ランキング首位のエヌビディア(Nvidia)ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)。
Rick Wilking/Reuters
- 米調査会社ガイドハウス・インサイツは、自動運転制御用のコンピューター・ハードウェア開発を手がける10社をランクづけした。
- 各社の戦略とその遂行に関するさまざまな指標、例えば、生産戦略、製品のパフォーマンス、信頼性、品質などから評価した。
- 首位はエヌビディア(Nvidia)、第2位はクアルコムだった。
ランキングを第10位からみていこう。
【第10位】エーアイモーティブ(AImotive)
エーアイモーティブ(AImotive)のテスト車両。
AIMotive
総合:35.6
戦略:38.0
進捗:33.0
AImotive(エーアイモーティブ)は2015年に自動運転システム向けマシンビジョンの開発を開始。その後、自動運転シミュレーションプラットフォームの開発とシステムオンチップ(SoC)に組み込む「aiWare(エーアイウェア)」のIP設計も手がけるようになった。
aiWareは自動運転システムにおけるニューラルネットワーク処理専用のハードウェアアクセラレーターで、消費電力の問題を解決するソリューションとなるよう設計されている。
AImotive自身は半導体製造能力を有しない(IPデザインまでの)小さな会社だが、aiWareアクセラレーターが必要とされる性能を満たす限り、そのライセンス提供によるビジネスモデルは成功をおさめる可能性が高い。
性能はきわめて高く、4TOPS(毎秒4兆回)の演算処理をわずか1ワットの消費電力で実現可能。より多くのコアプロセッサを組み合わせることで、1秒間に16兆回(16TOPS)までスケールアップが可能だ。
【第9位】アップル(Apple)
レクサスSUVにアップルの自動運転システムを実装したテスト車両。
Andrej Sokolow/picture alliance via Getty Images
総合:57.2
戦略:45.7
進捗:66.8
アップルの自動運転に関する取り組みについては、詳細があまり知られていない。ただ、iPhoneなどモバイルデバイスをはじめとする他事業におけるチップ設計の足跡から推測することで、同社の取り組みについて重要なヒントを得られる。
SoC(iPadおよびiPhone向けのA4チップ)の内製化に乗り出した2013年以降、アップルは世界最高のチップ設計企業のひとつとしての名声を築き上げてきた。低消費電力と高パフォーマンスの絶妙な組み合わせを特徴とする「Aシリーズ」SoCは、数ある競合のなかでも存在感を放つ。
最新世代のAシリーズはA11 Bionic(バイオニック)とA12 Bionicで、モバイルデバイスの機械学習アプリケーション向けに最適化された専用のニューラルエンジンコアが組み込まれている。アップルによると、その演算処理能力は5TOPS(毎秒5兆回)におよぶ。
このニューラルエンジンを自動運転システム用にスケールアップした場合、パフォーマンスはエヌビディア(Nvidia)やインテルのチップと互角あるいは凌駕する可能性もある。
【第8位】ルネサス・エレクトロニクス(Renesas Electronics)
ルネサス・エレクトロニクス(Renesas Electronics)のウェハー製造現場。
Renesas Electronics
総合:60.3
戦略:57.3
進捗:63.3
近年、ルネサス・エレクトロニクスは消費電力の大きいエヌビディア製やインテル製SoCの代替として、同社製の「R-Car(アールカー)」シリーズを推している。
ルネサスと研究者たちはこのR-Carチップを使って自動運転システムのデモを行ったが、第一世代の自動運転車では主要な演算処理にこのチップは利用できない模様。
先進運転支援システム(ADAS)アプリケーションにおいて、このチップは大きな役割を果たす可能性があるものの、同時に自動運転車両のコンピューティング能力の刷新も必要となる。
トヨタは2020年にデビュー予定の(部分的)自動運転システム「ハイウェイ・チームメイト」に、このルネサスのR-Carチップを使っている。
ただし、トヨタは2020年中にグループ会社のデンソーとSoC開発の合弁会社を設立すると発表しており、ルネサスの技術や専門知識をそこで利用するかどうは未知数だ。
【第7位】NXPセミコンダクターズ(NXP Semiconductors)
NXPセミコンダクターズのチップ。
NXP Semiconductors
