日立、富士通、資生堂…大企業ジョブ型導入で崩壊する新卒一括採用

働く人たち

撮影:今村拓馬

日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなど名だたる日本企業が、職務を明確にして、年齢や年次を問わずに適切な人材を配置する「ジョブ型」への移行を加速させている。グローバルで人材獲得競争が激しさを増す中、グローバル基準のジョブ型に移行する企業が、今後も増えることは確実だ。

これに伴い、この先、減少をたどると見られるのが「新卒一括採用」だ。

キャリア的には白紙の状態の新卒社員を一括で大量採用し、「ジョブ」を限定せず、現場で教育。自社カラーに染めあげ、年功序列で昇給・昇格させて行く——。といった従来の日本型雇用は今、大きな転換点を迎えている。

まっさらな新卒に価値を置かれてきた日本の就活も、2020年を節目に形を変えていきそうだ。

日立のきっかけは事業モデルの抜本的な転換

日立

shutterstock/Denis Linine

「人事政策は事業そのものです。かつての電機メーカーから舵を切り、今の日立はグローバルで社会イノベーション事業を行うサービス事業会社。グローバルのマーケットを知っている必要がある。外国人、女性など人材の多様性こそが必要で、日本固有のメンバーシップ型を続けることは無理がありました」

日立の人事戦略の中核人物として、ジョブ型導入の指揮をとるCHRO(最高人事責任者)中畑英信氏は、Business Insider Japanの取材に対し、そう話す。

日立は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行を目指している。背景にあるのが、ビジネスモデルの転換だ。

日立はすでに、総合電機メーカーではない。

新興国の台頭で、熾烈なグローバル価格競争に疲弊した結果、日立は2008年度、国内製造業で過去最大の7873億円の赤字に陥った。そこから抜本的な経営再建を図り、ものづくりの会社から「社会イノベーション事業」を軸にインフラサービスの会社へ、主軸を国内市場からグローバル市場へとシフトした経緯がある。

現在、日立の売上高の半分は海外が占め、社員30万人中14万人が海外人材だ。人材配置や評価制度が、海外諸国で一般的な「ジョブ型」となることは必至とも言える。

すでに年間採用の半数が経験者採用

その流れで変わるのが採用だ。

人に仕事を割り振るのではなく、仕事(ポジション)に見合った人材を登用するジョブ型では、必然的に中途採用の比率は高くなる。

日立では、年間の採用のうち、経験者(中途)採用はすでに半数近くを占めている

具体的には、2013年度では約700人の採用に対し経験者採用は60人程度だったのが、2021年度入社では950人採用のうち経験者は400人にまで増えている。

「どこかで経験を積んだ人材の方が即戦力になるのは事実で、海外の多くの企業は新卒採用はしていません。日立でもこの先、新卒と経験者の比率をどうするかはまだ未定。私にもわかりません」

前出のCHROの中畑氏は、今後の新規採用の見通しについてそう述べる。

「ただ、新卒採用は若年雇用の安定という意味でも、育成という意味でも、(大企業に対して)社会的な要請はある。企業の社会的責任として、日立は新卒採用を続けるでしょう」

「社会的責任としての新卒採用」との言葉には、スキル重視に振り切るならば、経験者採用が相当増えるとの意味も読み取れる。

なぜ日本はメンバーシップ型だったのか

働く若い人

新卒一括採用、年功序列、終身雇用。日本固有のメンバーシップ型では海外企業に太刀打ちできなくなってきてしまった。

撮影:今村拓馬

そもそも、ジョブ型とメンバーシップ型の違いは何なのか。

ジョブ型の大きな特徴は、ジョブディスクリプション(職務記述書)が全てのポジションに示され、その能力や経験に見合った人材が採用・配置される。働き手は社内にジョブがなくなれば会社を移り、会社側も新しいポジションには社外から人材を調達するなど、人材の流動がより進む傾向がある。

