「モデルマイノリティ」という存在。黒人差別に知らずに日本の私たちも“加担”している現実

BLM運動

Black Lives Matter運動はアメリカのみならず、欧州にも広がった。写真はドイツ・ベルリン。

Reuters/Fabrizio Bensch

警官によって黒人のジョージ・フロイド氏が殺害されて1カ月余。当初事件への抗議が目的だったBlack Lives Matter運動は収まるどころか、黒人差別全体への抗議活動となり、アメリカだけでなく欧州、中南米、アフリカ、そして日本と世界中に広がっている。

「白人警官が黒人を殺した、だから黒人たちは怒ってデモをしている」

アメリカに住んでいる私は当初、今起きている動きはそんな単純な話だと思っていた。だが、いろいろ調べていくうちに、この問題の複雑さ、根深さに気づくことになった。

今回私が最もショックだったのは、フロイド氏の殺害現場にアジア系アメリカ人の警察官がいたことだ。そのアジア系警官は、白人警官がフロイド氏の首を膝で地面に押し付けている間、通行人が近寄らないようにガードしていた。

アジア人も有色人種として黒人と同じ側にいるのではないかと感じていたので、なぜ彼が白人側に立ったのか、それが気になっていた。

日本に住む多くの人々にとって、この事件は「人種差別がひどい国アメリカ」限定の話だと感じるだろう。自分が「日本人」であることに疑いを持たず、差別を体験したことのない人にとって、日本で人種差別を感じることはないと思う。

しかし本当に日本には、白人が優れ、黒人が劣っているというする白人優越主義のような考え方はないのだろうか。

身近な例を挙げてみる。

  • なぜ日本で描かれたセーラームーンは金髪、青い目、白い肌なのか
  • なぜある日本企業が企画した大阪なおみさんの漫画キャラクターは、実際の彼女の肌の色よりもずっと白い肌の色で描かれたのか
  • なぜテレビCMや雑誌広告に登場するのは白人が多いのか

私は現在、アメリカの大学の社会学博士課程に所属し、市民参加や社会運動を研究しているが、アメリカの人種問題はまだ学びの途中。専門家としてではなく、一学習者の学び、気付きとして、みなさんの学びに役立ててもらえたらと思う。

人として見てもらえない恐怖

白人警察官に持ち物検査をされる黒人男性

警察官に身体検査をされる黒人男性(2015年5月15日撮影)。黒人というだけで路上で警官に呼び止められ、些細なことで逮捕されるケースを見てきた。

Shutterstock/ChameleonsEye

私は普通の人たちの声が尊重される社会に生きたいと思い、11年間の会社生活をやめ、2012年からアメリカに留学し、大学院卒業後にニューヨークのNPOでインターンを経験した。当時働いていたMake the Road New Yorkという団体は、ニューヨークの低所得者層、特に南米からの移民の生活向上を目指していた。

活動の1つが、今まさに問題になっている黒人に対する警察の暴力だった。肌が黒いというだけで路上で警官に呼び止められ、身体検査をされる。受け答えがまずかったり、少しでも怪しまれるものを持っていたりすると逮捕され、最悪は刑務所に。学校に行けなくなり、仕事を失い、結果として「人生を失う」人たちを大勢見てきた。

同じマイノリティでありながら、「あからさまな差別」を受けない日本人として、私は「マイノリティだけど差別されない特権」に居心地の悪さを感じていた。その後、私はいったん帰国し、4年間のNPO活動を経て、市民参加のあり方をもっと研究したいと、2019年からアメリカ中西部の都市、ピッツバーグで学んでいる。

そこで2019年の秋、今までにない体験をした。

ある金曜日の夕方、同じ社会学部の学生や若い教授たちがバーで集まっていると聞き、遅れて参加した。アメリカではアルコールを提供するバーでは年齢制限があるので、パスポートのコピーを年齢証明として出したが、駄目だと。私はアルコールを飲めない体質で、友達と少し話したいだけと伝えたら、いったんは「まあいいよ」となった。

だがしばらくすると、ウエイトレスが近寄ってきて「あなた、出ていきなさい」と言われた。理由は「有効な身分証明書がないから」と。友人たちは、私はそもそもお酒を飲んでいないし、そういうことをアメリカ人の学生には言わないよね、と抗議をしてくれ、私も国際免許証を提出したが、店のマネジャーは全く聞く耳を持たなかった。

