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- 優れたアイデアはたいてい個人のニーズから生まれる。
- 成功する創業者は、アイデアより先に独立したいという願望を抱く。
- 数10億ドルのスタートアップ企業の創業者たちは、クリエイティブである半面、人と衝突することも多い。他の経営者との違いはそこにある。
人生を変えることになるアイデアがふいにひらめいたのは、ステファン・カウファー(Stephen Kaufer)が次の休暇旅行でどこに行こうかとネットサーフィンをしていた時だった。旅行代理店おすすめのメキシコのホテルは3軒。ホテル代が一番安いところにしようか。
だが、サイトに書かれていることが本当かどうかをチェックしたい。そこで、旅行客がそれまでに撮影した写真を見てみることにした。かなりのテクニックを使い時間をかけて探した結果、ようやく個人の旅行記が見つかった。その時カウファーは思った。旅行プランに関する確かな情報を集めたプラットフォームをつくれば当たるはずだ、と。
読みは的中した。カウファーは1年後に旅行口コミサイト、トリップアドバイザーを設立。現在の年間売上高は156万ドルに達している。
優れたアイデアに刺激を与えるものは何か?
Uber、Klarna(スウェーデン発の後払い決済サービス)、HelloFresh(オンライン食材キット宅配サービス)といったいわゆるユニコーン企業は、日常生活を楽にしてくれるとともに、創業者に大きな富をもたらす。ユニコーン企業とは、他社を買収することなく評価額10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業のことだ。
それにしても、数10億ドルの事業アイデアはどのようにして生まれるのか? 決定的な刺激となるものは? 成功した創業者から何が学べるだろうか?
ユニコーン企業のビジネスアイデアはどうやって生まれたのだろうか?
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このテーマについて、起業論が専門のアレクサンダー・ニコライ(Alexander Nicolai)オルデンブルク大学教授と同大の研究者レギーナ・ヴァルナー(Regina Wallner)が調査を行った。
ユニコーン企業の研究に先立って、まず任意に選んだスタートアップ95社におけるアイデアの源を探った。次に、ヨーロッパとアメリカにおけるユニコーン企業トップ50社のイメージをつかむために、インタビューを行い、YouTubeビデオを分析し、データベースをくまなく探した。“促進剤”とみなしたものは、先に調査したスタートアップ企業の“インパルス(行動の原因)”に分類する。
調査から分かったのは、ヨーロッパおよびアメリカにおいて非常に評価額が高いスタートアップ企業の84%はテック企業であること。興味深いことに、アメリカのサイバーセキュリティ企業パランティア(Palantir)のような真のハイテク・ユニコーン企業は少数派に属する。
「たいていの企業は出来合いのテクノロジーを利用している。つまり、なんらかの形で市場にすでに存在するもの」ということだ。Spotifyしかり、Airbnbしかり、Klarnaしかりだ。
優れたアイデアは、平凡だが本質的なニーズから生まれる
経営コンサルタントが説くのとは違って、すばらしい思いつきは創造性を刺激するテクニックや予測ツールからではなく、ニーズから生まれる。「解決する価値のある課題……創業者自身がそうした課題を持っていたケースも多い」とニコライ教授は語る。比較研究によると、別のインパルスから生まれたスタートアップ企業は失敗するケースが多い。
アイデアは、準備のある人の心に浮かぶ。「意外なことに、実際どの創業者も早いうちに独立したいという願望を持っていて、イノベーティブなアイデアは後から生まれている」とニコライ教授は指摘する。もうひとつ驚かされたのは、テック系ユニコーン企業の成長が急速なこと。「自分のアイデアが10億ドル市場に通じるとは、誰も思わなかったはずだ」
評価額10億ドルを超えるスタートアップ企業の創業者に共通しているのは、優れたアイデアの他にもいくつかのファクターがある。「粘り強さや野心といった性質がプラスに作用することは驚くに値しない」とニコライ教授は語る。これは実際どんな職業にも言えることなので、特に創業者の特徴というわけではない。
成功する創業者に共通するのは、人と衝突することも厭わない姿勢だ。
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研究結果が示す興味深いファクターは、人との折り合いがあまりよくない、と心理学者が表現するものだ。「成功する創業者は、人を怒らせたり侮辱したり、時には自分を笑い者にすることも厭わない」。この点で経営者とは違いがある。
しかし、最高のアイデアでも失敗することもある。これは常に頭に入れておきたい。例えば、チーム内の不和、販売の低迷、過当競争といったことが原因だ。「創業者が開発したものが市場のニーズにマッチしないこともよくある」とニコライ教授。特定のテクノロジーに夢中になったり、一時的な流行に飛びついた企業などにありがちだ。
それに、成功した創業者のほとんどは、ブレイクする前に一度は挫折している。「決め手となるのは、アイデアを試すときの学習プロセスの速さやクオリティだ」と教授は言う。
とはいえ、デジタルの力をうまく利用したいなら、ひらめきは欠かせない。ひらめきの起こり方は千差万別だが、ニコライ教授とヴァルナーは6つの源泉を発見した。
10億ドル規模の事業アイデアをいったいどうやって思いつくのか。決定的なインパルスはどこから来るのか。成功した創業者たちからどんなことが学べるのか——以降では、ニコライ教授とヴァルナーがHarvard Business Manager(『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌のドイツ語版)に発表した研究報告から、これらの疑問に対する答えを探っていこう。
1. 解決すべき問題を見つける
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ニコライ教授によると、成功する事業アイデアに必要なものとして断トツなのは、具体的な腹立ちや強い願望だという。調査対象となったユニコーン企業の半数は、創業者自身が持つ未解決の課題がもとになっている。これが成功への鍵なのだ。
うち3分の2は、トリップアドバイザーのカウファーのように個人的な課題だった。人々がすすんでお金を払うニーズを発見するために、教授は次のように自問することを勧めている。
- 潜在顧客のToDoリストにあるのはどんな項目か?
