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【調査報道】シッター逮捕のキッズライン、レビューに浮上する深刻な疑惑

「さやこっこ」というトレーナーによる初回レビュー

キッズラインに登録されたシッターの初回レビューには一部実体験とは異なる内容が記載されていた。

出典:キッズラインの登録シッターの初回レビュー画面

キッズラインの登録シッターが立て続けに2人、強制わいせつ容疑で逮捕された。キッズラインは2019年11月に1件目の事件発覚後も、拡大路線を取ってきた(前回記事参照)ことは既報の通りだ。

その中で選考プロセスを簡略化させ、面接や研修のオンライン化で3〜4月には月400人弱のシッターが次々とデビューしているが、その質は担保されているのか。

マッチング型のプラットフォームで、契約相手を見極めるのに参考になるのが「レビュー」だ。しかし、今回キッズラインはこのレビューにおいても問題を抱えていることが分かった。

事実ではないレビューの疑惑

キッズラインのシッターは、実際に活動をする前に、最終審査的な位置づけであり最初の利用者でもあるママトレーナーと呼ばれる利用者に1件目のレビューを書いてもらう仕組みになっている。

まず、この段階でキッズラインでは、ママトレーナーの実際の感じ方に関わらず、サポーターの「報復」を避けるために、必ず評価は5をつける仕様になっていた。

ママトレーナーと運営側の情報交換のためのFacebookグループ(現在は閉鎖)によると、これは低い評価を受けたシッターがトレーナーや子どもに何か危害を加えることを避け、安全を守る(実際にキッズライン側は「報復を避ける」と表記、下の画像参考)ためだという。


ママトレーナーと運営側の情報交換のためのFacebookグループより

ママトレーナーと運営側の情報交換のためのFacebookグループより(現在は閉鎖)


実際、6月27日現在、サイト上で表示されるサポーター(キッズラインにおいてのシッターのこと、男性は現在非公開なので対象外)4371人分のデータを、協力者を得て筆者が確認・分析したところ、初回のレビューが「5」以外の人は8人のみで、いずれも2018年6月より前のものである。

一般の利用者が使ううえで、参考にする1件目のレビュー文章は通常、シッターの面接を担当するママトレーナーによるものだ。しかし今回、この初回レビューで、実際には子どもと接していないにもかかわらず、接したかのような内容が多数書かれていることが明らかになった。

子どもに会ってもいないのにレビューでは「外遊び」

外で遊ぶ子供

シッター登録前実地研修の一部はオンラインで実施されていたにもかかわらず、その研修に対するレビューには「外遊びで」などと記載されていた(写真はイメージです)。

Getty Images/AzmanL

実際のキッズラインに登録しているシッターに寄せられた、初回レビューを見てみよう。

キッズラインは2019年11月の事件発覚後も選考プロセスのオンライン化を進めていた。以下は、まさにその大量採用を行っていた真っ最中の2020年4月19日の「さやこっこ」というトレーナーによる初回レビューだ (レビュー対象のシッターは男性なので、現在はサイトから検索できなくなっている) 。


本来、シッター登録前にはママトレーナーの自宅に行き、子どもの面倒をみるのが「実地研修」。しかし地方在住ではママトレーナーが近くにいないこともあるほか、また、 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年3月以降は原則はオンラインに移行していった。

ママトレーナー経験者やシッター、元社員らの証言によると、 オンライン研修では、ママトレーナーと1対1でおこなう場合もあり、3、4月も個々に丁寧なレビューが書かれているものもある。

しかし、 応募者が増加していくと、従業員と思われる人物が5~7人同時にグループ通話をすることもあったという。

地方で2019年にオンライン研修を受け、同じく「さやこっこ」に初回レビューを受けた女性シッターによると、 「ご家庭に到着したらまず何をしますか?」「この時はどうしますか?」といった質問をし、順番に指名されて答えていく形式だったという。

今年4月に「さやこっこ」に「外遊び」についての言及を含む評価を受けた男性シッターによると、このときは1人の従業員がオンラインで同時に、7人程度のシッターに研修が実施されたという

