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「音楽を愛する人たちが活動再開していくために」ヤマハ、音楽関係協会、感染症専門家らが音楽活動のニューノーマルを探るチームを結成

オーケストラ

オーケストラのコンサートは、舞台も聴衆も一見「密」だ。

Martin Good/Shutterstock.com

新型コロナウイルスの影響で窮地に追いやられている音楽活動を前に進めるためのプロジェクトが始まった。

6月9日、日本管打・吹奏楽学会は、日本クラシック音楽事業協会とともに「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」を立ち上げた。6月22日には、ヤマハミュージックジャパンや感染症専門医などをはじめとした複数の専門家らとともに、感染リスクを抑えながら安心して音楽活動を再開するためのプロジェクトチームの結成を発表した。

同プロジェクトチームでは、

「演奏会中、バックステージ(楽屋など)、練習活動、客席、開演前・休憩時間中・終演後のロ ビー、会場のお手洗いなどにおける感染リスクを洗い出し、専門家の指導下で感染リスクを低減する方法を考えます」(同プロジェクト・リリース参照

として、厳密な実験をもとに感染リスクを評価し、音楽性の追求・興行の成立とのバランスを考えた提言の策定を目指すとしている。

コロナ禍における「音楽活動のニューノーマル」を探る試みだ。

「音楽活動はリスクが高いのか?」を検証

吹奏楽

日本では、中高で吹奏楽部や合唱部に入部してから、大人になるまで音楽を続ける人も多い。

Panumas Yanuthai/Shutterstock.com

新型コロナウイルスは、一般的に飛沫などを介して感染するとされている。

そのため、深く呼吸することが避けられない楽器演奏や歌などの音楽活動は、一見するとリスクの高い活動のようにも見える。

ただし、少なくとも日本では、クラシック音楽や吹奏楽のコンサートなどにともなうクラスターの発生事例はこれまで報告されておらず、どの程度の音楽活動で感染のリスクが高まるのかも、正直なところよく分かっていないのが現状だ。

同プロジェクトでは、まず次の2点について、検証を行なう予定としている。

「クラシック音楽の演奏を聴く人の周囲で、前後左右隣接する席の位置と、前後左右1席離れた席の位置で、飛沫等の測定量に差はあるか?」

「楽器(各種)演奏者の周囲で、従来の距離で前後左右に隣接する奏者の位置と、ソーシャル・ディスタンスをとった奏者の位置で、飛沫等の測定量に差はあるか?」


実験イメージ

プロジェクトが最初に取り組む課題。聴衆間や演奏者間でのソーシャル・ディスタンスには、新型コロナの感染を防ぐ効果はあるのだろうか。

#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト


日本をはじめ、現状大きな流行が一段落している一部の国々では聴衆や演奏者の間に十分なソーシャル・ディスタンスを取りながら音楽活動を再開する動きが進んでいるという。

ただ、演奏会の座席数を制限してしまうと、その分チケットの売上が減少することは避けられない。プロフェッショナル・オーケストラ(以下、プロオケ)の中には、新型コロナウイルスの流行に伴い、演奏会のキャンセルが続発し、経済的に立ち行かなくなりつつある楽団も少なくない。一部のオーケストラでは、実際に大々的に寄付金を募っている状況もある。

少なくとも、新型コロナウイルスの感染の広がりが年単位で継続することが予想される現状では、多くのプロオケの継続性という観点から考えても、一定のソーシャルディスタンスを保った状態での演奏会の開催を続けることは現実的とはいえない。

また、奏者間のソーシャル・ディスタンスについても、音楽性という意味で大きな問題がある

奏者は、演奏中に他の奏者と意思疎通を取りながらアンサンブルを行うため、ソーシャル・ディスタンスの導入によって演奏時の距離感が大きく変わってしまうと、オーケストラの響き自体が崩れてしまうことが懸念されているからだ。

これでは、仮に音楽活動が再開されたとしても、私たちの求める音楽活動が再開されたとは言い難い。

同プロジェクトでは、コンサート中には基本的に会話は発生しないことや、マスクを着用しながらの鑑賞も可能であること。さらに、日本のクラシック音楽専用ホールには十分に換気できる能力があることから、クラシック音楽鑑賞中にソーシャル・ディスタンスを維持することの効果について疑問を示しているという(ただし、休憩時間中の談笑などは、感染リスクとなりうる)。

また、

「これまでの飛沫等の飛散を視覚化した実験結果からは、奏者間のソーシャル・ディスタンスを縮められる可能性も示唆されています。また、特に管楽器においては、遮蔽物を利用することで飛沫等の飛散を抑制できる可能性があり、それによっても奏者間のソーシャル・ディスタンスを縮められる可能性があります」(同プロジェクト)

と指摘するなど、今回の検証によって、音楽を聴く側についても演奏する側についても、リスクを大きく上げない範囲でどこまで元の状態に近づけられるのか、判断材料を得ることが期待される。

リスクを正しく認識し、音楽文化を衰退させないためには

バイオリン

Stokkete/Shutterstock.com

新型コロナウイルスは、いまだ未知の部分が多いウイルス。

だからこそ、感染のリスクを最大限抑えながら、通常時に近い形での音楽活動をどこまで再開できるのか検討するために、今回のような検証は必須といえる。

仮に従来の距離とソーシャル・ディスタンスをとった場合と感染リスクに差がなければ、演奏会の形式を元に戻せる可能性が出てくるだろうし、差がある場合でもその程度に応じて対策を考えることが可能となる(当然、一つの実験結果だけから、感染リスクを正確に把握することはできない点にも注意したい)。

日本では、プロオケはもちろんのこと、アマチュアの吹奏楽団や合唱団、中学・高校の吹奏楽部、合唱部をはじめ、音楽ファンは多い。とりわけ、活動期間が限られている学生のうちの濃厚な音楽活動の経験は、それ以降も音楽を続ける大きなきっかけとなる。

新型コロナウイルスの流行による音楽活動の制限は、このような草の根的に音楽文化が定着する機会を奪いかねない。

感染リスクを可能な範囲で抑えながら音楽活動を再開しなければ、日本の音楽文化が衰退してしまうことは免れないだろう。

同プロジェクトは、

「2020年8月初旬までには必要な実験を終え、最終的には、プロフェッショナル・オーケストラや吹奏楽団はもちろん、アマチュアや学校の吹奏楽部など、日本中の音楽を愛する人たちが活動再開していくために必要な提言策定を行います」

としている。

文・三ツ村崇志

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