コツは時々ビデオオフ?佐藤ねじさんにきく「リモート・ブレスト」の極意

リモート会議の様子

新型コロナウイルスの影響で外出自粛期間が続き、リモートで会議やブレストを行うことが日常になりました。対面で行う時のようにはいいアイデアが出ない、手応えが得られないという声も聞こえてきます。

オフラインからオンラインになることで、ブレストのあり方はどう変わっているのでしょうか。機能させるためにはどんな工夫が必要でしょうか。以前にもご登場いただいたブレストの達人、ブルーパドルの佐藤ねじさんに「リモート時代のブレスト」について聞きました。

無駄な時間が減少。アイデアはむしろ出やすくなっている

——新型コロナウイルスの影響で外出自粛期間が続き、リモートで会議やブレストをする機会が増えています。オフラインからオンラインに変わって、ブレストにどんな変化が見えますか?

単純にミーティングの数が増えましたね。ブレスト的な、アイデアを決める会議自体も多いです。移動時間がなくなったぶん、調整がつきやすくなったんでしょう。30分の会議を2本、1時間の会議を2本、計4本を3時間のうちにこなすなんてことも可能になりました。自分がやっているブルーパドルのブレストもありますし、外部のミーティングに出席する回数も増えた気がします。

——そうした状況はしっくりきていますか?

もともとオンライン推奨派でしたし、移動などの無駄な時間はなるべく省いて、アイデアを出すことに集中したいタイプだったので、そんなに違和感はないですね。ただ、以前より調整がつきやすくなったぶん、放っておくとすごい数のミーティングを組まれてしまうので、意識してコントロールするようにはしています。自分の場合は会議はなるべく午前中にぎゅっと集めて、お昼ご飯や昼寝を挟んで、午後はデザインなどの一人で集中する作業に充てるようにしています。それぞれ頭の使い方が違うので、混ぜると効率が下がってしまうんです。

——調整がつきやすくなったぶん、会議の数は増えた。質はどうでしょうか?

質は分からないですけど、オンラインになって最適なやり方が変わった感じはあります。まっさらな状態で集まってその場でブレストするスタイルは、オンラインには向いていない気がします。お題に沿って各自がある程度考えてきたものを持ち寄るスタイルのほうがいいのではないか、と。

なぜって、オンラインだと無駄な時間を過ごしづらいじゃないですか。会議にはもともとアイデアを出している時間以外に無駄な時間も結構含まれていたと思うんですけど、Zoomで10人も集まっているのにみんなが「うーん」と唸ったままの時間が続くと、不安になりますよね。沈黙に耐えられない。だから質の低いアイデアを思いつきで口にしにくいんです。

それに、Zoomだとどうしても喋っている一人の話に聞き入ってしまい、セッションが起きにくく、アイデアが深まっていく感じがしない。リアルな会議であれば端の二人が喋っている間に残りの参加者で別の話をパラレルにすることもできるけれど、Zoomの場合はそれもできない。なので、全部が全部そうとは思わないですが、ぼくの感触としては、各自であらかじめ考えてきたものを持ち寄るほうが打率が上がる気がしています。

——ジャズのセッションのようにやり取りを重ねる中でアイデアが深まっていくのがブレストの醍醐味のように思っていたんですが、オンラインだとそれは難しいということ?

そう。なので持ち寄り型で。でもやっていることとしては基本的には変わらないんです。下ごしらえをして臨んだほうが質が上がるのは、リアルな会議でも同じ。雑なアイデアをポーンと投げると、それに対して誰かが返してくれて……というやり取りを4ターンくらい繰り返していいアイデアにしていたのが従来のブレストだったとすると、オンラインだとそのセッションが起こりにくいぶん、最初の1、2ターンを各自で済ませておくようなイメージです。

アイデアを持ち寄るためのメモ

アイデアを持ち寄るためのメモ。

あらかじめ考えてきたアイデアを持ち寄ると、いいアイデアになるまでのターン数が減る。そのぶん、1時間で出てくるネタ数は増えることになります。だから結果的にはZoomのほうがアイデアを出せている気がします。名刺交換やアイスブレイクなどの無駄なことを一切やらずにアイデア出しだけをやって終われるのは、結果主義なところの強いぼくにとってはありがたいです。持ち寄る場合はそのための準備が必要なので、それだけみんなの時間を食っているわけですが、移動時間などの無駄な時間が削られて考える時間に充てられていると考えれば、歓迎できるのではないでしょうか。

——無駄が減って純粋にアイデアを出すことに集中できていると思えば確かに歓迎なのですが、なぜか「アイデアが出にくくなっている」「手応えが得られない」と感じている人が少なくないようです。