つまり、このシッターは研修日に実際には外遊びをしていないどころか、「さやこっこ」にも、その子どもにも会っていない。にもかかわらず、レビュー内容は「外遊びでげんきいっぱい楽しく遊べていて」という記述になっている。

なお、研修を担当した「さやこっこ」 であると考えられる人物は少なくとも2020年初頭まで、社員としてサイトなどでも確認されており、2017年10月から500件を超えるレビューを書いていることが公開データから確認できる。

初期の頃は1日1件で内容も個々に異なるが、2018年秋ごろから1日2件が増え、2019年秋ごろからは1日数件のレビューの内容が似通ったものになっていく。

そして1日5件を超えるレビューが顕著になるのが2020年3、4月だ。たとえば2020年4月19日には、秋田から福岡まで多くの地域に在住しているシッターに対し、似たような内容のレビューが10件確認できる。4月だけで「さやこっこ」は70件以上のレビューを書いている。


さやこっこによるレビュー

例えば、2020年4月19日には、どれも内容が似通っているだけでなく、秋田から福岡まで多くの地域にまたがっているレビューが見られた。

出典:キッズライン公式ホームページから入手できるデータを元に、筆者が再編。


「さやこっこ」によるレビューだけではなく、同じ様に、同じ日に全国各地であたかも実際に預けたかのようなレビューが書かれているケースは他にもある。下記のミッフィーのアイコンのトレーナーなどでも、6月下旬まで続いている(6月16日に2歳の娘を東京で、5歳の息子を福岡で預けている)。


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出典:キッズライン公式ホームページ(一部、写真を加工しています。)


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出典:キッズライン公式ホームページ(一部、写真を加工しています。)



GW中のミッフィーアイコンのトレーナーによるレビュー

ミッフィーは2016年12月から約400件のレビューを書いている。


GW中のミッフィーによるレビュー

複数の県をまたいでおり、研修がオンラインで実施されたのでなければ、現実的にはありえない内容だ。

出典:キッズライン公式ホームページから入手できるデータをもとに、著者が再編。


「ミッフィー」の3歳娘と5歳息子は関東と宮城で預けられ、2カ月の息子は神奈川と京都、2歳の娘は5月1日に香川と神奈川と静岡を行き来しているのかと思われるような内容だ。

中には「対面後」「初めてお会いする方なので」「家を出る前」などの表現もある。 物理的には考えにくい内容だが、仮に、オンラインで研修を実施したのであれば、その旨を明記すべきではないだろうか。

このあたかも実際に預かったかのように見える初回レビューは、マッチング型シッタービジネスにおいてどのような意味をもつだろうか。

何故初回レビューが重要か

家事代行やシッターサービスでは、 とりわけ初めてその人物を自宅に招く人は、知らない人を家にあげ、子どもを預けるというリスクを負う。

1つもレビューがないと依頼しづらいために、初回の評価を会社側、あるいは会社が認定したモニターに、何らかのメリットを提供して、評価をしてもらっているケースは他社でもある。

たとえば家事代行のタスカジでは、初回レビューは「モニターレビュー」という表示とともに下記のような細かいレビューがされており、これから活動を開始する働き手に助言をするような評価が行われている。


タスカジ初回レビュー2

タスカジの初回レビューは「モニターレビュー」と記載してあるだけでなく、これから活動を開始する働き手への助言も書かれている。

出典:タスカジ公式ホームページ


これくらいの書き込みがあれば、通常の利用者よりも厳しい評価基準を持つ人のレビューとして、依頼する人を選ぶ参考になるだろう。

最初の純粋な利用者は、初回レビューを見て、この人なら安心できそうだという人物を選んだり、あるいは多少課題がありそうだが値段が安いからこの人に頼もうと新規参入者に依頼をしたりすることになるわけだが、そのレビュー内容が事実でないとしたら——。