一方、日本固有のメンバーシップ型は、新卒一括採用で人材を確保し、入社後に社内のポジションの空きに応じて配置。人に対して仕事を割り当て、企業内で人材育成を図る。年功序列、終身雇用が保障される一方、専門性とは無関係な異動や転勤が行われる。

経済成長下では消費意欲も旺盛で、規格どおりの製品を量産することで売り上げは拡大する。このため、終身雇用と引き換えに一定の人員を常に確保する意味でも、日本においてメンバーシップ型は広く用いられてきた。

高騰する人件費、社内での育成に限界

しかしここにきて、日立のみならず、日本企業のジョブ型シフトが相次いでいるのは前述のとおり。

資生堂は管理職を対象にしていたジョブ型人事制度を、2021年1月から国内の管理職以外の社員の一部、約3800人に拡充。富士通も2020年4月から課長職以上の約1万5000人を対象にジョブ型の運用を始め、その後一般社員にも広げようと「現在は労使交渉中」(広報担当者)という。

ソニーも2012年からコース別採用を実施し、採用の段階から、職務をより明確にする選択肢を用意している。KDDIも2021年度入社で、ジョブ型採用の割合を4割にまで拡充すると公表している。

ジョブ型促進の背景にあるのは、急速にデジタル化、グローバル化する社会の変化に応じた人材を、自前で育成することができず、社内で人材を調達するメンバーシップ型が完全に息切れしていること

さらに言えば、バブル崩壊以降の長引く経済低迷で、企業が終身雇用を前提に、高止まりする人件費を抱えきれなくなったことがある。

大卒の肩書きと面接スキルで就活は乗り切れない

就活生

企業が見合った人材を社内外から募る「ジョブ型」を推進すれば、現在の多くの学生は対応できなくなってしまう。

撮影:今村拓馬

「みんないい企業入れないと死ぬみたいな焦燥感で、不安と心配の渦がやばいです……」(都内の私立大学4年生)

採用の異変の兆しは、コロナショックも相まって、就活に挑む学生たちに不安をもたらしている。

ジョブディスクリプションに見合った人材を社内外から募るジョブ型を推進すれば、現在の多くの学生が、見合った知識や能力、職業観を身につけているとは言い難い。

諸外国のように、学生時代にインターンシップで経験を積む、国の政策として、学生に職業訓練の機会があるなど環境整備も必須になるだろう。

これまで日本で続いてきたメンバーシップ型の企業社会の通りに、新卒のカードと面接スキルで就活を乗り切れる時代は過ぎ去ろうとしている。

日本式ハイブリッドのジョブ型が進む

「うちも採用にジョブ型を導入したいがどうしたらいいのか、という人事担当者からの相談は増えています。今後、コロナも経済の先行きも不透明な中で、新卒採用での『優秀な人』の定義は変わり、より高度なスキルが求められるでしょう。学生は、これまでのような売り手市場ではなくなり、今よりも選考基準が厳しくなる可能性があることに、まず向き合う必要があります」

そう話すのは、パーソルグループの新卒採用統括責任者 を務める傍ら 、 パーソルキャリアで「はたらクリエティブディレクター」として活動する、佐藤裕氏だ。国内外15万人以上の学生に就活支援の実績をもつ。

「ただし、日本の場合、一気にジョブ型採用に移行することは考えにくい。IT職種限定や一部の先進的な企業から徐々にジョブ型採用を取り入れつつ、新卒一括採用とのハイブリッドが続くのではと思います。(1400社以上が加盟する)経団連企業の多くが、一括採用を継続していることも一因ですね 」(佐藤氏)

また、日本の大学教育が、 実際の仕事に近しい経験を積めるような環境になっていないという問題も根強い。

「いずれにしても先行きの不透明な時代に、企業側はどんな変化にも適用できる人材を求めるなど、採用のハードルを上げている。学生にはただ不安がるのではなく、リアルな情報に触れて、そこから 対策を考えようと伝えています 」(佐藤氏)

(文・滝川麻衣子

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