ペットボトル以外のプラスチックゴミは、燃えるゴミとして処理されることが多い。
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サントリー、東洋紡、レンゴーらを中心とした、プラスチックをバリューチェーンとする企業ら12社は6月30日、使用済みプラスチックの再利用技術の開発を目的に、「株式会社アールプラスジャパン」を設立することを発表した。
アールプラスジャパンは、植物由来のプラスチック製造に向けた研究開発を行っている米アネロテック社が持つ使用済みプラスチックからプラスチックの原料を再生産する技術開発を支援。
2027年までに商業プラントを建設し、新技術を使った使用済みプラスチックの再利用を実用化したいとしている。
アールプラスジャパンの設立記者会見の様子。前列の3人が、左からレンゴーの大坪清社長、サントリーの新浪剛史社長、東洋紡の楢原誠慈社長。
新会社設立の声掛け役となった、サントリーHDの新浪剛史社長は、
「プラスチック問題は、先送りのできない世界的課題です。アールプラスジャパンは、使用済みプラスチックのリサイクルについて、技術の芽を育み、花を咲かせる会社です。
現在、使用済みプラスチックの多くは、熱エネルギーとして再利用されています。これを熱利用ではなく、プラスチックの素材として効率的に再生する。そのような新技術を実用化に向けて支援していくのが、この会社の重要な仕事です」
と話した。
日本のプラスチックリサイクル率85%の罠
日本における使用済みプラスチックの排出内訳。約900万トンのうち、約6割にあたる524万トンが発電用の燃料として消費(熱利用)されている。
スーパーで販売されている食品のトレイやそれを覆うフィルム。ちょっとした商品の個別包装など、一度使われただけですぐに捨てられてしまう「ワンウェイプラスチック」の使用量が、日本は世界で2番目に多い国だと指摘されている(プラスチック資源循環戦略)。
近年、環境中に広がったプラスチックの微粒子(マイクロプラスチック)による環境への悪影響の問題や、プラスチック原料である石油の枯渇問題などから、これまでにないほどプラスチックゴミの削減や再利用に対する機運が高まってきている。
7月1日にレジ袋の有料化が開始されるのも、その一環といえるだろう。
日本の使用済みプラスチック量は年間約900万トン。
このうち、8割以上はリサイクルされているとしながらも、実際にプラスチック製品として再利用されているのはごく一部だ。
汚れてしまったワンウェイプラスチックなどを高品質のプラスチックとして再生させるには、細かく選別したり、不純物を取り除いたりといった余計なコストがかかってしまう。
そのため、廃プラスチック全体の約6割は、火力発電所の燃料にする「サーマルリカバリー」という形式で消費されてしまっているのが現状だ。
「プラスチックで海を汚さない」という観点から考えれば、確かに環境負荷は下げられるといえるかもしれないが、燃料にしてしまうと、結局、資源は減少の一途をたどってしまうことになる。
SDGs(持続可能な開発目標)の観点から考えると、資源はできる限り再利用できたほうが好ましい。この点から、サーマルリカバリーをもって「リサイクルをしている」という日本の姿勢は、海外からの批判にさらされることも多かった。
今回設立された新会社「アールプラスジャパン」では、アネロテックの技術開発を支援することで、これまで火力発電所の燃料として消費されていた使用済みプラスチックの、文字通りの再利用を目指すとしている。
さまざまなプラごみをまとめて、原料を再生成
アネロテックの新技術では、プラスチックを再利用する際の工程が一つ少ない。その分、使用済みプラスチックを再利用する際のエネルギーコストも抑えることができるという。
アネロテックは、2012年からサントリーと共同して植物由来のペットボトル開発に取り組んできた、アメリカのバイオベンチャーだ。
アールプラスジャパンの社長に就任した横井恒彦氏(サントリー役員)によると、この植物由来ペットボトルの開発の過程で、ペットボトル以外の使用済みプラスチックを用いても、エチレン、キシレンといったプラスチックの原料が製造できることがわかってきたという。
「これまでも、使用済みのペットボトルをペットボトルに戻す(再利用する)手法の開発は進められていました。今回の新技術は、さまざまな性質のプラスチックが混ざった状態から、プラスチックの原料を再生成できることや、そのときの環境負荷などのロスが少ないことが特徴として上げられている」
横井氏はアネロテック社の新技術に対する期待をそう語った。
さまざまなプラスチック製品を原料に戻し、再び製品にするイメージ。このとき、ロスが非常に少ない点が、アネロテックの技術の特徴だとしている。
出典:アールプラスジャパン設立記者会見資料
今後、使用済みプラスチックを再利用するための前処理で必要となる処理や、日本の使い捨てプラスチックの組成に合った技術開発(触媒)の検討を進め、2027年の実用化を目指すという。
最終的に、アールプラスジャパンはアネロテック社が開発した新技術のライセンスを保有。使用済みプラスチックを処理するプラントにライセンスを貸し出すことで、利益を得る構造になる展開を見据えている。
なお、今回、アールプラスジャパンの設立に関わった全12社は以下の通り。今後も広く出資を募り、現段階ですでに住友化学などが検討を進めているという。
【共同出資会社】
サントリー、東洋紡、レンゴー、 東洋製罐グループホールディングス、J&T環境、アサヒグループホールディングス、岩谷産業、大日本印刷、凸版印刷、フジ シール、北海製罐、吉野工業所
(文・三ツ村崇志)