総合:70.0
戦略:66.3
進捗:73.6
NXPは自動運転システム向け半導体のサプライヤー世界最大手の一角。今日走っている自動車の電子制御ユニット(ECU)にはNXP製のマイクロコントローラーが多数採用されている。
2018年にクアルコムによる買収が失敗に終わったあと、NXPはカルレイ(KalRay)と提携。同社のメニーコアプロセッサー「MPPA」AIチップとNXPの自社チップ「S32V」を組み合わせ、自動運転開発コンピューティングプラットフォームに使用している。
最適化の進んだセンサー群やソフトウェアスタックを備えた第二世代、第三世代の自動運転車が市場投入されるにしたがって、NXPのシステムが市場シェアを拡大していくチャンスも生まれていくだろう。カルレイとの提携によりさらに処理能力の高いチップを生み出せれば、その可能性はさらに高まる。
その際、NXPが自動車セクターで築いてきた強力なカスタマーリレーションシップは、市場シェア拡大に大いに役立つことが期待される。
【第6位】テスラ(Tesla)
テスラの電気自動車「モデルY」。
Tesla
総合:70.6
戦略:78.3
進捗:62.0
2017年、テスラは半自動運転機能「オートパイロット」のコンピューティングプラットフォームを自社開発していることを公表。2019年4月には、投資家向け説明会で「フル・セルフ・ドライビング(FSD)」と呼ばれるシステムをお披露目した。
FSDは(それまで供給を受けていた)エヌビディアのプラットフォームから大幅な改善が行われた。特定用途向け集積回路(ASICs)チップを2つ搭載し、大幅にアップグレードされたイメージセンサーは、8つのカメラから最大で毎秒25億ピクセルのインプット処理が可能だ。
テスラによると、FSDはエヌビディアのチップ「エグゼビア(Xavier)」の演算処理能力30TOPS(毎秒30兆回)を大幅に上回る144TOPSの能力を誇る。
このパフォーマンスの改善によって、従来のエヌビディアベースのコンピューティングプラットフォームに比べ、毎秒のフレーム処理速度は21倍にも達しながら、消費電力量はわずかに25%の増加で済んだ。
ちなみに、従来のプラットフォームにはエヌビディアのSoC「パーカー(Parker)」2個とGPU「パスカル(Pascal)」1個が使われていた。
【第5位】ウェイモ(Waymo)
クライスラーの車両にウェイモ(Waymo)の自動運転システムを実装。
Andrej Sokolow/picture alliance via Getty Images
総合:71.9
戦略:75.0
進捗:68.8
グーグルの自動運転車プロジェクトがデビューしてから10年近くにわたって、(グーグルの兄弟会社である)ウェイモは自動運転技術開発のリーダーであり続けてきた。
ウェイモは長いこと既成品のセンサーとコンピューターハードウェアを採用してきたが、近年は社内で設計とコンポーネントの組み立てを行っている。
CPUはインテル製、GPUは不明。機械学習に特化した特定用途向け集積回路(ASICs)「テンソル・プロセッシング・ユニット(TPUs)」も採用している。
自動運転においては、高速なイメージ処理と高精細(HD)マップを使った位置特定が重要な構成要素。ウェイモのコンピューティングプラットフォームがTPUsを採用していることは、パフォーマンスの上で大きな後押しになるだろう。
【第4位】ザイリンクス(Xilinx)
ザイリンクス(Xilinx)のチップ。
Aly Song/Reuters
総合:78.3
戦略:74.5
進捗:82.0
ザイリンクスはFPGA(プログラムの書き換えが可能な集積回路)のリーディングプロバイダーで、自動運転向けの半導体製造を長く手がけてきた。
FPGAは一般的に従来型のCPUより高価だが、パフォーマンスとフレキシビリティのバランスの絶妙さは捨てがたい。自動運転はいまだに成長途上の技術で、ソフトウェアも急激な変化が続いており、FPGAはそれらのアプリケーションにまだ最適化できていない。
自動運転開発企業が半導体のベストな組み合わせを決定するのにはまだ長い時間がかかり、自動運転車の普及ボリュームも当面は足踏みが続くことから考えれば、ザイリンクスが製造するようなFPGAは、最終的には短命に終わるはずの特定用途向け集積回路(ASIC)に投資することなく必要なパフォーマンスを実現できるデバイスということになるだろう。
【第3位】クアルコムテクノロジーズ(Qualcomm Technologies)
「CES 2020」で展示されたクアルコムの自動運転コンピューティングシステム。