今でも忘れられない光景は、白人マネジャーが私の存在を全く無視して、顔もみずに駄目だ、出ていけと、何度も繰り返したことだ。人として見てもらえない、声が全く聞かれないという恐怖。その後1週間、外を歩くのが恐怖だった。

人為的につくれられた「人種」

アニメエクスポ

2014年にロサンゼルスで開催された、アニメ・エクスポ(2014年7月5日)。日本人がアメリカであからさまな差別を受けない背景には、アニメなどのソフトパワーによるものも大きい。

REUTERS/Jonathan Alcorn

日本から転勤や留学などでアメリカに来ても、特に都会では人種差別を感じることは少ないと思う。日本が品質と機能の良い製品を生み出し経済大国となったこと、アニメなど多くの人を魅了する文化を発信していることなども含め、国際的な地位があがったことは不当な差別を感じにくい理由だが、それだけではない。

アメリカにおけるアジア系、特に東アジア系アメリカ人の人種的地位の向上も影響している。

文化人類学者のジェミマ・ピエールは、アメリカの移民コミュニティが直面する人種ダイナミクスは、移民の出身国にも影響する、と指摘している 。つまりアメリカにおける日系や中国系、韓国系アメリカ人の立場が、日本人や中国人、韓国人にも影響するということだ。

もちろん、日本人や日系アメリカ人は第二次世界大戦中に強制収容所に入れられるなど過酷な差別を受けてきた歴史もあるし、私が受けたように日常にも差別の芽はひそんでいる。

だが、それが見えにくい形になっているのはなぜだろうか。

前提として、現在の社会学で「人種」とは「社会的に作られたもの(social construct)」とされている。

19世紀後半のアメリカでは、多くの学説が白人優越主義をさも科学的に証明したかのような立場をとっていた。ジェームス・マキー、アードン・モリスなど数々の社会学者が、白人の優越性を信じたい世論に応える自然科学・社会科学の恐しい歴史を紐解いている。彼らによると、これは欧米諸国による植民地支配、奴隷制を正当化するためだという。

最初に遺伝学が「人種」間の優劣を科学的に証明しようとしたがかなわず、他の学問でも「人種」間の優劣の証明が困難となって、その主張は低調になった。しかし、アン・モーニングなども指摘しているように、人種の優位性を主張する学説は、今も消えることはない。

多様な人種

同じ黒人でもより肌の色が薄い方が優れていると思われる傾向は、むしろ強まっているという。

Getty Images/EyeEm Premium

さらに、最近ではカラリズム(Colorism)と言われる、より肌の色が薄いほうが優れている、美しいと思われる傾向が強まっていると、人種研究で著名なボニラ・サリヴァやジェニファー・ホクスチャイルドらの研究で指摘されている 。

同じ黒人でもより肌の色が薄い人の方が優遇され、社会的にも成功して健康な人生を送れるということだ。興味深いことに、自分の社会的地位が上がると自分の人種を白人に近い存在と考え、失業などを体験すると自分の立場を黒人に近いと考えることも報告されている 。

では、カラリズムの中で「日本人」はどうか。平均的な「日本人」の肌の色は白人ほど白くないが、黒人や南米系よりは白い。そのためトップにはなれないが、比較的カラリズムの上位ヒエラルキーを占めることができると考えられている 。

アジア人は「マイノリティのお手本」

勤勉なアジア人像

日本人のみならず、アメリカにいる中国人、韓国人などアジア系の人たちをモデルマイノリティとして考える見方がある。

Getty Images/Aurora Open

もう一つ、アメリカには「モデルマイノリティ」という人種概念がある。マイノリティのお手本という意味だ。

日本人は海外で勤勉、まじめ、賢い、と評価されることが多い。これは日本人だけでなく、アメリカにいる中国人、韓国人にも共通する「見方」だ。アジア系の人たちは人種的にはマイノリティであっても、努力すれば活躍できる、成功できることを意味している。

その努力を支える「文化」をアジア系アメリカ人は持っていると称えられてきた。このモデルマイノリティは1960年代以降に強くなってきた考え方で、黒人は努力が足りないという論と共に広がっていった 。

実際、アジア系は全米でトップに入る大学にも大勢が入学し、成績も優秀で、ビジネスでも活躍している。全米の高校生で5%を占めるアジア系アメリカ人は、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)で学部生の25%以上を占めている。

