アマゾンはSlackあるいはZoomの買収を検討していると、アナリストの間でささやかれてきた。
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- クラウドビジネスで最大シェアを誇るアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が、スラック(Slack)との大型提携を発表した。
- 以前から、知名度の低いオンライン会議アプリ「チャイム(Chime)」を展開するアマゾンが、同アプリの代わりにスラックかズーム(Zoom)を買収するのではないかとの指摘が、複数のアナリストから出ていた。
- クラウド市場に詳しいアナリストによると、今回の提携により、アマゾンはスラックの内情をのぞき、買収にふさわしい相手かどうか見きわめるチャンスを得たことになる。
クラウドビジネスに詳しいアナリストのダニエル・ニューマン(フューチュラム・リサーチ)によると、アマゾンとスラックの提携は、アマゾンにとってスラックの内情を知り、買収先としてふさわしいか見きわめる「テストの場」になるという。
AWSとスラックは6月4日に戦略的提携を発表し、スラックがクラウドインフラとしてAWSを利用する一方、アマゾンは全社でスラックをオプション導入することを明らかにした。スラックがAWSを「推奨するクラウドプロバイダー」と明言するのは初めてのことだ。
提携以前から、アナリストの間では、アマゾンが自社製のパッとしないチャットアプリ「チャイム」を見限ってスラックかズームを買収し、リモートワーク需要が増大するなかで顧客獲得に乗り出すとの見方が出ていた。
「スラックの内部事情をより詳しく知る絶好の機会だ。アマゾンのチャイムは浸透していない。スラックは人気のアプリだが、ズームとはまったく方向性が違う。一方、マイクロソフトにはチームズ(Teams)があるし、グーグルも完璧なビデオ会議ツールを持っていて、そのあたりに食い込むのは苦しい。そうした状況を踏まえれば、スラックにAWSというのは可能性を感じる組み合わせだ」(ダニエル・ニューマン)
スラック(Slack)のスチュアート・バターフィールド最高経営責任者(CEO)。
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アマゾンはクラウドビジネスのインフラ部門に限れば圧倒的な勝者といっていい。しかし、クラウドベースのソフトウェアについては、マイクロソフトとグーグルに劣後するというのが大方の見方だ。
そして、ソフトウェアこそがクラウド戦争の本丸だ。米国防総省のクラウド契約「防衛基盤統合事業(JEDI)」の入札で、マイクロソフトがAWSに打ち勝って100億ドル(約1兆1000億円)を手にできたのは、オフィスアプリケーションの力が大きかったと見る専門家もいる。
マイクロソフトは2019決算年度、買収費用に90億ドル(約9900億円)を投じている。また、グーグルクラウドもAWSとマイクロソフトに追いつこうと積極的に投資先を探している。
両社ともここ数年すでに大きな買い物をしており、グーグルは2020年にデータ分析のルッカー(Looker)を26億ドル(約2860億円)で、マイクロソフトは2018年にソフトウェア開発プラットフォームのギットハブ(GitHub)を75億ドル(約8250億円)で、それぞれ傘下に入れている。
一方のアマゾンのクラウド関連投資は、2015年にイスラエルのアンナプルナ・ラボを3億7000万ドル(約407億円)で買収して以来、大きな動きがない。
「AWSは非常にオーガニックな成長(=既存の経営資源を活かした自律的な成長)を続けてきたが、他の競合に遅れをとってきた領域、つまりクラウドソフトウェアに、いまようやく手を広げようとしている。
その意味で、AWSが買収対象としてスラックを選ぶのはまったく理にかなっている。来るべき日のために準備は進んでいる」(ダニエル・ニューマン)
(翻訳・編集:川村力)