資先がなくて困っているし、大企業はSDGsに関心が強くてESG投資に積極的です。例えば、そうした金融機関や企業にLP(リミテッド・パートナー)として投資してもらえれば、日本が抱える課題は解決に向けて前進するはずです」(三宅氏)

これはDIとしても大きなチャレンジになる。設立20年となる2020年、DIは6月に経営体制が刷新され、3人の共同代表体制になった。代表取締役COOという立場から、三宅氏はSIBにかける思いを次のように語ってくれた。

「もともと戦略コンサルティングというのは、お客様がいて初めて成り立つビジネスです。しかし、本当にビジネスをプロデュースをするなら、スキームを描いてお客様に任せるだけではなく、私たちも自立をしてやるべきことをやる必要があると思っています。そのためのキーワードが、Business Produce on Asset(ビジネスプロデュース・オン・アセット) —— 資本を活用しつつ、投資やコンサルなどでレバレッジをかけながらビジネスを作ることです。

SIBは、その一つのスキームに過ぎず、他にもさまざまなスキームを用意していこうとしています。これまでにない仕掛けをうまく活用しながら、今まで日本ができなかったことを仕掛けていきたいですね」


ドリームインキュベータについて、詳しくはこちら。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み