サハラ砂漠から舞い上がる砂塵の衛星画像。2020年6月、気象衛星NOAA-20が撮影。
NOAA
- サハラ砂漠の巨大な砂塵と乾燥した空気が6月25日にフロリダを襲い、他の沿岸地域にも影響を与えそうだ。
- 専門家はこの噴煙を「ゴジラ・ダスト・クラウド」と呼んでいる。それは約10日間かけて大西洋を横断した。
- 砂塵は霞んだ空と視界の低下をもたらし、大気を汚染する。
- 保健当局は、特に喘息やアレルギーを持っている人には、マスクを着用し、家の中にいるように助言している。
2020年6月25日、巨大な塵の雲がフロリダに到達した。次はアメリカ南東部全体を飲み込もうとしている。
一部の専門家はそれを「ゴジラ・ダスト・クラウド(Godzilla dust cloud)」と呼んでいる。 より一般的には「サハラ・エア・レイヤー(SAL)」として知られていて、埃と砂が充満した暖かく乾燥した空気の塊が、サハラ砂漠から大西洋を越えて何千キロも西に移動する。
6月22日と23日、砂塵はキューバ、ジャマイカ、プエルトリコを覆ったあと、メキシコの海岸に向かった。砂埃が太陽を遮り、空が暗くなった。 ロイター通信によると、カリブ海地域の保健当局は、不健康なレベルにまで大気が汚染されているとして、住民に対して屋内に留まり、マスクを着用するよう促した。
24日の午後までに、砂塵はメキシコ湾の上空を覆った。25日朝のアメリカ国立気象局(NWS)の予報では、サハラ砂漠から来た砂嵐が、今後数日にわたってメキシコ湾岸の州にやってくるとしていた。
6月24日午後の時点では、サハラ・エア・レイヤーのダストがカリブ海地域とメキシコ湾の大部分に広がっている。
フロリダ州の報道機関やフロリダ住民のツイッターアカウントが、25日に砂嵐が到達したことを報告した。
気象学者のジェフ・ビーミッシュ(Jeff Beamish)によると、砂塵の雲は「27日までにアメリカの中央部と東部に広がる可能性がある」という。
NWSの専門家は、塵が夕日を赤くするが、それだけでなく「日中は空が霞み、局所的にはさらに可視性が減少し、大気の質が悪化する」と述べた。
「記録を取り始めて以来、最悪の事態」
SALが大西洋を横断するのはこれが初めてではない。毎年、春の終わりから秋の初めにかけては暖かい埃っぽい空気の塊が形成され、サハラ砂漠の上空に集まる。6月下旬から8月中旬、3日から5日ごとに、熱帯の強い風によって、その一部が西に流されるのだ。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、SALは常に海を越えて5000キロ以上も運ばれるとは限らないが、風の強さによってはテキサス州西部までやってくることがあるという。
2020年6月24日、メキシコのキンタナ・ロー州のチェトゥマルに砂塵が到達し、空が暗く赤みを帯びている。
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しかし、今回の塵の雲は、これまでに記録された中で最大のものの一つであり、最も塵が多いものだという。
ジャマイカの気象サービス部門のディレクターであるエバン・トンプソン(Evan Thompson)はロイター通信に対し、「記録を取り始めて以来、私が見た中で最悪のものだ」と語った。
「我々が目にしているのは、非常に厚い埃の粒子の塊だ。それは、はっきりとわかるものだ」
大気を汚染し、呼吸器系の問題につながることもある
プエルトリコ大学の環境衛生の専門家、パブロ・メンデス・ラサロ(Pablo Méndez Lázaro)は、AP通信に、このゴジラ・ダスト・クラウドは「過去50年間で最も重大な出来事」であると語り、「カリブ海の多くの島々は、危険な状況だ」と付け加えた。
SALの砂塵は、プエルトリコと近くの島々の空気の質を危険なレベルにまで低下させている、とAP通信は報じた。
各国の保健当局は、特に呼吸器疾患を持っている場合はマスクを着用して家にいるように、カリブ海全域の住民に奨励している。
砂塵で霞むエルサルバドルの首都サンサルバドル。2020年6月25日。
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「塵の雲に含まれる小さな粒子は、すべての人に目、鼻、喉の炎症を引き起こすが、特にアレルギーや喘息の患者は要注意だ」とアメリカ・アレルギー・喘息・免疫学会の会長、J・アレン・メドウズ(J. Allen Meadows)博士は23日の声明で述べた。
彼は、粉塵の雲は「喘息の症状を悪化させ、呼吸を困難にする可能性がある」と付け加えた。
カリブ海での推奨事項と同様に、メドウズ博士やアメリカのその他の専門家は、喘息やアレルギーの持病のある人はマスクを着用し、できるだけ室内にとどまるようにと述べている。
サハラから塵の雲が来るのは、悪いことばかりではない
霞んだ空と息の詰まるような粉塵は確かに不愉快だが、SALの雲にはいくつかの利点がある。
サハラ砂漠から抜け出すと、SALは地上1マイル(約1600メートル)の高さから上の厚さ2マイル(約3200メートル)の層になる。この乾燥した暖かい空気の層は、大西洋でのハリケーンや熱帯低気圧の発達を抑える作用もある。ハリケーンは、海の暖かく湿気の多い空気が上昇することで発生する。しかし、SALは海の湿気が上昇するのを防ぐからだ。
2019年8月1日、大西洋上のサハラ・エア・レイヤー。南アメリカ大陸とカリブ海の島々が左下にあり、サハラ砂漠は右上にある。
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NOAAによれば、砂の雲は南アメリカの熱帯雨林にも恩恵をもたらす。大西洋を横切るとき、SALの塵の一部がアマゾン川流域に流れ込むことがあり、塵に含まれる鉱物が熱帯雨林の土壌に栄養分を補充するのだ。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)