アジア人

アジア系は成績優秀を占めることが少なくなく、それが「マイノリティのお手本」と見られている。

Brian Snyder

では、この「優秀なアジア系アメリカ人」に代表されるように、黄色人種は他人種より優れた文化を持っているのだろうか。そこには人種的な違いではなく、アジア系の人々がアメリカにいつ移民してきたのか、その時期が大きな影響を及ぼしている。

アメリカにアジアから移民が来たのは19世紀中盤のゴールドラッシュがきっかけだ。19世紀後半には日本や中国から多くの人々がアメリカに職を求めて移民している。アジアからの大量の移民を恐れたアメリカ政府は、1882年に中国人排除法を施行し、中国からの移民を制限し、米国籍を与えないようにした 。

日本からの移民も例外ではなかった。当時黒人と同じように、人種で分けられた学校に日本からの移民の子どもたちは通っていた。白人と同じ学校には行けなかったのだ。

日本政府とアメリカ政府は1907〜08年に紳士協約を結び、日本政府は「アメリカに入ろうとする労働者」にパスポートを与えないことになった 。1924年にはアメリカで排日移民法が成立し、日本からの移民の道は閉ざされた。

1965年にアメリカは移民法を大幅に改正し、必要なスキルを備えた人材、つまり高等教育を受けた人が優先的に移民できるようにしたことで、医者、看護師、科学者、エンジニアなど自国でチャンスがなかった高度人材のアジアからの移民が活発になった。そのあとを追うように彼らの親族も移民した。

アジア系に存在する「竹の天井」

アメリカ社会で成功、活躍しているアジア人、モデルマイノリティは、アジアから労働者層が移民しにくい中で、1965年の移民法改正によって生み出されたたものだ 。

アジア系アメリカ人の中には、世間の求めるモデルマイノリティ像に自分が当てはまらないことから悩み、自殺する人も少なくない 。

社会に出て成功した人たちも、女性が直面する「ガラスの天井」ならぬ「竹の天井」があると言われている。非常に成功していると言われるアジア系アメリカ人でも、企業や組織のトップになる人は男性でも少ない。女性のアジア系アメリカ人だとさらに少なくなる 。

フォーチュン500社のうち、77.2%の企業はアジア系アメリカ人が取締役レベルにいない。そして500社の取締役のうち、アジア系アメリカ人は2.6%しか占めていない。

ジェリーヤン

Yahooの共同創業者であり元最高経営責任者のジェリー・ヤン氏。彼のように企業や組織のトップになるアジア系アメリカ人は本当に少ない。

Reuters/BRENDAN MCDERMID

私が受講している人種のクラスで、白人のクラスメイトがモデルマイノリティについてこういう見方を示した。

「アジア人は自分たち白人の地位を脅かさないが、マイノリティの手本として、よく働き、学び、マイノリティでも努力すれば活躍できることを示すことで、逆に黒人たちの努力が足りないことを示している」

今の人種ヒエラルキーで、アジア人は比較的良い地位にいるように見えるが、それは結局、白人優越主義の中で“生かされている”状態とみることもできる。「ハードワークで成功した」と思っている人の存在は、結果的に黒人の抑圧に利用されることになる。

冒頭に述べたセーラームーンや広告に登場する白人の多さは、私たちが無意識に「白人」を最も理想的な「人種」と考えている現れではないだろうか。それを受容し賞賛している私たちは無自覚に「白人優越主義」を強化し、「モデルマイノリティ」として振る舞おうとする。そのこと自体が黒人差別だと私は考える。

今私たちが何もしないことは、フロイド氏が白人警官に首を押さえつけられて路上で殺されたとき、見張りをしていたアジア系警官がしていることと同じことかもしれない。

白人優越社会の中で「生かされて」きたアジア系としての日本人として、私たちには今何ができるのか、改めて考えるときではないかと思う。人種は「社会的につくられたもの」であって、私たちの意識や考えが変われば社会は変わるからだ。

(文・鎌田華乃子)


鎌田華乃子:11年間の会社員生活で社会問題解決のための市民社会の重要性を痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学、行政学修士のプログラムを修了。卒業後ニューヨークの地域組織でさまざま市民参加の様々な形を学んだ後、2013年帰国。2014年コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンを立ち上げ、ワークショップやコーチングを全国で行った。現在はピッツバーグ大学社会学部にて博士課程在籍中。

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