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コロナ禍で多くの人がこれまでのような働き方ができなくなった。
「新しい生活様式」は、「新しい仕事様式」をもたらし、リモートワークやオンライン会議に慣れる一方で、思うように働けていないという、不満の声も。
「仕事のフィードバックが得づらくなった」「雑談しながら自分のアイディアを形にしたいのに今の環境では難しい」はあちこちから聞こえてくる。
実際、自宅で一人、仕事をしていると、「自分だけが遅れをとっているのでは」「職場のメンバーは自分をどう見ているのか」など、焦りを感じてしまうこともあるだろう。
そんな今だからこそ、あえて「周囲の目をやたら気にせず、自分らしく働く」ための、8つの要素を使った処方箋をご紹介したい。
意外と人によって違う自分らしく働く
まず、「自分らしく働いている」状態とはどのような状態なのか、「あなたが生き生き働いている時はどんな時ですか?」と、筆者が在籍するリクルートワークス研究所では、1600人の働く個人に自由記述で尋ねてみた (「生き生きと働くことについての調査」)。
Q.あなたが生き生き働いている時はどんな時ですか?
筆者作成
この表を見ていると、一人ひとりの「生き生き働く状態」がいかに多様なのかがよく分かる。
「アイディアを次々と生み出す」といった発想力を大切にしている人もいれば、「通常通り」「無理なくほどよく」ということが、自分らしく働く上で大切なことだ…と考えている人もいる。
「決めたスケジュールを確実にこなす」「人から期待されている」などの、日常的な活動や周囲との関係の中にも、「自分らしく働く」ことを実感するたくさんの要素があるようだ。
自分が置かれている環境の中で自分らしく働くためには、自分自身の「生き生きと働く」要素に目を向ける必要がある。それを具体的な言葉にできるのは、まさに自分だけだからだ。
「自分らしく働く」を知る8つの眼鏡
さらに、研究の結果からは、個人の「生き生き働く」は8つの要素の組み合わせで構成されることが分かっている。その中身を詳しく見ていこう。
活力実感
- 仕事は、私に活力を与えてくれる
- 職場では、元気が出て精力的になるように感じる
強みの認知
- 私には仕事に活かせる人にはない経験があると思う
- 私には仕事に活かせる強みがあると思う
職務満足
- 仕事上の責任(に満足している)
- 仕事内容(に満足している)
有意味感
- 私の仕事は、私自身をより理解するのに役立っている
- 私の仕事は世の中を理解するのに役立っている
オーナーシップ
- 仕事の進め方などについて、自己管理ができている
- 仕事の進め方が効率的である
居場所感
- 上司、または職場の誰かが、私を気にかけている
- 私は大切にされている
持ち味の発揮
- 今の仕事では、自分の強みが活かせていると思う
- 自分のやりたいことと今の仕事はマッチしていると思う
多忙感
- 常に忙しく、一度に多くの仕事に手を出している
- 一生懸命働くように自分を駆り立てている何かを、自分の中に感じることがある
職場での「居場所感」をもっとも大切だと考える人もいるし、それよりも自分の持ち味が発揮できている状態が大事だという人もいるだろう。
「多忙感」については、忙しいほど「生き生き働ける」人もいるし、忙しいと「生き生き働けない」と考える人もいる。
8つの要素で自分らしい働き方を可視化する
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8つの要素というのは、どれか一つを選択するというものではなく、8つの要素の強弱で「自分らしい働き方」が構成される。
私たち(リクルートワークス研究所)は、この「働き方のバランス」を把握するために、約1万人の人に対するアンケート調査(働きがいの実態調査2020)を行った。
以下は個人のデータである。2人のデータを比較しながら見てみよう。
Aさん(女性、38歳)は、医療従事者としてパート・アルバイトで働いている。Bさん(女性、56歳)は製造業で専門・技術職に就いている。どちらも専門職だ。
Aさん(女性、38歳)
Aさんは、「自分の能力を発揮できるとき」生き生き働いている実感が湧くと回答した。つまり自分らしく働いているのは、専門職としての「持ち味発揮」が満たされている状態だと解釈できる。
図1:Aさんが現在職場で満たされている要素
- 医療・福祉業界
- 医師・歯科医師・獣医師・薬剤師
- 週4日以下39時間以下勤務
- 直近1年間の状態は「生き生き働いていた」
- 生き生き働いていると感じるときは「自分の能力を発揮できるとき」
Bさん(女性、56歳)
一方のBさんはどうだろう。同じ専門職ではあるが、Bさんが生き生き働いていると感じるのは、「期待され、それに応えているとき」だという。
8要素にあてはめると「居場所感」を重視していることになるが、Bさんのレーダーチャートでは「居場所感」は全く満たされていない。Bさんが大事にする要素が満たされていないため、「全く生き生きしていない」と感じている。
図2:Bさんが現在職場で満たされている要素
- 製造業、専門・技術職
- 週5日40時間勤務
- 直近一年間の状態は「全く生き生き働いていなかった」
- 生き生き働いていると感じるときは「期待され、それに応えているとき」
事例からは、同じ専門職であったとしても、大切にしている要素がまったく異なることが明らかになっている。
またBさんに見られたように、8つの要素のうち、自分が大切にする要素が満たされていないと、「自分らしく働けていない」ということになる。
このように、
①「普段の自分はどのような時に生き生き働いていると思うのか」
②「8つの要素で考えてみて、大切にしている要素はどれか」
③「それは今満たされているか」
という順番で考えると、「自分が大切にしていること」と「現状」のギャップが明らかになり、自分らしく働くために欠けている要素が明らかになる。
「働くこと」のオーナーシップを持てるのは自分だけ
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不足が分かれば、次にどうすればそれを満たせるのかを、考えてみることだ。
自分らしく生き生き働けない理由は日常的にたくさんある。しかし、自分でその状況を変えていくこともできる。
例えば、先ほどみたBさんが職場での「期待」が欠けていると思うなら、「期待」が得られる場を職場に限らず探してはどうだろうか。
自分の目の前にある仕事について、自分ならではの意味づけを考えてみるのも1つの方法だ。「一般的な意味」ではなく、自分にとってのその仕事の意味を見出すことで、自分らしく働くためのバランスが整うことだろう。
「自分らしさ」が共有されている職場のメリット
個人が自分らしく働くためには、自分をとりまく周囲の環境も大切だ。
「やりがいを感じる仕事」について、同僚に自己開示すると、職場において自分自身の持ち味を発揮しやすくなるという分析結果もある(働く喜び調査、2019)。
手放せないものが「居場所感」なのか、「多忙感」なのか、「有意味感」なのか。それは自分にしか分からない。だからこそ、他者に対して表現する必要があると言える。
個人が大切にしたいと考えていることを組織の中で死守するのは、決して簡単なことではない。
しかし、生き生き働くことを実現しようと思うなら「私はこれだけは絶対に手放せない」という要素をまず決めること。そして、それを少しずつでも、周囲の人と共有してみてはどうだろうか。
辰巳哲子:リクルートワークス研究所主任研究員。働くことと学ぶことのつながりをテーマに、キャリア教育や大人の学びを中心とした調査・研究をおこなう。これまでに、「分断されたキャリア教育をつなぐ。」「社会リーダーの創造」「社会人の学習意欲を高める」「『「創造する』大人の学びモデル」「働く×生き生きを科学する」をリリース。博士(社会科学) 。