アップルの「脱インテル版Mac年内発売」がもたらす衝撃…新macOSは19年ぶりにバージョン11へ

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2時間近くにおよぶ基調講演の最後の20分の冒頭、アップルCEOのティム・クック氏はこう切り出した。

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アップルは独自開発の半導体(Appleシリコンと呼称)で動くmacOSを開発、今後2年の移行期間を経て、脱インテルを進めていく具体的な計画を明らかにした。

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出典:アップル

6月23日午前2時、アップルは初の完全オンライン開催となる開発者向けイベント「WWDC2020」の基調講演を配信した。iOSからiPadOS、watchOS、tvOS、macOSにいたるまで、あらゆる製品のOSソフトウェアについてのアップデートを披露したが、最も興味深いものになったのは最後の20分。ここに、アップルの今後数年の戦略が込められていたと断言できる。

2020年秋に登場する最新のmacOS“Big Sur”は、その最初の一歩になるOSだ。

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出典:アップル

独自設計の半導体「Appleシリコン」と聞くと、何かまったく新しい大仰なものに聞こえるが、実はそうではない。

実際のところアップルは、既に何世代にもわたるiPhoneやiPadに搭載した独自設計の半導体を通じて、全世界に「アップル製のCPU(SoC)」を行き渡らせている。日本のスマートフォンにおけるアップルのシェアは約50%程度だから、ある意味で日本のスマホユーザーの半分の人が、何らかの形ですでにAppleシリコンを手にしていることになる。

今回のmacOSのAppleシリコン対応は、この延長線上にあるものだ。

インテルから独自Appleシリコンへ移行の要

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開発キットの概要。

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基調講演では「Mac用のSoCを開発する」と明言したが、実は基調講演のデモンストレーションの中でも、ひとしれず、Appleシリコン上で動く新macOS“Big Sur”は動作していた。

アップルのソフトウェアエンジニアリング担当の上級副社長、クレイグ・フェデリギ氏が明かしたところによると、基調講演で披露したmacOS“Big Sur”のデモは「Apple A12Z Bionic」を搭載した開発機で実際に動いていたものだった。

そして非常に細かいことだが、Big SurのOSバージョン表記は、「バージョン10.16(現行OSの次)」ではなく「バージョン11.0」。macOSがOSXに移行した2001年3月以来、はじめての10から11に数字を刻む。このことだけでも、アップルの並々ならぬ意気込みが感じられる。

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デモのなかで実際、A12Z搭載の開発キットで新macOS Big Surが動作していることをみせた。

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さて、Macの脱インテル を考える上で、この「A12Z Bionic」で動作できていたというのはポイントの1つだ。これは現行機種のiPad Proに搭載されているチップと、少なくとも名称はまったく同じだ(フェリギ氏も同じだと言及している)。

デモからは、搭載メモリーが16GBとiPad Proの6GBに比べて大幅に多いことも見て取れるが、メモリー以外は特別にパワフルにカスタムしたAppleシリコンでないのだとすれば、少なくともmacOSの日常レベルの操作は、iPad Proの性能でも十分に動くということになる。

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Macの脱インテル を進めるにあたって最大の問題はアプリの「非インテル化の移行」だ。そのための方法としてアップルは3つの対策を用意していた。

1つは「Universal 2」と呼ばれるフレームワーク。1つのプログラムで、インテルベースのMacでも、AppleシリコンベースのMacでもアプリをネイティブ動作できるようにするものだ。

フェデリギ氏の基調講演での説明では、すでにアドビ(Creative Cloud)やマイクロソフト(Office for Mac)が、Universal 2対応のアプリ開発に取り組んでいる。

デモでは、限定的な操作ではあるが、A12Z上のmacOSで動作するエクセルやフォトショップを使ってみせた。

もう1つ用意したのが、「Rosetta 2(ロゼッタ2)」と呼ばれる、プログラムのコード変換の仕組みだ。これはUniversal 2対応が間に合っていない…もっと言えばおそらくはすぐにアップデートはされない古いアプリを動かすために、用意したものだ。

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アップルは2006年にPowerPCベースのCPUから、インテルベースのCPUに移行する際に「Rosetta」を使って“古いPowerPCアプリもインテルMacで動く”という仕組みをつくった。今度は、それと同じ名前の仕組みを使って「脱インテルする」ということになる。

フェデリギ氏によると、アプリをインストールする際に変換をかけてインストールすることによって、起動も素早くなるという(アプリ実行中のコード変換もできる)。

最後の1つは仮想化技術で、Linuxなどを動かすものだという。

さらにアプリのエコシステムの点で大きいのは、AppleシリコンベースのMacでは、iOSやiPadOSのアプリが「直接」動作するということだ。アップルが注意深く「完全互換」というような言葉を使っていない点は注視する必要があるが、少なくともCPUのアーキテクチャがまったく異なるインテルベースのMacでiPadのアプリを動かすよりは、開発者側のハードルは低いものになる可能性がある。

最後に、現時点で判明しているAppleシリコンベースのMacのロードマップを箇条書きでまとめておく。

開発者向けのDTK(Developer Transition Kit)はAppleシリコン仕様の開発版Mac Mini

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SoCはiPad Proと同じA12Z、メモリーは16GB、SSD512GB。OSは開発者向けmacOS Big Sur

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ソフトウェアエンジニアリング担当の上級副社長、クレイグ・フェデリギ氏。

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開発者向けの申込みとDTKの配送は今週から開始

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最初のAppleシリコン版新型Macの発売(出荷)は「年末」

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その後、インテル版からAppleシリコン版Macへの移行期間は2年

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インテル版MacのサポートとOSのアップデートは継続

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とはいえ、今後インテル版Macの新製品も発売予定

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アップルはAppleシリコンへの移行に自信

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(文・伊藤有

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