「やった感」はあまりないかもしれないですね。リアルだといい意味でも悪い意味でも逃げ場がないからみんなリアクションをとるけれど、Zoomだと「面白い」と感じたアイデアに対してもリアクションが薄くなる。一人語りになりがちで、手応えが弱い。アイデアの数は出ていても、サクサク進んでしまうからバイブスは生まれにくいし、「仕事をした感」は薄くなるんだと思います。

音楽で言うところのライブとストリーミングの違いに近いかもしれません。ライブだと多少音が外れたとしてもその場の雰囲気で「おー!」と盛り上がれるけれど、実際にはストリーミングで聴いたほうがいい音で正確に聴けるというような。

ただ、それが最終的に出るアイデアの質にどれくらい関係しているかはちょっと分からないです。リアルでやっていた時に感じていた「おお、すごいの出た」という感触も錯覚だった可能性があるので。一晩置いてみたら「それほどでもなかったな」ということが結構あるじゃないですか。

「ボールを持っていない時間」を有効活用できる

——では、ねじさんは全体としてはオンラインのブレスト肯定派なんですね。

そうですね。ぼくは結果としていいアイデアがちゃんと出ればいいという考え方なので。無駄なくアイデアを出せるという意味でいまの状況は悪くないかなと思っています。

でも、だからと言ってオフラインの会議を全否定しているわけではないです。例えば決める内容によっても向き不向きがある気がします。すでに大筋の方向性は決まっていて、最後の詰めの部分をあれこれやりながら固めていくといった場合は、紙やホワイトボードにガリガリ書いて進めていくので、リアルのほうがいいかもしれません。紙に書いて指差しで進めるのにはZoomは向いていませんよね。カメラに映っている時しか見えないので。

逆にZoomのいいところはログが残りやすいこと。リアルな会議では、喋りっぱなしで何個かいいアイデアが出たけれど、書記が追いついていなくて「あれ? なんだったっけ?」ということが結構ある。Zoomの場合は簡単にチャットに記録できるし、なんなら録画を見直せばいいわけで。

——下準備をしっかりする以外に、オンラインのブレストで工夫していることがありますか?

ビデオをオフにすることです。Zoomだとビデオオフにするのにいちいち断らなくていいじゃないですか。突然オフにしたとしても「(家で)なにかあったのかな?」くらいの感じでそのまま話が進んでいく。ミーティング中に自由になれるのはZoomならではのいいところだと感じます。リアルだとこうはいかないので。

ブレストをする際には通常何人か参加者がいるから、参加者それぞれの「ターン」があります。自分のターンでない時には、基本的には聞くことに徹します。その際にビデオオフにしておくと、「うん、うん」と一応話は聞きながらも、自由に振る舞うことができる。例えば、事前にあまり気の利いたアイデアを持ち寄っていなかった場合などにも、その場で考えやすくなります。

一回、人の視界から外れられるのがすごくいいなと思いますね。素の自分でいられるから。なるべく素の自分、解放された感じのほうがいろいろと楽じゃないですか。

ビデオをオフに

ビデオをオフに。

——素の自分でいられたほうが自由に発想できるということですか?

ブレストってサッカーと似ていて、全体で1時間あったとしても、自分がボールを持っている時間は限られているんですよね。もちろん人の話を聞いて発想を膨らませることもあるからボールを持っていない時間のすべてが無駄というわけではないけれど、「超大事な時間」ではない。ブレストにはもともと「超大事な時間」と「そうでもない時間」が存在していたんですけど、Zoomでビデオオフにすると、この「そうでもない時間」を有効に使えるということです。

話を聞いていて「いまこの人が話していることは違うな」と思う時もあるじゃないですか。「ぼくとしてはここは通った部分だな。別に否定はしないけれど、スルーしてもいいよな」というように。その時間はビデオオフにして、カチャカチャと別のことをやっていられる。

逆に言えば、自分がずっとオンになっているということは、ほかの人のターンを奪っていることにもなるわけです。変な言い方ですけど、リアルな会議だとブレスト以外にやることがなかったから、この侵食度が結構高かった。コミットのオンとオフの境目が薄かったんですね。その点、Zoomだとオンオフを切り替えやすいので、誰かが話している時にはオフにしておいて、次の自分のターンで話すことを考えたり、調べ物をしたりすることができます。

ブレストで一つの「アイデアをこねる場所」が真ん中にあったとして、リアルだとみんなの手がずっと入ってこねている感じですが、Zoomではこねる人は二人くらいで、残りの人はこねていなくてもいい時間がある。家にいながらだといろいろなアイデアの材料、タネが周りにあるはずなので、その間はそうしたものを眺めておいて、頃合いを見てまた手を入れてこねる、ということができる。ブレストしながら準備ができるというようなことが、ポジティブに考えるとあるなと思います。

