撮影:西山里緒
コロナショックによる「在宅シフト」で働き方が大きく変わろうとしている。
経営層に改めて気づいた課題を聞くシリーズ「在宅シフト」。10回目はメディアプラットフォーム「note」を運営するnote代表取締役CEOの加藤貞顕さん。
noteは6月25日、在宅勤務をベースとした「フレキシブル出社制度」を無期限で導⼊すると発表した。新型コロナ禍で多くの企業が「出社か在宅か」の間で揺れる中「恒久的に」在宅勤務の体制を整える方向に舵を切った決断の背景を尋ねた。
理想はいつも2〜3割出社
noteが2020年6月に開設したイベントスペース「note place」。「ここなら“疎”に打ち合わせすることもできます」(加藤さん)。
提供:note
2月下旬からリモート推奨をして、3月下旬から、原則在宅という方向に切り替えました。ただ新型コロナ前から、エンジニアやデザイナーを中心にフルリモートで働いている社員はいたんです。それぞれ、青森・福岡に住んでいました。
コロナ禍の期間に20人近くの社員が入社してきて、そのうち6人は採用から入社まですべてフルリモートで受け入れました。社員数81人なのでなかなかの比率ですよね。
その期間はオフィスチェアを社員の自宅に配送したり、月1万円の在宅勤務手当を出すことにしたり、いろいろと工夫もしていたんですが、その結果「意外とできるな」と。そこで、今回「恒久的にリモート許可」というリリースを出したんです。
スペースのことを気にしなくなったので、情報共有もしやすくなりました。例えばnoteの新しい機能について議論する「カイゼン会議」はプロダクト全体の動きや意思決定の基準が見えるため、出たがる社員がたくさんいたんです。
今までは会議室のキャパシティ上、人数制限をかけなくてはならず、床に座って聞く社員もいたくらいなんですが、オンラインで実施すればその心配もありませんしね。
全体として見ると、常に2割から3割が出社しているくらいの状態が理想だと考えています。そうすると、オフィス占有率が20〜30%ぐらいになるので、ソーシャル・ディスタンスも取れていいんじゃないかと。
忖度NG、気持ちを「察してもらおう」とするな
自宅から全社向けの全体会議に参加。イスやマイクにもこだわっている。
提供:note
仕事をオンライン化するにあたって、一番大切なことは裏工作や派閥のないオープンな空気です。だから今回、社員にははっきりと「忖度はやめましょう」と宣言しました。
意見があれば、全て言語化する。気持ちを察してもらう、という考え方はやめる。Slackに「え、そうだったんですか……」とだけ書いて周囲を不安にさせるような人、いるじゃないですか? ああいうのもなしです。デジタル上に全ての情報があることが、リモート成功の大原則だからです。
もちろん、そのためにはお互いにはっきりと言い合える関係性を作っていくことが大事です。
だから入社時のオンボーディングは特に気を遣っています。入社した人には、オンラインでのウェルカム・ランチを必ず設けていますし、ミッション・ビジョン・バリューについて代表の僕と対話するオンラインミーティングも実施しています。
気心を通じ合うには、雑談の時間も重要ですよね。とはいえ、社長に対していきなり「雑談したいんですけど、いいですか?」とは言いづらいじゃないですか。だから毎週、一定の時間帯を「なんでも相談していい時間」と決めて、Slack上で予約を取れるようにしています。その時間帯は何を聞きに来てもいい。
ゲームの話をしにくる社員もいますし、資産運用の相談にくる社員もいます(笑)。
会議も“超・効率化”。ツールは使いこなせ!