Qualcomm
総合:82.9
戦略:80.8
進捗:85.0
クアルコムのチップセットは自動車アプリケーション(通信やカーナビ、オーディオなどの車載インフォテインメントが多くを占める)に広く使われている。
国際テクノロジーカンファレンス「CES 2020」でクアルコムは、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転市場にターゲットをしぼった新世代のプロセッサーを発表している。
新たな「スナップドラゴン・ドライブ・パイロット・プラットフォーム」には、「ADASアプリケーション・プロセッサー」「オートノマス・ドライビング・アクセラレーター」という2つのチップが使われている。
前者はクアルコムの「Snapdragon 8155」をベースに、アーム(ARM)製のコアとGPU、機械学習用のニューラルエンジンコアを組み合わせたもの。後者は複数のニューラルエンジンコアから成る。
シングルチップ構成は、主要車種に搭載されて拡大成長を続けるADASの市場がターゲットで、デュアルチップ構成はレベル2/レベル3(一部のみ)の自動運転システムあるいは条件付き自動運転システムで、最適なパフォーマンスを発揮するとされる。
2つのSoCにアクセラレーターを加えることで、演算処理速度は最大400TOPS(毎秒400兆回)にアップ。消費電力量は60〜75ワットで、空気冷却だけで足りる十分なレベルといえる。エヌビディアの新型SoC「オーリン(Orin)」に比べても、33〜50%パフォーマンスが向上しているという。
アクセラレーターは2019年後半にサンプリングが始まり、SoCは2020年半ばにサンプリング開始予定。クアルコムは2023年までの生産開始を目指している。
【第2位】インテル=モービルアイ
モービルアイのアムノン・シャシュア最高経営責任者(CEO)。「CES 2019」登壇時。
David Becker/Getty Images
総合:87.2
戦略:86.4
進捗:88.0
モバイルデバイスコンピューティングへの移行に失敗したインテルは、自動運転分野で巻き返しをはかるため、2017年にイスラエルのモービルアイを150億ドル(約1兆6500億円)で買収した。
モービルアイは先進運転支援システム(ADAS)向けマシンビジョン開発のリーディングカンパニー。2018年に「EyeQ(アイキュー)4」画像処理チップを市場投入し、現在は次世代「EyeQ5」チップをテスト中だ(市場投入は2021年の予定)。
「EyeQ5」チップ2つとインテルのCPU「アトム(Atom)」の組み合わせにより、エヌビディアの「エグゼビア(Xavier)」と同等の消費電力30Wで、48TOPS(毎秒48兆回)の演算処理能力を実現できる。
しかし、レベル4の自動運転には少なくとも、データセンターのサーバに使われるのと同クラスのCPU「ジーオン(XEON)」が必要だ。
ただし、複数の「XEON」と開発中の「EyeQ5」チップを組み合わせたとしても、エヌビディアの自動運転コンピューティングプラットフォーム「ペガサス」に対して、優位性を手にすることはできないかもしれない。
【第1位】エヌビディア(Nvidia)
エヌビディア(Nvidia)の自動運転コンピューティングプラットフォーム「ペガサス(Pegasus)」。
Nvidia
総合:92.3
戦略:92.3
進捗:92.3
エヌビディアはハイパフォーマンスGPUの開発におけるリーディングカンパニーで、そのテクノロジーは、データセンターのスーパーコンピューターから自動運転まで幅広く用いられている。
同社の自動運転コンピューティングプラットフォーム「ペガサス(Pegasus)」は、レベル4およびレベル5のロボットタクシーを含む高度な自動運転に対応。「エグゼビア(Xavier)」チップ2つと「チューリング(Turing)」GPU2つを組み合わせ、消費電力400ワット(推論値)で320TOPS(毎秒320兆回)の演算処理を実現する。
多くの自動運転開発企業が「ペガサス」を使ったテストを行っており、そのアーキテクチャーはボルボとダイムラーが開発中の電子制御ユニット(ECU)のベースとして採用される予定だ。
2019年12月に中国・蘇州で開催したテクノロジー・カンファレンス「GTC China」で、エヌビディアは新型プロセッサー「オーリン(Orin)」を開発していることを発表した。この次世代チップは「エグゼビア」の7倍近いパフォーマンスを持ち、2021年後半にも生産が始まる。
(翻訳・編集:川村力)