- しなくて済むならありがたい作業は何か?
- その場しのぎの方法でしのぐのは、どんな時か?
- いらいらさせられるものは何か?
- 高すぎるとみんなが思うのは、どんなところか?
- 時間が無駄になっているのはどこか?
2. すでにある資源を使う
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自分がすでに持っている資源、または誰かが持つ資源を利用することでアイデアが生まれるケースもある。最も有名なのはAirbnb。創業者のブライアン・チェスキー(Brian Chesky)、ジョー・ゲビア(Joe Gebbia)、ネイサン・ブレチャージク(Nathan Blecharczyk)は、アパートの賃料を節約するために空き部屋を貸そうと思いつき、サイトを立ち上げた。Airbnbと名付けられたサービスがその後どうなったか、知らない人はいないだろう。
調査したユニコーン企業の18%は、手持ちの資源から生まれた事業アイデアがもとになっている。テクノロジー、能力、美的創作物、ネットワーク、未使用のキャパシティやデータなどだ。
また、失敗した計画からアイデアが生まれることもある。カナダ人スチュワート・バターフィールド(Stewart Butterfield)の場合、オンラインゲームGlitchはうまくいかなかったが、ゲーム制作のために開発したコラボレーションツールをもとにSlackを立ち上げ、世界的に成功した。
3. コピーする
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成功企業の中にも模倣はある。Facebookは、インスタグラムを改良するためにSnapchatのストーリー機能をコピーしている。
調査対象となったユニコーン企業の14%は、アイデアをコピーして使用したことが判明した。スウェーデン人リナス・マトカッセ(Linas Matkasse)は、トップ50社のうち2社、アメリカのブルーエプロンとドイツのハローフレッシュをコピーして食材宅配サービス会社を立ち上げた。
しかし、研究結果によると「コピー戦略にはリスクが伴う」。なぜなら、遅くとも模倣犯が国外に進出する時、すでに競合の存在する市場に遭遇することになるからだ。
4. 未来を見通す
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創業者の多くは明確なビジョンを持っている。将来を見通す力があり、どのトレンドが利益をもたらすか予知できる。
しかし、実際にこのインパルスからアイデアが生まれたのは、調査したユニコーン企業の6%にすぎない。その一例がアメリカのサイバーセキュリティ企業パランティア。共同創業者のピーター・ティール(Peter Thiel)は、詐欺などを暴くために大量のデータの中からパターンを探し出した。このアイデアは、早くから詐欺行為を防止しなければならなかった決済アプリPaypalでの経験から得たものだ。
さらに顕著な例はバズフィードだ。ジョナ・ペレッティ(Jonah Peretti)は、ウイルスの仕組みからこのプラットフォームの事業アイデアを思いついた。
5. 成功を別の分野に
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「スタートアップ業界ではアナロジーが好まれます」と、ニコライ教授は語る。よく知られているのは、顧客の好みに合わせて配合したミューズリー(シリアル食品の一種)を提供しているドイツの企業マイ・ミューズリー(MyMusueli)。このアイデアをまねて、無数のスタートアップ企業が生まれた。
ただし、成功したのはほんの一握りにすぎない。アナロジーのアイデアは、調査した中ではわずかに2%。コピーと違うのは、アイデアを別の分野に置き換えるところだ。
調査によると、「このアプローチが人気な理由は、系統立った方法でアイデアを探せるからでもある」。アナロジーはスタートとしては悪くないが、失敗するリスクを常に視野に入れておきたい。
6. インスピレーションを実現する
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ニコライ教授とヴァルナーがここで説明するのは、創造的インパルス、あるいはクリエイティブな結合とも言い換えられる。「創造的な瞬間はあるにはあるが、非常に少ない」。例として、アメリカのライドシェア大手Lyftの創業者ローガン・グリーン(Logan Green)を挙げている。
グリーンは、互いに関係のない2つのもの——相乗りの際の匿名性の問題と、当時はまだ新しい可能性にすぎなかったFacebookでのソーシャルログイン機能をクリエイティブに結びつけた。乗客も運転手もアプリを使って相手の写真を見ることができるようになったことで、匿名性はもはや過去のものとなった。
(翻訳・シドラ房子、編集・常盤亜由子)
[原文:Airbnb, Spotify, TripAdvisor: Wie Gründer milliardenschwerer Startups auf ihre Geschäftsideen kommen]