レジ袋有料化を伝えるスーパーのポスター。
撮影:吉川慧
本日(7月1日)から、全国の小売店でプラスチック製レジ袋の有料化が義務付けられた。
国はプラスチックごみ削減のために「マイバッグ」の使用を推奨するが、化学メーカーなどが構成する団体は「レジ袋は環境に負荷をかけるが、マイバッグは負荷をかけないといえるのか」と問いかけている。
レジ袋の歩みは、日本の経済成長の歴史
1975年の銀座・中央通りの風景。
Keystone/Hulton Archive/Getty Images
有料化が義務付けられる買い物袋について、報道ではしばしば「プラスチック製のレジ袋」という表現が用いられる。
現在「レジ袋」「ビニール袋」と呼称される袋のうち、そのほとんどはナフサ(粗製ガソリン)を原料とするポリエチレンなどからつくられている。例えば、ポリエチレンを完全燃焼させた場合、理論上発生するのは二酸化炭素、水、熱エネルギーとなる。
日本ポリオレフィンフィルム工業組合によると、レジ袋の原型が日本で発明されたのは1962年。それまでは小売店でもらえる「買い物袋」といえば紙袋。雨に濡れると破けやすく、耐久性も低い。取っ手がないものも多く、持ち歩くのには不便だった。
一方、レジ袋は耐久性があり、かさばらず、何より軽い。こうした利点から広く用いられるようになった。1970年代から普及し、日本の高度経済成長とともに歩んできた。
プラごみで海洋汚染、課題は「レジ袋」以外にも
近年はEUを中心にカナダ、アメリカなどにレジ袋の規制が広がっている。
「丈夫」で「安定」しているレジ袋は、自然環境下では分解されにくい。海や陸を問わず、野生動物が餌と間違えて食べてしまう被害も心配されている。
もちろん、この問題はレジ袋に限らずプラスチック全般に言えることだ。プラスチックによる海洋汚染は地球規模で広がっている。
5年ほど前には、中米コスタリカ沖でテキサスA&M大学の海洋生物学調査チームが、鼻にストローの刺さったウミガメを救助した様子が大きな話題になった。スターバックスをはじめファストフード企業では、紙製ストローの採用も進む。
ウミガメの鼻に詰まったストローを除去する映像(※ウミガメが出血する映像が含まれます。閲覧に注意してください)
2019年5月末、政府は「プラスチック資源循環戦略」でレジ袋有料化の方針を明記。同年6月のG20大阪サミットでは、「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」とする大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが共有された。
2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック大会で、世界に向けて日本の資源・環境問題への取り組みをアピールする思惑もあったとみられる。
国は2030年までに使い捨てプラスチックごみ排出量を25%削減することを目指しており、レジ袋有料化がそれに役立つと考えている。
特に、小泉進次郎環境相は、有料化が海洋プラスチックごみの削減に寄与するとみているようだ。
大阪ブルーオーシャンビジョンをまとめた日本が、今後も引き続きこの問題についてリーダーシップを発揮し、2050年に魚より海洋プラスチックごみのほうが多い海となることを防いでいきたい、そう思っております。具体的なアクションを少し挙げると、日本は来年レジ袋を有料化します。
(小泉環境相、COP 25内外記者会見録 2019年12月11日)
参考まで、海洋プラスチックごみの状況について、環境省の漂着ごみモニタリング調査結果(全国10地点)をみると、プラスチックごみの内訳では重量・容積ベースとも漁網・ロープが高い割合を占めている。個数ベースでは飲料用ボトルが多い。意外なことに、ポリ袋は重量、容積、個数ベースでは1%未満だった。
出典:環境省
化学メーカーなどで構成する一般社団法人「プラスチック循環利用協会(PWMI)」によると、2017年の廃プラスチック総排出量は903万トンにのぼる。ただ、経産省の委託調査によると2017年度の素材別容器包装使用量(49万7538トン)のうち、プラスチック製の袋は8万1867トンだった。廃プラスチックのうちレジ袋が多くを占めるとまでは言えないようだ。
出典:経済産業省
「マイバッグのほうが環境に悪い」場合も…?
レジ袋とマイバッグ。
撮影:吉川慧
SDGs(持続可能な開発目標)の観点から考えれば、できるだけ環境に負荷をかけない製品を選ぶこと、3R(リデュース、リユース、リサイクル)運動に代表されるように、限りある資源を無駄にしない試みは重要だ。
一方で、「マイバッグ」の利用推奨が本当に環境に利するのかと疑問を呈する声もある。PWMIは「レジ袋は環境に負荷をかけるが、マイバッグは負荷をかけないといえるのか」と問題を提起している。
環境にできるだけ負荷をかけない製品、有限な資源を無駄にしない製品を選択して使うことは、そのとおりであって、異論のないところです。しかしここで大切なのは、レジ袋は環境に負荷をかけるがマイバッグは負荷をかけないといえるのかを科学的に検証することです。
(LCAを考える 「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例 [一般社団法人プラスチック循環利用協会])
LCA(ライフサイクルアセスメント:ある製品が製造されて破棄されるまでに、外部環境にどのような影響を与えるのかを評価する方法)の視点から、レジ袋とマイバッグの環境負荷を考えるアプローチもある。
「レジ袋とマイバッグのLCAの前提条件と評価結果」と「袋使用時の買い物回数とCO2排出量の関係」。
出典:日本LCA学会研究発表会講演要旨集
レジ袋とマイバッグの1枚あたりのCO2排出量を算出・比較した日本LCA学会の研究発表会における報告「環境配慮行動支援のためのレジ袋とマイバックのLCA」によると「買い物回数50回未満ではレジ袋より負荷が大きいが、それ以降では常にレジ袋よりも小さいCO2排出量で買い物をすることができる」としている。
つまり、マイバッグで地球環境に貢献するならば、できる限り耐久性が高いものが好ましいと言えるだろう。
ただ、マイバッグもメンテナンスが必要だ。衛生面を考えれば、一定の使用ごとに洗濯したり、買い換えることも考えられる。新型コロナ禍では、買い物袋を清潔に保つことも求められるだろう。
PWMIでも、この調査結果を紹介しつつ「『マイバッグは環境によい』『レジ袋は資源を無駄遣いしている』と単純にはいえない」「マイバッグであろうとレジ袋であろうと、使い方によって『環境にわるい』『資源を無駄遣いしている』場合がありうる」としている。
「環境に配慮した行動」って、結局なに?
経産省では「普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとすることを目的としています」と、レジ袋有料化が地球環境に役立つと説明している。
(プラスチック製買物袋有料化 2020年7月1日スタート - 経済産業省)
一方で、「海洋生分解性プラスチックの配合率が100%」「バイオマス素材の配合率が25%以上」など、植物由来原料のレジ袋などであれば有料化の対象外となる。レジ袋の有料化は何のためなのか、国の政策の根幹や一貫性がいま一度問われそうだ。
ひと口に「環境に良い」と言っても、具体的にどのように地球環境に貢献できるのか検証することが重要だ。それぞれのライフスタイルで、最も適切なスタイルを考える必要もありそうだ。
消費者としては「とにかく環境に良さそうだから」と思考を放棄せず、「自分にとっては、どのような行動が環境によいのか」と科学的、合理的に考えることが、本当の意味でエコロジーを考える第一歩となるだろう。
(文・吉川慧)