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- アマゾンは2020年6月26日、自動運転ベンチャーのZoox(ズークス)を買収すると発表した。
- アナリストは、この買収は配送能力の拡充やコスト効率など、様々な面でアマゾンを後押しする可能性が高いと評価している。
- アマゾンは取引額の詳細は明かしていないが、報道によれば、買収額は10億ドル以上の規模だと見られる。
アマゾンは6月26日、自動運転のベンチャー企業ズークスを買収すると発表した。これにより同社は、新たに自律走行車の分野に参入することとなる。
The Informationによると、取引額は10億ドルを超えると見られているが、アマゾンは取引額の詳細については明らかにしていない。
アマゾンは今回の買収について公式ブログの中で、ズークスの技術を活用する計画に関する詳細を一部明らかにした。そのブログによれば、ズークスのアイシャ・エバンス最高経営責任者(CEO)とジェシー・レビンソン最高技術責任者(CTO)ら経営幹部は、今後もズークスを独立した事業として率いる。
アマゾンのグローバルコンシューマービジネス担当CEOのジェフ・ウィルケは声明の中で、「ズークスは世界クラスの自律走行車による配車サービス体験を思い描き、発明し、設計まで行おうと力を尽くしています」と述べ、「ズークスは私たちアマゾンと同様、イノベーションと顧客に対し情熱を燃やしています。ズークスの才能あるチームが今後数年のうちにビジョンを実現できるよう、私たちも喜んで協力したいと考えています」と続けた。
アマゾンはズークスを獲得することで、配送能力の拡大や新たなM&A戦略といった様々な分野において可能性が広がるとアナリストは見ている。今回のアマゾンによるズークスの買収を、5つのポイントから見ていこう。
配送網・配送能力拡大への「布石」
アマゾンはズークス買収によって独自の配送網を拡大したい考え(写真はアマゾンの物流センターで待機する配送車の車列)。
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「配送網を拡大できるという点が、アマゾンにとってこの買収の最大のメリットでしょう」と、ループ・ベンチャーズの業務執行役員、アンドリュー・マーフィーは言う。アマゾンが物流業務のさらなる自動化を追求していることは周知の事実だ。ズークスの自動運転技術が加われば、究極的には人間のドライバーの必要性をなくし、物流の自動化に一役買うことができる。
「アマゾンは配送で第三者に頼りたくないと明言していますから、今回の買収は同社の取り組みとしては理にかなう前進と捉えられます」と、マーフィーは述べている。
ループ・キャピタルのアナリスト、アンソニー・チュクンバによれば、今回のズークスの買収は、アマゾンがいずれすべてのプライム会員に対して当日無料配送を実現するための「布石」だという。
またチュクンバは、自動運転による配送車を広範囲に配置するうえでは技術的・規制上の課題が残るが、ズークスの根底にある技術は、アマゾンの配送能力とコスト効率を飛躍的に押し上げる可能性があると述べている。
「アマゾンは『ラストワンマイル[訳注:物流の最終拠点から顧客へ商品を届ける最後の区間のこと]』の配送能力をさらに高める必要があると考えているのです」とチュクンバは指摘する。
アマゾンにとっては何十億ドルもの節約に
投資会社R・W・ベアードのアナリスト、コリン・セバスチャンは、6月26日に発表した文書の中で、ズークスのチームによる「長年に及ぶ研究開発」や「何十億ドルもの」物流コストを節約できることを考えれば、10億ドルという買収額は破格の買い物だった、と指摘している。
ズークスの高度なハードウェア・エンジニアリング、電気バッテリー技術やその他の自動化ソフトウェアにより、アマゾンは自律走行車分野で2、3年は先へ進むことができるだろう、とセバスチャンは言う。
また、アマゾンとズークスがタッグを組めば、マーケットシェアを伸ばしているUberやアルファベット傘下のウェイモなどへの対抗勢力になり得るだろう、とも述べている。
モルガン・スタンレーのブライアン・ノワクは今年5月に発表した声明の中で、アマゾンはズークスを買収したことで独自の第三者物流(3PL)ネットワーク構築という取り組みを「自然な形で拡張」したことになり、これによって同社は年間200億ドルの配送費を節約することになるだろうと述べている。
さらなる大型買収が続く兆し
アマゾンは2017年にホールフーズ・マーケットを137億ドルで買収した。
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アマゾンにとって今回の10億ドル超でのズークス買収は、2017年に137億ドルで買収したホールフーズ・マーケットに次ぐ大型買収案件である。
しかし、D.A.ダビッドソンのアナリスト、トム・フォートは、今後アマゾンにとって、この規模の買収は標準的な水準になる可能性もあると指摘する。
アマゾンは今や時価総額1兆ドルを超える巨大企業へと成長を遂げたため、さらに大規模な取引をして意味があるのは、買収によって自社の事業に有意義な影響をもたらす場合に限られる。
「アマゾンが目に見える変化を起こすためには、これまで以上のことをしなければならない」とフォートは指摘する。
先のセバスチャンはレポートの中で、アマゾンがM&Aで高い実績を挙げていることは注目に値すると述べている。アマゾンはこれまでも、買収した企業に経営の独立性を持たせてきており、お互いに協力し合える部分でのみ提携するというスタンスを取ってきている。
Twitch、Ring、Zappos、Kivaとはこのアプローチで成功した好例だ(ただし、中国のオンラインショッピングサイトJoyo.comのように、うまくいかなかった例もある)。
配車サービス、フードデリバリー…他市場への野望
ズークスを買収したことにより、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが自動車業界全般に並々ならぬ関心を寄せていることが再認識された。ベゾスは以前従業員に対し、今いくつものイノベーションが起きている自動車業界には「強い関心を寄せて」おり、ぜひとも「参入したい」分野なのだと語っていた。
今回のズークスの買収は、最近では自動運転のAuroraや電気自動車メーカーのリビアン(Rivian)といった自動車関連のスタートアップ企業への出資に続く取引だ。
モルガン・スタンレーのノワクはレポートの中で、アマゾンはズークスを獲得したことで配車サービスやフードデリバリー業界へも参入する可能性があると述べている。例えばプライム会員に対して配車サービスの割引特典などを付ければ、プライム会員を増やす起爆剤になり得るとノワクは見ている。
実際アマゾンは、ズークスの買収を発表した公式ブログの中で、「自律走行車による配車サービスという彼らのビジョンを実現するために我々は協力する」と宣言している。
リビアンのジム・ハケットCEO。
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エネルギー効率向上とダイバーシティ改善
ループ・キャピタルのチュクンバによると、ズークスの買収は主にアマゾンの配送能力の向上を目的として行われたが、同社のエネルギー効率の向上やマネジメント職のダイバーシティ強化という副次的効果をもたらす可能性もある。
ズークスはゼロエミッション車をつくることをビジョンとして掲げているが、これはアマゾンの「2040年までにカーボンニュートラル[※訳注:ライフサイクル全体で見た時に、二酸化炭素の排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロの状態になること]を実現する」という目標とも足並みが揃うものだ。
アマゾンは6月25日、シアトルの屋内競技場キーアリーナを、昨年同社が共同で立ち上げた「気候変動対策に関する誓約」イニシアチブにちなみ、気候誓約アリーナ(Climate Pledge Arena)に改名すると発表している。
また、ズークスのCEOは黒人女性であることから、経営の上層部に女性や有色人種がほとんどいないことで知られるアマゾンに、いま最も必要とされる「ダイバーシティ」をもたらすことになるとも考えられる。
[原文:5 key takeaways from Amazon's $1 billion acquisition of self-driving startup Zoox]
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)