社員が一度も会ったこともなく、誰の家にも行ったこともなく、子どもに触れあったこともない人に、シッターを依頼しているかもしれないのだ。

信頼の源になるのはユーザーの声

スマホを操作する女性

マッチング型ビジネスのプラットフォームでは、素性が分からない相手と取引をすることになるので、過去の取引や他者の評価が信頼の源になる(写真はイメージです)。

Getty Images/west

CtoC(消費者同士)のマッチング型ビジネスとしては、海外でスタートしたライドシェアのUber、民泊のAirbnbなどがよく知られるが、基本的には個人と個人の契約をプラットフォームがつなぐ役割をする。

こうしたネット上のプラットフォームは、素性が分からない相手と取引をすることになるので、ブランドの保証と、評価システムにより過去の取引や他者の評価が信頼の源だ。

一定の審査を経て登録していることは前提にしながらも、誰に依頼をするかを決めるのは利用者であり、その担保になるのが他の利用者の声、つまりレビューの蓄積だ。

ネット上で評価システムをいかに機能させるかについては、ネットオークションなどを事例に専門家が研究をしており、評価に対して、他の利用者などが参考になったかを評価する「メタ評価」も重要だとしている。

つまり、目利きができる人や基準を会社側が認定し、それが利用者からも分かるようにすることが有効であるわけだ。その意味でも、初回の、トレーニングを受けた人によるレビューは重要になる。

低い評価が付けづらいという欠点

木の星

家事代行やシッターなど自宅住所が相手に知られるようなサービスでは、低い評価をつけづらいという問題があり、多くの働き手が満点に近い得点になっている。

SHutterstock/Monster Ztudio

また、利用者同士のレビューは、とりわけ対面でサービスを提供し、自宅住所が相手に知られるような業種では、低い評価をつけづらいという問題もある。こうした事情から、家事代行やシッターなどの評価は、どのサービスでも多くの働き手が満点に近い得点になっている。

CtoCサービスの評価システムに「低い評価が付けづらい」という欠点があることは周知の事実で、例えば同業他社の「スマートシッター」は、2020年3月時点のお知らせで、非公表レビューを入れ、何か気になるトラブルがあればカスタマーサービスが対応するほか、定期的に、満足度調査も実施しているという。

キッズラインも、6月18日、安全対策を発表し、レビューをクローズドにする、公開レビューの匿名性を高めるなどの施策が検討されている模様ではある。

研修方法も見直される予定だ。


6月24日に利用者に送られたアンケート

出典:6月24日にキッズライン利用者に送られたアンケート


しかし、利用者同士の評価システムが機能しにくいからこそ、運営側が管理をしやすい初回レビューの質は重要になってくる。

運営側はこうしたレビューの適正化に尽力する立場であるべきだ。オンラインで行った評価にも関わらず、あたかも対面で実施したかのような記載を、関係者がしているのであれば、即中止すべきだ。また、ママトレーナーが勝手にやっているのであれば改善して、そこの質の管理をすべきだ。

キッズラインは利用者から20%(単発利用の場合)、シッター側から10%の手数料を取っている。利益を最大化していくには、コストを最低限に抑え、手数料を生み出すシッターを増やすというのがプラットフォームビジネスではある。

しかし一方で、利用者を裏切れば、顧客は離れていく。前出のタスカジやスマートシッターの事例のように、マッチング型の事業者の中にも、質の保証にコストをかけなければプラットフォームが成り立たないと考え、さまざまな工夫をしている事業者もある。

キッズラインの利用伸びの背景には、マッチング型ゆえに実現できた利便性もあったはずだ。本来強みにもなるはずのシステムが、どのようにしたらより良く機能するのか、知恵を絞ってほしい。

編集部より:レビューを受けたシッター研修の表現の一部を変更しました。 2020年6月30日 13:30

編集部より:一部画像の加工処理を行いました。 2020年7月1日 15:00

(文・中野円佳


中野円佳:1984年生まれ。東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社等を経てフリージャーナリスト。立命館大学大学院先端総合学術研究科での修士論文をもとに2014年『「育休世代」のジレンマ』を出版。2015年東京大学大学院教育学研究科博士課程入学。厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員等を務める。2017年よりシンガポール在住。著書に『上司のいじりが許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』。2児の母。

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