「画質・音質・通信環境はすごく大切」と加藤さん(写真はnote placeでの配信の様子)。
提供:note
情報がデジタル上にすべてあってオープンに共有されていないと、全員が生産的に働けません。通信環境(ネットの速度、音質、画質)を良くしたり、デジタルツールを活用することも重要です。noteではこんなツールを使ってます。
- 会議の議事録:Google Docs
- 会議スケジュール共有:Googleカレンダー
- 会議のリマインド:Zapier(ザピアー、タスク自動化ツール)
- ホワイトボード:miro(マイロ)
- 情報共有:社内Wiki(Crowi)
会議の仕方はこうです。まず、スケジュール共有はGoogleカレンダー。アジェンダはGoogle Docsでテンプレートを作っておけば、Zapier(ザピアー)で毎回URLが自動生成されて、Slackに通知がいくようになってます。
会議の始めの5分間は、みんなでそのアジェンダを読み込み、無言でコメントを入れます。その後から議論を始める。全員に議題が行き渡った状態で議論するので、会議時間も短くなりました。
ブレストをしたり図を書きたいときはmiro(マイロ)を使います。
この間、経営会議をオンラインでやりました。いつもは温泉旅館で集まって、朝から晩まで議論する合宿形式なんですが、今回はそれができなかったので。
気分転換にはピアノを弾いている。お気に入りのアーティストはバッハ。
提供:加藤貞顕
オンラインだと、濃い情報のやり取りができないかな?と思ったんですが全く問題がなかった。ずっと真剣に議論しているので、休憩時間に入るともう力尽きて、ベッドに横たわってしまうんです。ここまでできるのもリモートならではですよね。
こう振り返ると、noteはやっぱりITリテラシーの高い人が多い気がします。まあリテラシーと言っても、Zoomが使える、Google Docsが使える、良い機材を使う、そんな程度のことなので、そこまで難しいことではないと思うのですけれど。
資料は箇条書き、ラフは手書き
「すばやく試そう」という呼びかけを定期的にSlackのbotで流している。
提供:note
もう一つ、リモート成功のための工夫がありました。これは以前からいっていたことなんですが「すごい資料を最初から作らない」ということです。
綺麗なドキュメント・大作パワポ・作り込んだデザインラフは禁止。提案は箇条書き、ラフは手書きで、その代わりなるべく早めに出すように伝えています。
まず上司に確認したいことは、内容と方向性でしょう。そのためのプレゼン資料を作り込む必要はないですよね。
もし、時間をかけて作り込んだ上で「方向性がまるで違う」となったら、時間の無駄じゃないですか。それだけで効率が半分以下に落ちてしまう。生煮えの状態でもすばやく出す。それをすぐ上長が判断する。その意識を社内でも呼びかけています。
noteでの仕事を進めるにあたっての注意点をまとめたもの。
提供:note
議論が煮詰まったときも、僕や深津さん(noteのCXOでTHE GUILD代表の深津貴之さん)へSlackでいきなり呼びかけて相談してもらってもいいんです。とにかく溜め込まずに、問題があればスピード感をもって解決していきたい。
一方で、議事録は大切にしています。その場にいなかった人でも分かるように、ほとんどの会議の内容は後から誰でも遡って見られるようにしています。最初は面倒かもしれませんが、結果としてそちらの方が効率が良いんですよ。
会う意味は大きくなっている
在宅シフトで、料理にも力を入れるように。パンやいちごジャムまで手作り。
提供:加藤貞顕
フルリモートで入社までできることが分かったので、地方や海外に住んでいる社員の採用も活発になっていくと思います。
リモート業務のメリットばかり語ってきましたが、とはいえ、会うことの意味はますます高まっているとも思うんです。会ったらより仲良くなれるということもあるし、話が早いこともあります。
それに自宅の構造や家族との兼ね合いで、オフィスで仕事がしたいという人もいます。だからオフィスはやっぱりあった方がいいんじゃないかなと思うんですよね。
現在、東京・青山にオフィスとイベントスペースがそれぞれありますが、このスペースは今後も残していきます。今社員がどんどん増えていて、全員が出社するなら増床が必要なペースなんですが、2〜3割しか出社しないとなれば、その必要もないですし。
いまの4倍は厳しいかもしれませんが、3倍ぐらいの人数までなら受け入れられそうです。一番大切なのは「業務の成果を出すこと」。リモートでも出社でも、より成果を出せる方法を選べる制度にしています。これからも社員が仕事しやすい環境を柔軟に作っていきたいですね。
(取材・文、西山里緒)