——確かにボタン一つで人の視線から解放されるというのはオンラインならではのいいところかもしれません。一方でZoomはデフォルトだと自分の姿が映っていますが、これが人間にとってはあまりよくないと聞いたことがあります。自分を見る機会って普段はあまりないから……。

ああ、それは確かにそうかもしれない! ブレーキがかかりやすい。Zoom飲み会をした時にそれを感じたことがあります。酔えないんです。酔いとはなにかといえば、ある種視野を狭めているわけですよね。でも、Zoomにはずっと客観性があるから、どこかで冷静になってしまう。ユニークなアイデアを出すためには逆に主観性を上げる必要があるわけで、そう考えると、ブレストも自分だけ映さないようにするとまた違ってくるのかもしれないですね。Zoomにも「セルフビューを非表示」というボタンがありますし、そうした工夫一つで出てくるアイデアが変わることもありそうです。

セルフビューを非表示。

セルフビューを非表示。

在宅=ぬるま湯状態が続けばアイデアの質が変わっていく可能性も

——ブレストで出てくるアイデアについて、ほかにも感じている変化がありますか?

Zoomでブレストをすると、どうしても左脳的・論理的になりがちな気がします。先ほどから繰り返し触れている「無駄がない」というのはまさにそういうことだとも言えますし。出たアイデアもチャット画面に上から下へと順番に貼られていくので、ホワイトボードや紙を使う時のように横に広がっていかない。すると、どうしてもぼくら自身の発想も横方向というよりは縦方向の深掘り型になる気がします。また、コロナの影響もあって、以前であれば面白いと感じていたものを面白いと思えなくなってきているところもありますね。これが日常として長い期間続くと、出てくるアイデアとか面白さの基準みたいなものも、以前とは違ってくるかもしれない。

ぼくはもともと、一人でアイデア出しをする際には紙とデジタルを使い分けていました。ざっくりとどういう方向にするのかを考えるには紙が向いているけれど、逆にアイデアの大枠はすでにあり、それを深掘っていく時はパソコンのほうがやりやすい。これは脳の使い方の違いからきているのかもしれないです。だとすれば、ブレストに関しても似たようなことが言えるのではないか、と。ずっとディスプレイに向かって仕事をしていることのデメリットはやはりあるでしょう。

——なるほど。

いまの生活には移動がないから、切り替えのタイミングもない。まったく別の案件でも似た発想になってしまっている可能性もありますよね。例えば案件ごとに家の中で部屋を移動するとか、画面から引いて立って、目の前に相手がいることを思い浮かべて話すとか。そうした工夫をする必要もあるのだろうと思います。

——すべてが家の中、パソコン一台で完結する仕事の仕方自体がまだ新しいから、現時点では仕事が回っていたとしても、長い目で見ると知らない間に変化が起きている可能性もありそうですよね。

ぼくは昔からアイデアメモを取り続けているんですが、3月終わりに自粛を始めたころからすごく量が減っているんですよね。現時点で仕事に直接影響が出ているわけではないんですが、これって、外に出て予想外の刺激を受ける機会が減った影響なんだろうな、と。家で完全にコントロールできる環境にいるぶん、幸福度は増しているけれど、ストレスがない「ぬるま湯状態」とも言えるわけで。こうした状態ではやはり突然変異的なアイデアは生まれにくい。これが長く続くようだと、世の中のアイデアや制作物がみんな似通ってくることも起こるかもしれません。

——どうすれば?

と言っても、状況は変えられないからいい悪いで考えても仕方がない。「この先どんなものが生まれるだろうか」とぼんやり眺めている感じです。チームでなにかをするのも億劫になりがちな時期だし、個人プレー的なアイデアになりやすい感じもある。ただ、それも悲観しても仕方がないので。逆に「今年は個人プレー的なアイデアを多くつくる年なんだ」くらいに考えたほうがいいのでは。長い人生がある中で、この状況がしばらくは続くにしても、10年間ずっと同じ状態というわけではないだろうから。2年くらいはそういう時期だと割り切ってもいいのかなという気がしています。

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭


株式会社ブルーパドル 代表/アートディレクター/プランナー 佐藤ねじ

1982年生まれ。デジタルとアナログを混ぜた企画が得意。「不思議な宿」「アナログデジタルボドゲ」「変なWEBメディア」「小1起業家」「5歳児が値段を決める美術館」「Kocri」「貞子3D2」など。著書に『超ノート術』(日経BP社)。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術祭、Yahoo Creative Award グランプリ、グッドデザイン賞BEST100、TDC賞など。

iXキャリアコンパスより転載(2020年6月22日公開の記事)

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